第18話:新たな挑戦
雲ひとつない青空。そんな中、ジャストロはロミと共に村役場の中でジーク幻将軍と向き合っていた。なんでも、この2人に名指しでお声がかかったために行かざるをえなかった。ジャストロとしてはいつもフレード、ルナク、シル達と行動を共にしてきていたため、新しく加わったロミといるのはなんだか新鮮だった。
「2人を呼び出したのは、ちょっと重要な用事を頼みたくてね。それに、ジャストロ君にはとても関係のあることも含まれているんだ」
ジーク幻将軍がいう関係のあること…何か全く分からない…しかし、自分にとって関係があるなら喜んで受けたい。ジャストロはすぐに頷いた。
「あたしはなんで呼ばれたんですか?」
確かに、ロミはまだ村に来て日が浅いのに、なぜ呼ばれたのかジャストロにもわからない。
「うん。それは、やっぱりジャストロくんのサポートができる子だからだね。ロミちゃんは短剣で近距離も遠距離も扱えるからね。援護も加勢もできて頼りになるからだよ」
「エレは呼ばないんですか?」
ロミはやはり相棒のエレが呼ばれなかったことに少し不満らしい。
「うん。それはね、エレちゃんがいないと、村に残ってる3人の狩りが上手くいかないからなんだ」
上手くいかない?ジャストロ1人抜けただけでそんなことがあるんだろうか…
「実は今朝、エレちゃんを呼び出してここにいてもらって、3人だけで狩りをしてもらったんだ。そしたら、最初はよかったんだけど、途中からおかしくなってね。フレード君とルナクちゃんの息が合わなくなったんだよ」
「「えっ!?」」
2人は同時に驚いた。特にジャストロは、ずっとあの3人と共に狩りをしていたために余計に驚いた。
「理由としては、ジャストロ君みたいな冷静に狩りをできる人が1人減っちゃうとバランスが崩れるんだよ。ほら、その狩りでは、そういう狩人ってシルちゃん1人だけでしょ?」
そう考えてみればそうだ。ロミも前にみんなでした狩りを思い出し、自分を含めた役割分担を思い出す…
「そこで、冷静であるエレちゃんを後から行かせたんだ。そうしたら。最初は落ち着かなかったけど、どんどん連携が取れてきてね。だから、狩りにおいての役割分担はいきなり変えちゃうと崩れちゃうんだよ」
ジャストロとロミにとっても、新しい仲間と共に狩りをした時は、最初は何も考えないで狩りをして、めちゃくちゃになるだけだった。しかし、役割分担したところ、徐々に連携が取れていった体験がある。
「そえいうことなんだよ。だから、こっちはロミちゃん。あっちはエレちゃんがいてくれたほうがバランスが取れるんだ!」
「なるほど…そういう考えでこういった形にしたんですね」
「納得しました!ちゃんとあたし達のことを考えてくれてたんですね!」
2人はジーク幻将軍の前もった行動に納得すると同時に驚くばかりであった。
「それじゃあ話の核、今回の件なんだけど、明日海沿いのガロ村長の村まで行って欲しいんだ。ちょっと遠いよ」
あそこは確かに遠い。その村は自分たちが普段行うような狩りはあまりせず、海に出て狩りをする「狩漁」という方法で生活していると噂に聞く。そしてもう一つは、新鮮な海の生き物達を食べ放題だとか…この村は、海は一応近くにはあるが、狩ったとしても村に持ち帰るまでに味が落ちてしまう。そんな食材関係からも、村に行けることは2人にとって楽しみであった。
「どうしても書類の処理と、別の村の村長との面談があってね。それが終わってからじゃないと行けないんだ。ガロ村長も時間が限られているからね…あ、僕も後から行くから!行きは気をつけて欲しいな」
「「わかりました」」
「あ、あとね。隣村を通るルートの方が近いから、それでよろしく。それじゃあ、詳しいことは明日話すよ」
ジーク幻将軍は意味ありげなウインクをジャストロに向かって飛ばすと、そのまま部屋を出て行った。
「なにいまの?」
ロミは頭にハテナマークを浮かべるような表情でこちらを向いた。
「あぁ…隣村には、前この村にいた女の子がいて、俺が迷子だったところを助けたんだ。名前はリンカ、だいぶ前に手紙をくれてな」
「へぇ〜、中々やるじゃん!その子、ビックリするだろうね、ジャストロがいきなり来たら」
「あぁ。サプライズだな。リンカの喜ぶ顔が見られれば嬉しい」
「絶対喜ぶって!あたしもその子に会うの楽しみっ!それじゃ、家に帰ろ?」
ロミは立ち上がるとすぐに村役場の外まで歩き出した。ジャストロも慌てて背中を追う。
「先に家帰っててくれ。俺はこの後STCでフレードと待ち合わせてるんだ」
「へぇ、今日は忙しいね。狩りの練習でもするの?」
「ちょっと大剣を扱ってみようかと思ってな…」
「ジーク幻将軍に憧れてる?な〜んて!ま、頑張ってよ!」
ロミはいたずらっぽく笑うと、ジャストロの背中を叩いた。その力強い手の感触は、明日パートナーとして付いてきてくれる心強さを示すように感じた。
ロミと別れ、すぐにSTCへ向かう。中に入るとフレードが待っていた。こちらに気がつくと手を挙げ、存在を知らせた。
「おぉ、終わったか!ジャストロの分の部屋、とっといたぜ」
「ん、悪いな、助かる」
フレードから鍵を受け取ると、それぞれシミュレーションカプセルへと入る。いつも通りカードを挿して場所を選ぶ。今日は武器練習場の大剣項目を選び、練習場は一番下の部屋を選んだ。ここなら別の狩人が入ってくることはほぼない。
ゴーグルをかけてゆっくり背もたれによりかかる…背もたれがゆっくりと倒れ、電子音が一定のリズムを刻む…
電子音が消え、ゴーグルを外して起き上がると、そこはなにもないだだっ広い景色が広がっていた。地面は村のようなレンガ模様の灰色石で覆われており、目の前には様々な大剣が置いてある。まさに大剣の練習のために作られた場所そのものである。隣を見るとフレードが起き上がってこちらに向かってくる。
「すげぇ場所だな!まさにって感じでいいじゃねぇかよ」
「あぁ。じゃあさ早速……くっ…!?」
ジャストロが大剣を引き継ごうとしたところ、なぜか固まった。
「おい、どうしたんだ?なんか忘れもんでもしたか?」
違う…重い!片手剣を使ってきた身としては、この重さは桁違いだった。全身の力を込めて大剣を引き抜き、引きずって移動する。
「だははっ、おいおいなんだよその格好!そんな重い…んっ!?マジかよ…ふんっ!」
腹を抱えていたフレードも、いざ大剣を抜いてみようとしたが、一変、必死な顔で大剣を抜いて地面に下ろした。
「こいつはやべぇな…ジーク幻将軍とか体の構造どうなってんだよ…ふんぬぅぅっ!」
「やっぱ使ってないとダメっぽいな…ふっ!」
2人でどうにかして大剣を操ろうとしていたが、全く言うことを聞いてくれない。必死に大剣を使おうとしている2人の前に、突如として光の柱が立ち上がった。そう、この練習場に新たな狩人が入ってきた合図だ。そこで2人は気がついた。入ってからシステムをロックに切り替えないと、武器練習場はライアス全ての村からログインできてしまう。
そこに現れたのは、水色の髪をした男の狩人であった。全身をしっかり服と鎧で覆い、さらには手袋までしている。また、服は襟を立てており、口元が微かに見えるぐらいであった。
その狩人はゴーグルを外してこちらを見て、多少驚いたが、すぐに元の顔に戻った。
しかも、その狩人は「女」であった。ゴーグルで覆われていて気がつかなかったが、キリッとした目とまつげ、をしており、なにより顔が綺麗であった。凛々しい感じがしたと同時に、睨まれるような嫌悪感も感じた。
「なに…?」
女狩人はこちらをギロリと睨んだ。2人はあまりの威圧感に無意識に目をそらすと、自分たちの大剣練習に戻った。
女は2人を一瞥すると、大剣を一本「片手で」抜き取った。そしてそのまま地面に振り下ろした。地面は豪快にえぐれ、小石が飛び散った。
この女…熟練の大剣使いだ。2人はそう思った。
「あ、あの…」
そしてなにを思ったのか、フレードがいきなり話しかけた。
女は今度は無言でフレードをギロリと睨む。なぜそんなに不機嫌なのか疑問なほどであった。
「お、俺たち大剣初心者で…よければ少し扱い方を教えてもらいてぇところですぜ…!」
巨体のフレードですら声を震わしているほどであった。
「いいけど、あんたら2人が使ってる大剣。それ上級者向けの重いやつだし。初級はこっち。それくらい書物で予習してきてから入って」
この言動に2人はムッとしたが、刃向かったところで相手の大剣に両断される未来しか見えないため、しぶしぶ初級者用の大剣を扱い始めた。
2人で適当に振ったりしている中、女は流れるような身のこなしでどんどん地面をえぐっていく…2人はそんな女に見入っていた。
「あんたら、手が止まってる。大剣使いたいなら死ぬ気で練習して。でも、正しい使い方がわからないんでしょ。さっきから見てると本当ひどい有様」
さすがに口が悪い。ジャストロは我慢できなくなり駆け出そうとした…が、フレードが止めに入った。
「おいおい!怒りたくなる気持ちはわかるけどよぉ、ここは我慢しようぜ!」
「全く…呆れる。あんたがいつも使ってる武器も半人前なんじゃないの…?」
火に油を注ぐような発言をするこの女、もう我慢できなくなり、ジャストロは叫んだ。
「勝負しろ!その口、二度と聞けないようにしてやる…」
「いいけど。後悔しないでよ」
そういうと、2人は大剣練習場から決闘場へと切り替えた。お互い愛用の武器を呼び出し、構える。武器の大きさだけなら圧倒的に女の方が勝っている…が、ジャストロもそれなりの腕前はある。それは観戦者のフレードがよく知っている。
最初に動いたのはジャストロであった。怒りと冷静さがせめぎ合う形で一直線に女に向かっていく。女は無防備に向かってくるジャストロに対し、大剣を軽々と振り下ろした。しかし、ジャストロにとってそれは実は隙を作る作戦で、すぐに避ける。大剣は空を切り、地面を深々とえぐった。先ほどよりも倍以上えぐられており、一発食らったら即死レベルであった。
しかし、やはり隙が大きい。ジャストロは避けてガラ空きになった女の顔に片手剣を薙ぎはらう…しかし、女は地面に突き刺さる大剣を軸にして飛び上がり、片手剣を蹴り飛ばした。そして、ジャストロが体勢を立て直す間に大剣を引き抜いてまた構えをとった。両方とも互角か、あるいは女の方が強くも見えた。
しかし、ジャストロも負けてない。今度は片手剣の隙の少なさと、自身の狩法を存分に生かし、相手の動作が終わる前にどんどんと剣をぶつけていった。もちろん、女にけなされた怒りの分もあり、その怒りの剣先はどんどんと相手を追い詰め、最後に女はバランスを崩して尻餅をついてしまった。そこにジャストの剣が振り下ろされる…
「おぃ!もう終わりだぜ!!」
そう言われてジャストロは我に返った。後ろからフレードが羽交い締めにしてくれたおかげで、なんとか女を斬らずにすんだ。ここはSTCだが、やはり相手の命を奪うのはいただけない。
「…………………………………」
ジャストロは何も言わずに剣をしまうと、そのままゴーグルをつけて帰ってしまった。
「おい!待てって!!…ったく。どうしたんだあいつは」
フレードはよくわからないジャストロにため息をつき、女の方を向いて軽く笑った。
「すまねぇな。アイツが変な意地見せちまって。それと、まだ名乗ってなかったな!俺はフレード。アイツはジャストロっつうんだ。まあ、こんな事なっちまったからもう会わねぇだろうけど」
「私はゼノ…ううん、また会うから。私もちょっと言い過ぎたし、ジャストロ…だっけ。あの剣さばきは明らかに凄かった。今度会ってちゃんと謝りたいし…」
「ん、おぉ、そうか。んじゃまた会いたい事ジャストロに教えといてやるよ。いつがいい?」
「ん、じゃあ、明後日の午後一番がいいかも。無理だったらまた教えて。私は夕方までここにいるから」
「おっしゃ!任せとけ!ちゃんと伝えとくからよ。失礼するぜ」
フレードはそう言い、すぐにゴーグルをし、シミュレーションカプセルへ戻った。
「おい、あいつがまた会ってお礼いいてぇってさ。ゼノっつうんだとよ。明後日の午後一がいいらしいぜ」
「ふん…別にいいけど…」
「怒る気持ちもわかるけどよ、あいつお前の事すげぇっていってたぜ。だから、会っていきなり突き放すようなことすんなよ」
「分かってる」
ジャストロは釘をさすフレードに目を向けないで返事をすると、そのまま家に帰った。
「ったく。大丈夫なんだかなぁ…」
フレードは若干不安になりながらも、ジャストロの背中を追った。
いよいよ明日は海沿いの村への出発…そんな時にこんなに気分を害することがあるというのを不吉に感じながら、ジャストロは家のドアを開け、玄関へと足を踏み入れた…
1日更新なんとかやってます。不定期はやはり読者様に申し訳ないと思い、そう致しました。今回は次話に繋がるための下準備を色々とする回となってますのでよろしくお願いします!