第16話:ライアスの真実
ジャストロ達4人が目をさますと、宇宙船はすでに止まっていた。
「やあ、おはよう。もうライアスには着いているよ」
イトマは笑顔で言った。
「途中で寝ちまったか…思ったより疲れてたってやつか」
フレードはそういい、大きなあくびを一つした。
「よし、4人揃ったところで、僕からこのライアスの事について話すよ。もちろん、4人だけの秘密だよ」
イトマは軽くウインクするとすぐに真剣な顔つきとなった?4人はそのウインクが、秘密を漏らしたら消されることを表しているようにしか思えず、思わず身震いしながらイトマと向き合った。
「まず、君たちが体験したバーチャルリアリティ。あれをシミュレーションカプセルとしてライアスに導入したのは僕だよ」
それについては4人も薄々は感づいていた。しかし、なぜ導入したかは全くわからなかった。
「理由を知りたい顔をしているね?もちろん話すよ。理由は、君たち狩人が絶滅しないようにするためだよ」
「「「「絶滅…!?」」」
「そうさ。実はこのSTCを作る前、狩人の人数が減少傾向にあったんだ。理由としては、ドラゴン相手に生態を確認せずに突っ込む狩人が多くなったってことかな。結果的にそのまま死亡する狩人も多くなったんだ。1日に100人ほど、多い時は200人を超えてたよ」
もちろん、そんな時に生まれていない4人は全く信じられなかった。今は狩人が死ぬのは1日に2〜30人ほどと聞いたこと聞いたことがあったため、100人も死ぬなんてことは考えられなかった。
「それに、ドラゴンの方が狩人よりも進化が早くて、狩人が狩れなくなったっていうのもあるね」
「へぇ〜、そんなことがあったんですね」
ルナクは納得してるのかどうか怪しいが、納得していた。あとで忘れてしまうのがいつものパターンでもある。
「そうさ。それで、狩人がもっと練習できる場を作らなければならないと思ってね。そこで、ちょうど地球で流行ってたVRを、僕がちょっとグレードアップさせたってわけさ」
4人は納得しながらも、この人間はやはり只者ではないと思った。
「続いてだけど、君たちは村にドラゴンが近づかないことを不思議に思わないかい?」
確かに、あんな凶暴なドラゴン達が一切村に近づかないのもおかしい…
「あれも僕が操作したんだ。実は、狩人の減少はドラゴンによる村の破壊もあったんだ。餌が少なくなったからか、ある日を境目に村のドラゴン被害が格段に増えてね」
「これはマズイと思って、村の壁に狩人以外が聞こえる嫌な音波を流すようにしたんだ。それで近づかないってわけさ」
「「「「へぇ〜」」」」
そんなこと簡単にできるのかと4人は思ったが、イトマのような超人ならできるとすぐに納得した。
「あとは聞きたいこと、あったらどうぞ?」
イトマはどこからも死角がないといった風にどっしりと構えた。
「私から…家とかの電気も貴方がやったのだとしたら、どうやって全部の村に送ってるの…」
そこはやはりシルが鋭い質問を飛ばす。しかし、どっしりと構えているイトマは身じろぎひとつしなかった。
「それか。それはね、雷を貯めて送っているんだよ。ライアスに来て電気を貯めるのは難しいことだったよ。でも、このライアスにきて様々な生物を研究してみたところ、電気を貯める生物がいてね。その生物を調べたら役立つものがあってね。そのおかげで電気を貯められる建物を作ることができたんだ。そして、雷は莫大な電気量だから、貯めておけばいつでも全村に送ることなんて余裕なんだよ」
「すごい…」
いつも質問の際は突っ込んで聞くシルだが、今回は驚きとともに汗を流し、納得してしまった。
「じゃあ、なんであの殺人鬼を野放しにしてるんですか…?」
今度はジャストロから質問が飛んだ。
「あぁ。それはもちろん、君たち狩人がどう対処して乗り越えるかだよ」
「でも、イトマさんがやっつけちゃえば簡単じゃないですか?この前も私たちの村で一人命を落としたんですけど」
さすがのルナクもそれはわかっていた。しかし、イトマは口を開くと全く違う質問で返してきた。
「じゃあ、もし君たちの村で裏切り者が出たらどうする?」
4人は謎の質問に黙り込んでしまった。どう答えていいかも全く話からなかった。
「そういうことなんだよ。君達は狩人同士の命の奪い合いなんて考えたことは微塵もないと思うんだ。だからこそ、あのライアス全域に指名手配されている狩人は、誰か別の狩人が捕まえなければならない」
「あと、君たちの様子だと知らないと思うけど、あのジークさんがいる村はとても安全なんだよ。他の村の中には狩人の争いが絶えないような村もあるからね」
4人は押し黙ったままだ。全部の村が仲良く暮らしているだけだと思っていたため、その真実が受け入れられなかった。
「いきなりキツイ話をしてごめんよ。そういうことなんだ。僕が狩人同士の争いを保護しても、結局争いはまた起こるし、そこは僕の力を必要とせずに狩人たちに乗り越えて成長してもらいたい部分なんだ」
確かにそうだ。村での生活を思い出しても、イトマの手の入っている部分。すなわち地球から持ち込まれたものは一部だけで、他の部分はライアス独自のものだ、全てに依存しては狩人は成長できないうえ、むしろ退化しそうな気もする。
「もういいかな…?そろそろ日が沈みそうだし、帰ったほうがいいよ。最後に、僕のことを信じてついてきてくれてありがとう。あんな不審な僕を信じられた君たちなら、きっと今回の体験を生かして強く生きてくれるはずだよ」
イトマは深々と頭を下げた。4人もかなりお世話になった部分が多々あったため、それぞれお礼を言った。
「それじゃあ…っと、ひとつ言い忘れたね。君たち、来夢と宇宙という二人の子と仲良くなったよね」
もちろん覚えている。目の色を変えて話してくる宇宙と、それを怒る来夢がすぐ頭に浮かんだ。
「実はあの二人は…僕と血のつながりがあるんだ!」
最後の最後までイトマは驚かせてくれる…が、あの2人の顔を見たときに誰かに似ていると思っていたため、遅れて合点がいった。
「そして、僕の地球での名前は…海東学だ」
そう、イトマとは、海東学の名前の一部を取って付けたものであった。
「これで本当に僕の話は最後だよ。もう会うこともないだろうけど、楽しい思い出だと思ってくれれば嬉しいな。ちなみに、この事はみんなには内緒だよ!」
イトマはまた軽くウインクをすると、そのまま周りの作業を再開し始めた。
4人もしっかり頷き、宇宙船を飛び出した。
帰りは口数も少なく、それぞれがそれぞれの思いを馳せて村に帰った。
「やぁおかえり。ちょうどよかった!君たちに伝えたいことがあってね」
村に着くとジーク幻将軍が駆け寄ってきた。
「この前の黒いローブの男、殺人鬼ノシュトで間違い無いってことで、注意書きができたから君たちにもあげなきゃと思ってね。これ、読んでおいて」
渡されたのは一枚の紙であった。そこにはでかでかと殺人鬼ノシュトと描かれている。下には黒いローブの男が書かれており、口元のみ晒している。その口元には不適な笑みが浮かぶ。隣には武器が描いてあり、ダガーと見たことのない大ぶりの剣が記されていた。どうやら、この大ぶりの剣で狩人の首や四肢をはねるらしい。さらにところどころに注意書きがあり、ダガーは投げてくることもあり不意打ちが多い・女性ばかり狙うので注意・かなり美形で声も甘いらしいなどと記してある。
4人は先ほどの話を思い出し、このノシュトに対し怒りを燃やしていた。
が、その怒りは二つの声によって砕け散った。
「おーい!こっちこっち!って、これはあんた達の建物だったね」
「そうだな。ロミは少しはしゃぎすぎだな」
遠くから呼ぶ声がし振り向くと、ロミとエレが元気そうに手招きしていた。やはり、ロミはあの時の殺人鬼ではなかった。しかし、念のために本人に面と向かって質問してみた。
「はぁ?そんなわけないでしょ!この注意書きじゃ男だし肌も焼けてないし。それに、あたしがそんなにバンバン狩人の命を奪える女に見える?」
ロミは怒り気味で腰に手を当てて胸を張った。そんな威圧感ある態度から、ロミならそんな女に見えてしまい、ジャストロを除く3は大声で笑ってしまった。ジャストロだけは笑うまいと口をつぐんでいるが、明らかに口元が引きつっていた。
「なっ、なんで!?あたしがそんな女に見えるの?ちょっとエレまで笑わないでってばー…!」
ロミ本人も少しむくれていたが、つられて笑い出してしまった。
よく通る笑い声たちは、村を笑顔と明るさで包むようだった。