第14話:青の星へ(前編)
「じゃあ、これに乗ってくれるかな?」
イトマが指差した物は、まるでシミュレーションカプセルの巨大版のような建物であった。
4人はその大きさと見たことのない建物へ入る不安もあったが、イトマの言う通りに渋々と中へ入っていった。
中は本当にシミュレーションカプセルのようなメカニックな造りになっており、さらに見たことのない小物がいくつかあるといった感じであった。
「こりゃすげーや!」
「おおっ!こんなのはじめてです!」
フレードとルナクは不安も忘れ、室内をあちらこちらへ走り回り、初めて見るものに対して歓声をあげていた。
シルは無言ではあるが、興味津々といった感じで色々と見て回っていた。
ジャストロも自分の見たいものを見るといった感じで、それぞれが個々に見たいものを見るといった感じで室内を一通り楽しんだ。
「よし、準備ができたから出発するよ」
4人が室内を満喫したところで、イトマがそういった。
「どこへ?」
4人が同時にそういった。それもそうだ。地球に行くにしても、なぜ関係のないこんな施設を見せたのか。もしかしてSTCのように地球までテレポートするのか?4人は疑問であった。
そんなことを考えていると、足元からいきなり地響きが聞こえてきた。
「ふせろ!」
ジャストロの声とともに4人は一斉に地面に伏せた。
「あ、大丈夫だよ。この地響きは安全なものだから、地球に着くまでリラックスしててよ」
イトマはそんな4人に対して苦笑するとそういった。4人はイトマが何を言っているのか理解できなかった。
「…!?見て…!」
いきなりシルが窓を指差しながらそう言った。全員が窓を見ると、なんと地面からこの建物が持ち上がっていた。
「なんだこりゃ!?」
フレードが思わず上ずった声で叫んだ。もちろん、他のメンバーも驚愕の顔をしている。
「あはは、これは僕たちの間では宇宙船って呼ばれているんだ。ライアスと地球を行き来する船とでもいおうか」
イトマはまるで気にすることもなく淡々と話を続けた。
船…?4人は船というものを書物でしか見たことがなかった。それに、船といえば水の上を通るもの。空に浮かぶものという認識は全くない。それに、4人が思い浮かべる空を飛ぶものといえば、ドラゴンしか思い浮かばなかった。
やはり、人間という生き物は我々よりもとても頭の良い生物なんだと思い、4人は無意識にイトマを見ていた。イトマはまるで4人の視線など気にも止めず、澄まし顔で新たな準備に取り掛かっていた。
地球に着くまでは、イトマからこの施設の説明が行われた。食べるものも寝るところも、いつもと全く違い、そして無重力という初体験にはしゃぎ、そういった初めての体験に疲れたのか、4人とも早めの夕食をとって寝てしまった。イトマはというと、地球に4人を、地球人としてバレずに送り出す準備と、地球で自分の存在がバレないようにする準備を行っていた。
「さあ、起きてくれるかな!そろそろ着くから最後の準備をしてもらうよ」
イトマはパンパンと手を叩いて4人の起床を促した。4人は昨日疲れたためにぐっすり眠れたらしく、起床はかなりスムーズであった。
「おはよう!いきなりだけど、君たちが地球にいる時は、これを目に垂らしてもらうよ」
イトマが取り出したのは謎の液体であった。
「なんですかそれ?」
ルナクは目をこすりながら問いかけた。
「これは、今の地球で使われている情報と通信のための物かな」
「でも、それってただの液体に見えますけど?」
ルナクはよく分からないため、首をかしげていた。
「まあ、物は試しだよ。とりあえず両目に一滴ずつ垂らしてみて」
言われた通りに4人とも目に垂らしたところ、いきなり目の前に文字が浮かび上がった。
もちろん、室内はパニック状態。
「まぁまぁ、落ち着いてよ。それが地球では当たり前に使われているんだ。その液体の中にはシステムが詰まっていて、目と脳が繋がっているから脳で操作した情報を、そうやって目に移すことで自分の思う通りに動かせるんだ。今回は地球ではこれをつかって僕が君たちに指令を送るときがあるから、それに従ってもらえるかな?」
そう考えると、このシステムは安心感がある。ジャストロ達は地球について無知のため、こういった補助はありがたい。
「いきなり驚かせてごめんね」
イトマは申し訳なさそうに軽く頭を下げた。
「でも、この目薬、中に変な液体とかイタズラで入れたら危ないですよねー」
ルナクが何気なく言ったが、イトマはすぐに返答した。
「それ、中に違う液体を入れると黒く濁るんだよ。だから、絶対に事故は起こらないんだ」
「ほへぇ〜じゃあ、中身を全て入れ替えたらどうなるんですか?」
「今度は容器が黒くなるんだ。大切な目を守るための対策はちゃんとしているよ」
4人はこんな細かいところまで高性能であることに驚いた。
「じゃあ、次はこれに着替えてもらえるかな?」
イトマが取り出したのは、白に薄い緑のラインの入った服であった。
「これは?」
「学生服というものだよ。地球では君たちくらいの年代の子は学生と呼ばれていて、みんな知識をつけるために学校っていう建物に半日以上集まって知識をつけるんだ」
「半日以上か…俺たちの狩りと一緒だな」
ジャストロは感心した。しかし、狩りをする時間が少なくて、衣食住はどうしているのであろうか…そんな心の内が聞こえたのか、イトマが口を開いた。
「あ、ちなみに地球では、狩りの存在はとっても小さなものになってしまっているんだ。それと、食べ物はみんなお店で買えるしね。お金は、学生の時につけた知識を使って働いてもらうんだ」
「えっ!?」
またまた4人は驚いた。まさか、自分たちの行っている狩りがほとんど行われていないとは…狩り以外の生きる手段があることに疑問と不安を抱きながら、4人はそれぞれ更衣室で学生服へと着替えた。
そうこうしているうちに、宇宙船は地球へと着陸の準備を始めた。
「揺れるよ!気をつけて!」
イトマが叫んだ途端、宇宙船がかなり揺れ始めた。
4人はバランスを崩さないようにしっかりと近くのものにつかまり、着陸を待った。
その後、地面が大きくと鳴り、そして静寂が訪れた。
「よし、着いたよ」
イトマが言う。そこは、広い建物の中だった。殺風景で冷たく、ライアスとは全く別の土地に来たということを肌で感じさせてきている。
「よし、とりあえず外に出てみようか」
イトマと共に外に出てしばらく歩いていくと、そこには見たこともない世界が広がっていた。STCのような高い建物が森の木のようにいくつも立ち並び、人間は鉄のドラゴンのようなものに平然とした顔で乗っている…人々は目の前で指を動かし何かをしている。正直、4人ともまるで言葉が出ず、目が点のようになっていた。
「これが僕の故郷、地球だよ。君たちとは全く違うでしょ?これが僕たち人間の日常なんだ」
イトマは静かに言った。正直、4人はこの世界に足を踏み入れるのがかなり怖かった。自分たちとは姿形は似ていても、生活や使っているものが何一つ違う…こんな環境に踏み入って無事にライアスに帰れるのかすら不安だった。
「とりあえず、さっき目に垂らした液のおかげで、離れていても君たちに僕が指令を送ることができるから、楽しんでおいでよ。困ったら必ず助けるからさ」
イトマは爽やかな笑顔でそういった。
「あの…色々聞きたいことがあるんですけど…」
ルナクは怖いのか、話をまだ伸ばそうとしている。
「それについてはライアスに帰ってから聞くよ。とりあえずは、この地球を楽しんでほしいな」
イトマはそう言い切り、元来た道を引き返していってしまった。
「あー、あー、聞こえるかい?」
そのあとすぐに、イトマの声がジャストロたちに聞こえた。
「よし、大丈夫そうだね。この目薬は音声も流せるんだ。周りの人には聞こえなくて、君たち4人だけ聞こえるよ。それじゃあ、今日君たちが1日体験する学校に行ってもらおうかな。案内は僕の方でするからさ」
救いの声が聞こえて安心し、イトマの指示のもと学校に向かった。
学校という建物はとても大きく、そして白一色であった。精錬されたという感じで、輝かしいオーラを放っていた。
中に入ると、キュリア麗剣士と同じぐらいの年齢であろう人間の女性が、場所まで案内してくれた。学校の中も白一色で、歩行感覚を失いそうになるほどであった。
「この教室で1日過ごしてもらいます。頑張ってください」
女性はそう言ってドアを開けた。そこにいたのは…ジャストロたちと同じくらいの年齢の人間であった。多分この人間達が学生なのであろう。一斉にこちらを見ているが、人数の規模に度肝を抜かれた。
3、40人はいるであろうか…これほど多くの視線が一箇所に集まる光景は4人とも初めてであった。そして、その圧迫感に言葉を失った。
一体ここで生き延びることができるのか…4人は不安を抱えながら室内へ一歩、踏み込んだ