第11話:褐色はお好き?
「ちょっと狩りに行ってくる」
ジャストロはそう言い、玄関を開けた。
「いってらっしゃい…気をつけて…」
朝早いため、起きているのはシルだけであった。ルナクとフレードは、今も睡眠中である。
「何時に帰るの…?」
「分からない。ただ、門限近くになることは確実だ」
あまり皆に心配はかけたくないが、久しぶりにソロの狩り…ジャストロは夜中まで狩りをする予定であった。
「門限から30分経っても帰らなかったら捜索届けを出してもらえればいいからな」
心配そうなシルにそう言い、ジャストロは家を出て、村も出た。大物を狙うため気合十分であったが、同時に冷静さと慎重さも忘れないように、気を引き締めた。
まずジャストロが向かったのは、迷いの森の中であった。実は迷いの森には地図には載っていない秘境があるらしく、そこを探すために今回1日丸々、ソロでの狩りを望んだわけだ。もちろん、地図をなくさないように5枚も持ったため、余程のことがない限りは帰ることができるだろう。
「よし、まずは右下の隅から行くか」
ジャストロはそう呟き、そちらの方面へと向かった。右下の隅は行き止まりになっていたため、秘境がある場所は3つへと絞られた。次は右下から右上の間を見るため、壁伝いに歩いて行った。幸い右上の隅まで行くのに、ドラゴンなどが飛び出してくることはなかった。
その後、右上の隅まで歩いたはずだが、どうも地図には無い場所を歩き始めているとジャストロは気がついた。ここが秘境だと確信し、奥を進んだ。しかし、しばらくするとかなりの草木が生い茂り、行き止まりとなってしまった。
「なんだ…フェイクか…」
ジャストロは夢中で歩いたため、いつもより多くの体力を奪われて少し疲れていた。そのため、草木をクッションにさせてもらうことにした。もたれかかって寝ようとしたところ…
(!?)
いきなり草木が生きているかのように、その部分だけ体の重みで押し倒された。
「って…」
ジャストロが頭をさすりながら倒れた方向を見ると、なんと獣道となっていた。まさか草木でカモフラージュするとは相当頭のいい相手なのだろう…ジャストロはそう思い、その獣道をほふく前進する形で進んでいった。
しばらく進んでいくと、先に光が漏れていた。レアな相手とご対面ができるかもしれない…そんな期待に胸を膨らませて出口から顔を出した。やっと着いたと思ってはいたが、そこからまだ森道が続いていた。
1つ大きなため息をついたところで獣道を抜け出し、更に奥を目指し進んだ。
「まさかここが秘境なのか…?」
半信半疑で足元に気をつけながら足を動かしていたが…ふと前の方を見ると、黒い生物がいることがわかった。
「まさかあれがレア生物なのか?」
またも半信半疑で、その生物の元へと向かった。
「違うか。ブラツベラだったか…」
しかし、それはブラツベラであった。幸い、発見した個体は、すでに息絶えていた。
「まあ、帰ったとき手ぶらなのもなんだ。狩りもせず一方的だけど、ありがたくいただくか」
ジャストロはブラツベラに対し両手を合わせて感謝の意を表すると、ブラツベラに触れた。
途端に、足元に埋めてあった罠らしきものが作動し、網がジャストロの体を覆った。ジャストロはそのまま網ごと中に引っ張られ、捕獲される形となってしまった。
「っ…!罠か…!」
まさかこんな所に狩人がいるとはジャストロは微塵も思っていなかった。ジャストロはすぐに逃げ出そうと思い、剣を引き抜こうとした…が、網が絡まり思うように背中の剣へと伸びなかった。
「くっ…!取れないか…!」
ジャストロはとにかく夢中だったため、自分の周りにさらなる罠が降り注いでいることに全く気がつかなかった。やがて、ジャストロは疲れからか強烈な眠気に襲われ、抵抗することもできずに意識を失った。
「あれ?ジャストロさんいないんですか?」
一方こちらはジャストロ家。家の主がピンチであることなどつゆ知らず、ルナクは眠い目をこすりながらシルに問いかけた。
「一人で狩りに行った…門限までには帰るって…」
「ん?じゃあよぉ、今日ずーっといねぇってことか」
フレードも眠いながら頭を回転させてシルに問いかけた。シルは小さく頷くと、できた朝食を並べ始めた。
「お、今日は肉と葉物の合わせ料理か!やっぱ作る相手が違うと料理の魅力も変わるもんだな!」
「シルの得意技ですよ!これはもうヨダレ垂れまくりですよ!」
フレードとルナクは納得するやいなや、並べられた料理に目を奪われ、急いで席に着き食べ始めた。
「ん?こりゃなんだ?見たことねぇ肉だけどよ?」
フレードが取った肉は、水分が少なめであるとわかる肉であった。
「それは…ガイノプスの…意外と美味しい…」
シルが言った後、ルナクがいきなり割って入った。
「ちょっと待ってください!シル…今美味しいって言いましたけど…?」
その言葉を聞き、フレードも少し考えてからシルの方を見た。シルは少し赤くなって俯いた。
「ごめん…摘み食いしちゃった」
その様子に二人は大笑いした。
「いやー、まさかシルもそういうことすんのか!いいじゃんかなぁ!」
「そうですね!私と料理する時はシルは摘み食いなんてしなかったですからね。そういうのグーだとおもいます!」
シルは笑われたが、否定を一切せずに受け入れてくれた二人への感謝と、摘み食いの恥ずかし差で顔を真っ赤にしながら小さな声でボソッとつぶやいた。
「ありがと…」
そんなシルのおちゃめな一面を楽しみながら、食事を楽しんだ。
ガイノプスの肉は水分が少なめな事もあり、それなりに硬い。しかし、旨味が凝縮されているために、口に入れてから噛み締めると一気に味が吹き出す。まさに噛めば噛むほど味が出るというわけだ。
食事が終わると、ルナクとフレードも手伝い、後片付けを行った。
後片付けが終わると、ルナクとフレードはそれぞれやりたいことをやり、シルは早起きと朝食作りのため疲れたのか、ソファに座りウトウトし、やがて深い眠りへと落ちていった。
「あ、エレ、これそっち置いてくれる?よろしくっ」
そんな声が聞こえた所で、ジャストロは目を覚ました。寝ているのは大きなベッドであった。
「おかしい…」
ジャストロはつぶやいた。自分が寝ていたのは網の中のはず…いや、もしかして朝起きた所からこれは夢なのかもしれない。そう思い、ジャストロは自分の太ももをつねってみた。
「ぐっ…」
が、そんなことは全くなく、眠い頭が冴える痛みに顔を歪めた。ベッドを見ると確実に自分のものではないことがわかってきた。もちろんあの3人の物でもない…少し様子を見るため、ジャストロは狸寝入りをすることにした。もしかしたら殺されるかもしれない…そんな最悪の事態に備えての狸寝入りでもあった。
「ロミ、その男は起きたか?」
男とは自分のことだろうか…やがてロミであろう者がベッドの上に登る気配があった。呼びかけた者は声からして女だろう。ベッドが沈み込み、ジャストロは真横に気配を感じた。
「んー、まだ起きてないね。さすがに眠り粉の量が多すぎたね。それに、まさか狩人がかかるなんて思わなかったしね」
ロミはそう言った。ロミも声からして女と予測した。その後、そこに座ったのか、ベッドがさらに沈むような感覚があった。一体どんな狩人なんだろうか…ジャストロはそう思い、薄目で右の方を見た。
「っ…!?」
ジャストロの目に飛び込んできたのは、褐色の剥き出しの背中であった。まさか上半身裸なのか!?そんなことを思いながら、見てはいけないと思いジャストロはまた目を閉じた。
そして、また深い眠りに落ちてしまい…起きたのはほとんど夜であった。
「あ、起きたね」
目を開けた途端にそんな声が右から聞こえてきた。右に先ほどのように背中はなく、代わりに下着姿であろうロミが立っていた。ジャストロはビックリして、布団をかぶった。さすがにみてはいけないと本能的に判断したのだろう。
「あれー?別に脅かしてはいないんだけど…あたしの顔、怖かったのかな?」
ロミが布団越しにそんなことを言い、続いてエレを呼び出した。
エレが近づく気配がし、布団越しに声が聞こえてきた。
「君、私たちの仕掛けた罠にはまって、眠り粉を浴びてしまってたんだ。そこを私たちが助けたってことなんだ。怪しい者ではないよ」
エレはまるで子供に教えるかのように優しい声で言った。
「あと、女の人は男の人にむやみに肌を晒すなって言われてるんだけど、私たちの狩猟の装備はこれなんだ。詳しいことは出てきたら話すよ。君の気持ちが落ち着いたらでいいよ」
ジャストロはなるほどと心の中でつぶやいた。あれは下着ではなく狩りの装備なのかと思ったが、なぜあんな系装備なのだろうと思った。そのため、2人の体を直視しない形で布団から這い出した。
「おっ、やっぱエレはすごいよ!あたしと違って相手の警戒解くのがうまいね!あっ!あたしはロミ!よろしく」
ロミがそう言った。布団の中では髪色までは見えなかったが、濃い緑色の髪色をしていた。露出が結構多めなのがなんとなくわかるために、目のやり場に困った。
「そんなことない。私はただ予測して言っただけだからな。私はエレ、よろしくな」
続いてエレがそう答えた。髪色はまるで絹のような白のロングヘアーで、ロミよりは露出は抑えられているため、ある程度は見ることができた。
「で、あんたの名前は?」
ロミがそう言い迫ってきた。なるべく体を見ないように、まっすぐ目だけを見て答えた。
「俺はジャストロ。よろしく」
とりあえず、何を話していいのかわからないため、名前だけ名乗った。
「へぇ〜、なかなか珍しい名前だね」
「そうだな。響きがなかなか独特だしな」
ロミとエレは興味津々といった感じでジャストロを凝視してきた。
「で…なんの話からすれば…」
とりあえず2人の視線から逃れるため、ジャストロは2人に問いかけた。
「ん〜、とりあえず、あたしたちが怪しい者じゃないことの証明として、生い立ちとか狩法の話してもいいかな?」
「構わない」
ジャストロは彼女達の生い立ちについてなど気になることが多かったので、即座にそう答えた。
「じゃあまず、生い立ちはあたしから」
そう言い、ロミはジャストロと向かい合った。下着にしか見えない上半身の服装は、相変わらず目のやり場に困ったため、少し視点をずらし、ロミの鼻のあたりを見て話を聞くことにした。
「あたし達2人は、砂漠に近い村にいたんだ。でも、どうせならまだ見ぬ世界を旅したいと思ってね。それで、小さい時にエレと一緒に村を出たんだ!そのあと、いろんなところを回って、最終的にココが一番落ち着くし、狩りにも困らないから選んだってわけ」
ロミが話し終わると、それをつなぐ形でエレが話を始めた。
「それで、私たちの装備の話だな。私たちの村の狩人が皆目がいいから、主に遠距離系の武器で行うんだ。ちなみに、ロミは短剣で私は弓矢。他にもショットボウっていう武器とかを使う狩人もいたような記憶があるな。私たちからはこんなところだ。それじゃあ、君の方の話を聞こうか」
そう言い、エレはまっすぐとジャストロを見た。ロミもジャストロを見つめた。ジャストロは呼吸を整えてから、今までの経緯と住んでいる場所。そして仲間について、かいつまんで説明した。ロミとエレは何がそんなに面白いのかというぐらい、色々と反応や感想などをくれた。
「へぇ〜、とっても面白そうな仲間だね!あたし達も会ってみたくなったなー」
「そうだな。久しぶりに私たち二人以外の狩人とも話せたことだ。その仲間とも話してみたいな」
ジャストロはそれを聞いておもむろに口を開いた。
「じゃあ、今夜会いに行くか。せっかくの機会だ」
そうすると、二人はパッと顔を輝かせ、頷いた。
そして、3人は床に就き、次の日の朝、迷いの森を抜け、村を目指した。
村では3人がこちらに向かってきてることを全く知らず、フレード、ルナク、シルは狩りに出かけていた。長い狩りで疲れて帰ってくるであろうジャストロのために、料理を作ろうという提案に至ったのである。
「こんだけ集めりゃいいだろ!」
フレードは額の汗をぬぐいながらそう言った。
「そうですね!いやー頑張っちゃいましたね」
「今日は楽しかった…でも、危ない場面も多かった…」
ルナクは笑いながら、シルは今日の改善点をあげて、狩りを終了させた。3人はかなり多くの獲物を、狩っては村に運びを繰り返し、かなりの食材を集めた。もちろん肉だけでは偏るため、キノコ集めや木の実集めなども行った。
「おし、帰ろうぜ!」
フレードがそう言い、ルナクとシルも帰り支度を始めたところ、遠くの方に見慣れたような見慣れないような人影をとらえた。
「ん?あれジャストロじゃねぇか?」
フレードは首を伸ばしてその人影を見た。
「そうっぽいですけどー…なんか二人知らない人がいますね」
「捕まった…?それとも新しい仲間…?」
ルナクもシルも目を細め、近づいてくるジャストロらしき影を見ていた。
やがて分かったことは、ジャストロは二人の女性を連れているということだった。それも、露出の多い薄褐色の肌の女性だ。それがわかったところで、3人はジャストロに向かって走り、開口一番、真っ先に問い詰めた。
「おいおいお前っ!狩りって女狩りかこの野郎〜!お前も涼しい顔して以外とやり手か?」
フレードはそう言いながら、ジャストロを肘で小突いた。
「ジャストロさん…私というものがありながら酷いですっ!!」
ルナクは泣き真似をし、ジャストロをからかった。
「もしかして…寝た…?…そうだったら…斬るから…」
とどめのシルは、女性二人と1つ屋根の下だったであろうジャストロに対し、厳しい忠告を投げかけた。
「ちょっと待ってくれ!?俺は何もしてない。まずは話を聞いてくれ」
ジャストロは慌ててそう言い、二人になぜあったのかと、ここまで来る経緯を述べた。
シル以外は納得した様子で、とりあえずどうにかなった。シルはやはり真面目なため、ジャストロはシルには後でもっと詳しく話すことにした。
「そういうことなら、私たちの狩った獲物たち、今日は料理しましょうよ!!おもてなしです!」
事情を知ったルナクは、すぐにそう提案した。やはり楽しいことに対しては頭の回転が早い。
「んぉ、いいな!やろうぜ」
もちろんフレードも乗り気だ。
「いいの?なんだか悪いね。あたしたちが勝手に来たのに」
「そうだな。でも、やってくれるからには感謝だな」
ロミとエレは少し遠慮がちながら、承諾した。全員の意見が一致したところで、四人+二人の計六人で、パーティーをするために家へと向かった。
今回はかなり間が空いてしまい申し訳ないです閃光眩です。ルナシルコンビのように、今回はロミエレという褐色コンビの登場が話の1つの味噌となります。そして、今回は前半と後半に分かれる話なので、後半をまたお楽しみにです!今度は比較的早く投稿できるように頑張ります。ではでは。