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ロールプレイングハント  作者: 閃光 眩
12/41

第10話:実力と嫉妬

【ロールプレイングハントの常識】

罪獄所(ザイゴクショ)

罪を犯した狩人を収容する場所。地球でいうと刑務所に似ている。そこでは罪獄番(ザイゴクバン)という者に従わなくてはならない。

「ルナク、ジャンプだ!」

「とうっ!」

「フレード…しゃがんで…!」

「ほいよっ!と!!」

今、4人は全く新しい相手に対して狩りを行っている真っ最中だ。

相手は、ガイノプスという、アンガロスと同等の硬さをもつらしいドラゴンだった。以前、アンガロスを連携プレイで狩猟することができたため、さらに連携での狩りの腕をあげようという目的だが、このガイノプスはそれなりの値段で取引されているため、生活の足しになる。また、硬い皮膚の中には、かなり上質で美味な部分が多くあるという。

しかし、それに見合ってアンガロスよりも戦闘能力が高く、4人も結構苦戦して長期の狩りとなっていた。

「そろそろヒビでもなんでも入ってもいいんじゃねぇか?」

「確かにな。かなり攻撃してるのに、怯みもしないしな」

「確実に一点に集中攻撃してるのに、手応えも五分五分…」

「もーっ!!そろそろ倒れてくださいよ!」

さすがの長期の狩りに、4人も集中力が切れ始めていた。

やがて…

「ルナクっ!集中しろ!!」

ジャストロも集中力が切れてきたのか、怒ってルナクに体をぶつけてきた。

「きゃっ!?…なっ、何するんですかジャストロさんっ!!」

しかし、その視線の先にあったのは、脇腹から血を流すジャストロであった。

どうやら、集中力が切れたルナクの肩めがけて、ガイノプスの攻撃が迫っていたらしい。

それを全くルナクは察知していなかったので、ジャストロが捨て身でルナクを守ったのだ。

「ちょっ!?ジャストロさんっ!?」

これにはさすがのルナクも怒りが冷め、一気に焦りへと変わった。幸い、ガイノプスはフレードとシルの相手をしているため、こちらには全く気がついていない。

「剣で防ぐのが遅れた…集中してなかったのは俺の方だったな…」

ジャストロはそういってルナクの元へと歩き始めた。

「そ、そんなことないですって!!私の集中力が切れたのが原因ですっ!」

ルナクも慌てて駆け寄った直後…

「きゃっ…!」

小さな悲鳴とともに、シルが吹き飛ばされるのが2人の目に映った。幸い、鎧のおかげで傷も浅く、受身も取れたようだ。しかし、その直後、フレードもバランスを崩し、危うく大怪我を負いそうになっていた。

既に4人はまともに連携が取れない、絶体絶命な状況となってしまった…


そんな中、一人の狩人が脱兎のごとく歩み寄り、なんと、武器をガイノプスに突き刺した!

そしてガイノプスは血液を流し、バランスを崩してもがき出した。4人は何が起こったのかを理解することが出来ずに、ただ見つめているだけであった。その狩人は、その後ガイノプスの弱点を知っているかのように、あっという間に狩ってしまった。ガイノプスの身体の損傷はあまりなく、かなり良好な状態で狩猟を終えた。

「危なかったな、あんたら!」

助けてくれたのは、焦げ茶色の短髪の青年狩人だった。手には、見たこともない真っ白な武器が握られていた。形からすると剣に見える。

「なんかすげー音が聞こえるから来てみたら、丁度あんたらがピンチだったもんでよ!間に合ってよかったな!」

そういって、その青年はニッと白い歯を見せて笑った。

「っと!あんた出血してるな!?こりゃ大変だ!…とりあえず、金髪の嬢ちゃん、あんたが運んでやってくれ!」

それを聞き、ルナクはいつもはあまり見せない真剣な面持ちで頷き、ジャストロを背負って村まで向かった。身長と体重の差からか、フラフラと危ない足取りだったが、顔は真剣そのものであった。

「そんじゃ、あんたら2人でこいつを切り分けて持ってくか!俺も手伝うからよ」

2人を見送ったあと、青年はフレードとシルにそう呼びかけた。2人は特に疑問なども持たずに、素材の切り出し作業を黙々とこなした。

そして、素材を村まで運ぶ道中、フレードがおもむろに口を開いた。

「そういや、助けてくれたお礼言ってなかったぜ!本当助かった。ありがとな。それと、あんたの名前聞いてなかったな?」

青年は、はにかみながら答えた。

「そんなんじゃないない!俺はただ通りすがりに助けただけだ。気にすんな。おっと、俺の名前はクロサだ。改めてよろしくな!」

青年狩人改めクロサは、両手がふさがってるため握手は求めなかったが、軽いウインクを握手代わりにしてきた。

「おぅっ!クロサ、よろしくな!!」

「クロサ…よろしく…」

フレードはウインクで、シルは少し柔らかい表情でクロサの挨拶に応えた。

やがて村が近づくと、村の前にかすかに見えていた人影がどんどん近づいてきた。そのシルエットが濃くなるにつれて、それがルナクだとわかった。

「あっ、ありがとうございましたっ!!」

走ってきた息切れと切羽詰まりながら、ルナクはクロサに挨拶をした。よほど自分の失態から責任を感じているのだろう。

しかし、クロサは片方の眉をあげ、少し困り顔で答えた。

「おいおい、俺は別にそんな大層なことはしてねーぜ?だから、気楽にいこうや!それと、あの怪我してたにーちゃんは無事だったか?」

ルナクはその言葉を聞き、慌てて顔を上げて答えた。

「軽傷だったので大丈夫でしたっ!!今、村の保健所で休んでますっ!」

それを聞いて、3人とも胸をなでおろした。

「おしっ、大事に至らなかったってことで、とりあえず素材を加工屋に持ってくとすっか」

その言葉に従い素材を持つ3人は、加工屋にてすべての素材を職人に渡した。ルナクは、一足お先に保健所へと足を進めた。

「おしっ、んじゃ、俺はこれでオサラバするぜ。素材は加工し終わったら人数分持てるぐらいにはなると思うからな!」

素材が加工され終わるぐらいにそう言い、クロサはスタスタと歩いて行ってしまった。

立ち尽くす2人が慌てて引き止めようと声を出そうとした直後…

「あいよ、お待ちどうさん」

加工職人が綺麗に加工された素材を持ってきてくれた。確かに、二人で両手に抱えて少し余裕があるぐらいの量になっていた。

結局、クロサについてあまり知ることができなかったうえに、一番聞きたかったガイノプスを貫いた武器のことも分からずじまいだった。

またクロサに会えることを信じ、2人は肉以外の素材を手分けして売った。肉は、食事の時に折角なので全員で食べてみようということで話がまとまった。そのまま2人は自然と早歩きになりながら、保健所へと向かった。

保健所に行き、受付にジャストロの名前を伝えると丁寧に場所まで案内してくれた。なんと、場所は個室だったため、かなり重傷であることが伺える。ルナクの軽傷というのは嘘だったのだろうか…2人は恐る恐るドアを開けてみた。

「あ、きましたね!」

「迷惑かけてすまないな」

そこには、いつも通りの陽気なルナクと、元気なジャストロがいた。ジャストロは、重傷にも関わらずベッドにもたれかかっていた。

「おいおい、重傷だからしっかり寝てろよ!?」

「うん…あと、ルナクもちゃんと看病して…!」

2人はビックリして、そう言った。しかし、ルナクとジャストロは頭に?マークを浮かべたかのような表情になった。

「だってよ、個室だから重傷なんだろ?」

フレードがそう言うと、ジャストロがすぐさま口を開いた。

「いや、実は違う。個室しか空いてなかったんだ。保健所に来た時にその話を聞いて、俺は軽傷だから、個室なんて断ろうと思った」

そして、私もと言わんばかりにルナクが話の隙を縫って口を開いた。

「でもですね!!!そこにジーク幻将軍が来まして、使っていいって言うんですよ!いや〜ジャストロさんの日々の行いが良かったからですねぇ」

2人をそれを聞いて、脱力するほど安心した。

「はあぁ…そういうことだったのか。すげぇ安心したぜ…」

「良かった…軽傷ならすぐ直る…」

とりあえず話がまとまったところで、コンコンとドアを叩く音がした。多分ジーク幻将軍かキュリア麗剣士、あるいはユーリア辺りが見舞いに来たのだろうと思い、フレードにドアをあけてもらった。

しかし、来客は、全く知らない人物であった…

「こんにちは。はじめましてだね。少し話したいことがあってね。いいかな?」

いきなりそんなことを言われたら怪しむが、ジャストロは軽傷。それに、もしこの謎の狩人に殺されかけても、ルナク・シル・フレードがいるため、ジャストロは素直に相手を個室に通した。

「いきなりでごめんね。実は、君達がさっき会ったあのクロサっていう少年について、知りたいかなと思ってね」

なぜそれを知っているのか、という事にジャストロは驚いた…が、それを聞く前に、ルナクが大声で叫んだ。

「あーーっ!!!思い出しました!あなた、情報屋の人ですよね!私のいた村で見かけたの思い出しました!」

その言葉に、意外な顔をして、情報屋と呼ばれた男は答えた。

「おっと…知っててくれたのかい。そりゃ嬉しい限りだね。それと、あまり大きな声で呼ばれるとちょっと困るよ。そう、僕は情報屋のカリヤっていうんだ。村々を回って情報を集めてるのさ。そういう君達2人は、有名なルナクシルコンビだね。もちろん把握済みだよ」

今度はルナクとシルが驚いた。

「えぇっ!?私たちのこと知ってたんですかぁっ!?」

「うそ…すごい…!」

そんな反応に満足してかしてないか、カリヤは話を続けた。

「今回は僕からの情報提供だからね。お金の提供はしないよ。とりあえず、クロサについて知ってるところまで話すけど、いいかな?」

そこまで喋ったあと、カリヤは4人の深刻な面持ちから察したのか、さらに付け加えた。

「それと、もちろん相手のプライバシーに関わるようなことは知らないから安心して。もちろん、ルナクシルコンビについても、容姿と狩り情報、武器についてしか知らないからね」

それを聞き、4人の顔の曇りが晴れたところで、カリヤは話始めた。

「じゃあ、まず、彼の事についてなんだけど、僕も昨日この村に来たから詳しくは知らないんだ。ただ、彼が有名になったのは最近だね」

「どーしてわかるんですか?」

そこでルナクがまるで小学生のように無垢な表情で聞いた。

「うん、実は、昨日村の人に色々と聞いてみたところ、どうもあの武器と深い関係がある事がわかったんだ」

武器という言葉に、4人は身を乗り出した。それを待っていたかのように、カリヤは口の端をニヤリとあげ、さらに話を畳み掛けた。

「実はあの武器、独特の輝きと質感からして、あれはシニガニから作った素材だね」

「シニガニって、あのかなり硬度があるっていわれてる甲殻生物か」

ほかの3人がハテナマークを頭に浮かべている中、ジャストロだけがそう答えた。

「シニガニってなんですか?」

「おぅ、俺も知らねぇな」

「教えて欲しい…」

そんな声に、カリヤはあえてこう答えた。

「どうやら、僕が答えなくても良さそうだね。君に任せるよ」

カリヤから一時的にバトンをもらったジャストロは、スラスラと答えた。

「シニガニっていうのは、甲殻型の生物で、浜辺に生息するらしい。あの武器の色からして、浜辺の砂浜と擬態しているんじゃないかと思う。それで、海の水を飲みに来た生物を捕食してるんだろうな。あと、あの甲殻は強靭で、並大抵の武器じゃ傷一つ与えられないらしいし、打撃系の武器でも、割れてしまうから、加工は難しいらしい。」

「それと、あのシニガニの体の輝きから骨に似てるけど骨じゃないってことで、みんなはシニガニの体の事をクレリスボーンって呼んでるな。俺が知ってるのはここまでだ」

「ってことはよぉ、そんな武器、なんであいつが持ってんだ?」

「やっぱりそう思いますよね!!私もそう思いました」

「相当すごいのかも…気になる…」

ジャストロが話し終え、他の3人の反応を見守ったあと、満足そうな顔でカリヤは話を繋いだ。

「いやぁ…素晴らしい説明だったよ。僕が調べたものより詳しく解説してくれて驚きだよ。君、情報屋に向いてるかもね、ならないかい?」

カリヤはジャストロに少し話を持ちかけてみた。

「いや、遠慮しておく」

しかし、ジャストロは丁重にお断りした。

そんな返しに、カリヤは笑って答えた。

「あはは、冗談だよ!それに、君の狩法を見ていると、情報屋よりそっちのほうが数倍似合っているよ」

そんな冗談を交えながら、カリヤは席を立った。

「いやぁ、長居してすまなかったよ。僕の話は以上だよ。もし、クロサの武器についてもっと知りたい場合は、直接彼に聞いてみる事だね。少しでも情報源になったかな?」

その言葉を聞いて、4人は一斉に頷いた。

「そうか、よかったよ!僕は明後日の夜まで居るつもりだから、何かあったら村役場の前に4人で集まってくれれば駆けつけるよ。それじゃ」

その反応に満足げな笑みを浮かべて、カリヤは去っていった。

その後は、とりあえずジャストロの怪我が治るまで、3人は代わる代わる様子見をしていた。幸い、大事に至る事もなく、次の日には傷跡一つ残らずに完治していた。

そんなこんなで4人が揃ったところで、全員でクロサの元を訪れた。保健所を出ると、ちょうど彼は、狩りを終えて戻ってくるところだった。

「クロサ、昨日は助かった。ちゃんと例を言えなくてすまない」

クロサはそんなジャストロの言葉に振り向き、いつも通り答えた。

「まあまあ、そんな大層な事はしてねぇって!早く治ってよかったな。そんで、なんか俺に用か?」

クロサはすでに分かっているような顔で、4人の顔を見回した。

「あんたがもってるその武器よぉ、どうやって手に入れたんだ?噂によりゃあ、かなり硬いって話だぜ?」

フレードが話を切り出し、4人はクロサの答えを待った。クロサは、4人にもっと近づくように手招きした。どうやら、かなり秘密の情報らしい。

「実はな…あいつ、熱にめちゃくちゃ弱いんだ。俺が武器作れたのもよ、武器を熱して狩りを挑んだからなんだ!武器なんてすぐ冷めちまうからよ、あん時は冷や汗もんだったぜ」

ここで話が終わると思いきや、クロサはさらに声を潜めて話を続けた。

「これ、俺しか知らねぇ話だったりすんだ。誰にも話さないでくれりゃあ、ありがてぇな」

「あぁ、話さない。俺たちを救ってくれたわけだし、そんな恩人が悲しむような事はしない」

ジャストロは、一も二もなく承知した。その言葉に対し、クロサは少し照れくさく感じたのか頭をかきながら笑った。

「サンキューな!んじゃ、気をつけろよ」

そう言ってクロサは加工屋に向かっていった。

「ねーねー、そういう事は、フレードさんの武器で勝てるって事ですよね?」

クロサが行ってしまった後、ルナクが皆に対して問いかけた。

「確かになぁ。やってみる価値はあるな!」

フレードは意外と乗り気だった」

「サポートは私たちに任せて…!」

シルも続く。

「俺も少し興味がある。昨日みたいな事にならないよう、気をつけてサポートする」

ジャストロも最後に、その狩りの仕方に同意し、4人は早速浜辺へと向かった。

浜辺に着くと、どうぞ試してみてくださいといわんばかりに、シニガニが1体浜辺にいた。体長は結構大きく、目視で大体5mほどはあった。どうやら食事が終わったらしく、食後のリラックスをしているらしい。

そんなシニガニに少し罪悪感を感じながら、まずフレード以外の三人が、武器を手にシニガニの元に向かい、それぞれが攻撃を仕掛けた…が、やはり武器は全く通用しなかった。攻撃に気づいたシニガニは、手についた白光りする大きなカマを振り上げ、3人相手に奮闘を始めた。

しばらくしたが、シニガニの体には傷一つつかず、代わりに3人の体力だけが削られていった。少し不利になったかというところで、フレードが、久しぶりの神器を手に飛び出した。疲れ切った3人は慌てて避け、フレードはシニガニのカマの付け根に吸い込まれるように剣をふるい、そのままなんの抵抗もないかのように、シニガニの腕を綺麗に焼き切った。シニガニは驚いたのか、一目散に横歩きで逃げてしまった。

「こりゃ驚いたぜ…!マジで斬れたぜ!」

フレードは自分の神器のすごさを再確認するように、凝視していた。

「わーい!やりましたね!」

ルナクは、シニガニのカマを持ち、ニコニコしていた。隣のシルとジャストロも、口元を緩め、微笑んでいた。

「おし、早速帰って加工してもらうか!」

フレードのその言葉に3人は頷き、村に戻った。

村の前では、なんとカリヤが待っていた。

「やっ、お疲れさん。また新たな情報を仕入れたよ」

カリヤは右手を上げ、3人を迎えた。そして、早速本題に入った。

「実は、クレリスボーンについてさらに詳しく調べたんだ。そしたら、どうやらあれは武器として使う事は少ないらしいよ。どうやら、その強靭さから、ピッケルとかの採掘に使ったりするらしいよ」

その話を聞き、4人はすぐに考えを変えた。カリヤの情報に間違いは無いことは先ほど会ってわかったうえ、採掘というものを、実は4人ともやった事がなかったため、それを伝え、加工屋に渡した。加工屋は、カマとピッケルの形が似ているからか、あっという間に加工し終えた。

「うん、僕の情報がまた役立ってよかったよ。それじゃ」

カリヤは満足そうに頷くと、また音もなく去っていった。

加工されたピッケルは、とりあえず家の玄関に置いておく事にした。すでに日も暮れかけていたため、4人はそのまま夕食をとり、それぞれの時間を過ごして床に就いた。

朝、4人は同じ時間に起床した。そして、今日は情報屋のカリヤが帰る日だと考えながらぼーっと布団の中で過ごしていた。

が、ドアを叩くけたたましい音が響いたため、4人とも一斉に玄関へと走った。ドアを開けてみると、そこには息を切らしたカリヤが切羽詰まった表情でいた。

「どうした、もう帰る時間にでもなったか?」

ジャストロが尋ねてみると、カリヤは声を絞り出して答えた。

「ち…違うんだ…!クロサが…し、死ぬ…早く行かないと…マズいんだ…!!」

クロサが死ぬ!?4人は驚きで、しばらくポカンとしていた。そして我にかえり、慌てて支度を始めて家を飛び出し、クロサを助けるべくそのまま村を飛び出した。




「おし、今日も頼むぜ!」

その日、クロサは早起きし、すでに狩りに出ていた。今日も愛用の武器を引っさげ、足取り軽く獲物を探していた。ちょうど目の前にいたのは、ガイノプスであった。

「こりゃ腕慣らしにはちょうどいいぜ」

クロサは舌舐めずりをする真似をし、地面を蹴り、一気にガイノプスとの間合いを詰めた。そして、武器でガイノプスの体を水平に斬り払った。

武器は乾いた音を立ててガイノプスの甲殻に当たり…根元から折れた

「は…?」

その光景にクロサは唖然とし、しばらく立ち尽くした。

(いや、こりゃ夢だろ)

心の中でそう思い、頰をつねってみた。

「いでででで!」

(夢じゃねぇか…あぁ、もう終わりだ…)

諦め、狩気を喪失したクロサに、ガイノプスのアギトが迫った…



微かな地響きを聞き、4人はそちらの方向へと走り出した。木が茂る一角に、大きな生物の影を捉えた。そいつがクロサと戦っている相手なら…と思いながら、4人は生い茂る木を振り払い、その生物の前へと飛び出した。

しかし、その生物は今、食事の真っ最中だった。食われているのは、まぎれもなくクロサであった。下半身を食われ、口から見えるのは上半身のみとなっていた。

「クロサ!」

ジャストロが叫ぶ、クロサはゆっくりと首を上げ、こちらを見た。口からはおびただしい量の血が流れでている。

「おいおい…狩人の勘ってやつか…?それとも誰かに聞いたか…?」

クロサはこんな状況でも、ぎこちない笑みを浮かべながら答えた。

「喋るんじゃねぇ!死んじまうぞ!」

フレードも慌てて叫ぶ。

「そうですよ!今助けますから!!」

「相手の強さはわかってるから…任せて…!」

ルナク、シルもフレードに続きクロサに言葉をかけ、武器を構えた。

しかし、クロサは喋ることをやめなかった。

「やめろやめろ…俺はもう助からねぇ…ただ、最期に教えてやる…俺の武器…誰かにすりかえられたんだ…」

「どういうことですか!?」

ルナクが驚き、問いただす。

「そこに落ちてんのがそうだ…コイツに触れた途端、根元から折れやがった…昨日から今日にかけてニセモンとすりかえられちまってたようだ」

「マジかよ!?誰だそんなひでぇことするやつは!!」

フレードは怒り狂って叫んだ。

「さあな。んじゃ、俺からの遺言だ…その犯人を探してくれ…俺はもう死ぬから、お前たちが探してくれよ…!」

「死んじゃ…ダメ…!」

シルも、必死にクロサに訴えかけた。

「俺の運命は俺のモンだ…じゃあな…」

「クロサッッ!!」

ジャストロが叫び、3人が武器を構えた…が、その直後、ガイノプスが顎の力を強めた。

ブチブチと嫌な音がし、クロサの腰から大量の血が噴き出した。それが合図かのように、クロサはまるで糸が切れた操り人形のように、ピクリとも動かなかった。立ち尽くす4人を尻目に、ガイノプスはクロサの捕食を始めた。しかし、それは4人にとっては絶望の惨殺ショーにしか見えなかった。

まず、ガイノプスはクロサを地面に置き、頭から食らいつき、胴体を足で押さえつけ、一気に食いちぎった。鮮血が飛び散り、頭と胴体が分離され、頭はガイノプスによって腹に納められた。

そこで、ルナクは腰が抜けたのか尻餅をつき、シルは足の力がなくなったのかへたり込んだ。

しかし、ガイノプスのショーは終わらない。続いて上半身を口に含み、下半身は前脚で押さえ込み、先ほどのように食いちぎる。周辺が真っ赤に染まり、既にクロサの死体は、ただの肉塊として4人の目に映っていた。

フレードもさすがに精神的に参ったのか、脚をガクガクと震わせていた。ジャストロは、剣を杖にし、その状況を見ていた。表情は前髪によって隠れていたわからない。

そして、残りの下半身を口に流し込むと、ガイノプスはくるりと向きを変え、悠々と元来たであろう道を歩いていった。

ガイノプスが豆粒ぐらいの大きさになってから、ジーク幻将軍が駆けつけた。

「みんな、大丈夫かい!?カリヤ君から聞いたんだ。クロサ君は…?」

その名前に、ルナクとシルはまるで怖いものを見たかのようにビクッと肩を揺らして反応した。

「今…ガイノプスに…捕食されました…」

そんな中、ジャストロが静かに答えた。その答えを聞いたジーク幻将軍は、目を伏せた。

「そうか…君達にはすまない事をしたよ…僕の責任だ…」

ジーク幻将軍は頭を下げた。

「違います…俺たちの力不足でもあります」

ジャストロが答えた。

「なんで…」

その直後、ルナクが口を開き、小さな声でそういった。

その言葉に、みんな悲しそうな顔をした。

「なんでっ!!」

ルナクは今度は大声で叫び、立ち上がった、そして、ジャストロの胸ぐらをつかんだ。身長こそ低いが、ジャストロは少し圧倒される感じとなった。

「なんでクロサさんがあんな目にあったのに、ジャストロさんは平気でいられるんですか!!?悲しくないんですか!!!!?」

「悲しいさ…」

ジャストロは答えた。

「じゃあ、なんで涙を流さないんですか?悲しいけどそんなには悲しくないんですか??おかしいです!」

ルナクはジャストロに食ってかかった。

「おい、ルナク…やめようぜ。仲間割れはよくねぇ…」

フレードが小さい声で言った。その言葉を聞き、ルナクはジャストロの胸ぐらを離し、立ち尽くした。

しばらくの沈黙ののち、ジーク幻将軍が口を開いた。

「実は、ジャストロ君は昔にもっと惨い捕食された狩人を見たことがあるんだ…」

その言葉を聞き、3人は即座にジャストロの方を見た。ジャストロは前髪で目元を隠し、表情は見えなかった。

「君達にとって、こういう事は初めてかもしれない。でも、これがこの世の中のルールなんだ。負けた方が狩られる。そして捕食される。僕たちがいろいろな生き物を食べるのと同じにね」

ジーク幻将軍は静かにいった。その言葉は、森の中に悲しみを含みながら吸収されていった。

「だから、君達もこういう事に慣れていかなきゃならないんだよ。最初は辛いさ。でも、それを乗り越えないと、この世界では生きていけない」

その言葉を聞いて、ルナクはジャストロに迫った。

「じゃあ、その昔の捕食の話聞かせてくださいよ!」

しかし、ジャストロは返事をしない。そんなジャストロに痺れを切らしたルナクが、ジャストロに詰め寄ろうとした途端、ジャストロに異変が起きた。ジャストロは、いきなり胸を抑えてしゃがみこんだ。まるで何かにとりつかれたように…そして、次は耳を塞ぎ、髪をぐしゃぐしゃにして首を左右に振り始めた。まるで、とりつかれた何かを振り払うように…そして、次は背中の剣を抜き、地面に突き刺し始めた。まるで、とりつかれた何かを殺すように…そして、しゃがんだまま右手は剣に手をかけ、左手で顔を覆った。

「ジャストロさん大丈夫……ひっ!?」

ルナクがジャストロをなだめようと顔を覗き込んだところ、ルナクは顔を恐怖に染め、尻餅をついた。ルナクが目にしたのは、指と指の隙間から見えた、獣のようなそれでいて恐怖に怯えるような、ジャストロの見開かれた鋭い眼光だった。

その後、ジャストロの気持ちの整理がつくまで皆で待った。

「取り乱してすまなかったな…」

そういって、ジャストロは立ち上がった。

「よし、帰ろうか…」

ジーク幻将軍の声に促され、全員で元来た道を引き返し、村へと向かった。村の前では、カリヤが皆の帰りを待っていた。

「みんな大丈夫だったかい!?」

カリヤはかなり慌てた様子で全員を見回した。そして、クロサがいないことをいち早く察すると、がっくりと肩を落とした。

「すまない…僕がもっと早く情報を入手していれば…」

「いや、違う」

カリヤの言葉を遮ったのは、ジャストロであった。

「いくら急いでも、クロサは助からなかった。実は、クロサの武器をすりかえた奴がいるらしいんだ」

その言葉に、カリヤは驚き、そしてすかさず口を開いた。

「そっ、それ知ってるよ!その会話を聞いて、君達に急いで伝えたんだ!」

その言葉に、4人は顔を見合わせた。ジーク幻将軍は、その様子を不思議に見ていた。

「そいつら、顔は覚えてんのか?」

フレードが尋ねる。

「もちろんさ。情報屋は記憶力と正確さが必要だからね」

カリヤは自信たっぷりに答えた。

「実は、今朝怪しい3人組がいて、その人たちの会話を聞いたんだ。そうしたら、クロサの武器をただの骨の武器に変えたっていうじゃないか。そんなもの勝てるわけないと思って、今朝君達の家に押しかけたってわけだよ」

その話を聞き、ジャストロはジーク幻将軍の方を向いた。ジーク幻将軍は驚いた表情ののち、悲しい顔とともに首を縦に振った…


その夜、3人の少年が逮捕された。


逮捕されてキュリア麗剣士によって連れてこられた3人の少年は、ジーク幻将軍の顔を見ると睨み返した。多分、怒るなら怒れと思っているのだろう。やがて、ジーク幻将軍と向かい合う形となった。ジーク幻将軍は、3人と向かい合うとすぐさま口を開いた。

「残念だよ…君達の行動には…僕は反省しているよ…」

その言葉に、3人は拍子抜けした顔になった。まさか、怒られると思っていたが、違かったからだ。

「僕がもっとちゃんとしていれば、君達はこんなことにはならなかった…ごめんよ…」

「そんなことありません!!僕たちの責任です!」

そんな中、真ん中の少年が立ち上がった。リーダーなのだろうか。やがて、両側の2人も立ち上がって必死に話し始めた。少しかかるかなと思い、ジャストロほ部屋の外からは村役場の外に移り、終わるのを待った。しばらくして、涙で顔をぐしゃぐしゃにした3人の少年が、罪獄番によって連れて行かれた。ライアスのどこかにあるという、罪獄所に連れて行かれるのだろう。

その後、ジャストロを呼びにジーク幻将軍が現れた。

「いやー、すまないね。ちょっと長くなっちゃったよ」

その後、ジャストロとジーク幻将軍は、村役場で少し話をした。

「叱ってあげないと、また罪を犯すかもしれませんよ?」

ジャストロは、ジーク幻将軍にまずそう問いただした。ジーク幻将軍は、そんなジャストロの言葉を聞き、少し微笑んだ。

「僕も最初はそう思っていたよ。でも、実は罪獄番は罪人の扱いが酷いらしいんだ。それに、もし僕か怒ってしまったら彼らは帰る場所がなくなってしまうよ。だから、あえて優しい言葉をかけて、釈放された時にここに戻れるようにしたんだ」

その考えに、ジャストロは感心した。飴とムチを使い分けるといったやり方は、全く思いつかなかった。

「じゃあ、そろそろ帰ります」

ひと段落した所で、ジャストロは家に帰った。

「うん、気をつけて帰るんだよ。疲れてるだろうし、しっかり休むんだよ」

ジーク幻将軍は、村役場の出口まで見届けてくれた。

ちなみに、情報屋のカリヤは3人組の話が終わった後村を出て、また別の村へと旅立っていった。

ジャストロは、家に帰るとすぐに床に就いた。さすがに他の3人も疲れたのか、家の中はシンと静まり返っていた。

が、いきなりドアが開き、今に何者かが入ってきて、ソファに座った。誰かわからないが、妙にいい匂いがした。

「ジャストロ…いるの…?」

声の主は、シルであった。

「あぁ…」

ジャストロは、少し驚きながら答えた。やがて、シルはもぞもぞとソファの所で動くと、ジャストロの寝ている上に覆いかぶさって抱きついてきた。こういうことをやらない女性だと思っていたのでジャストロは驚いた。どうやら、風呂上りらしく、甘い香りが鼻腔をくすぐり、一気に眠気が襲ってきた。

「今日は大変だったね…もし、怖くなったら私を襲っても傷つけてもいいから…誰にでも辛いこと…あるもんね…一人で抱え込んじゃダメだから…相談して…?」

睡魔に襲われながら、ジャストロはシルのそんな優しい声を聞き、深い眠りに落ちた。

どうも、閃光眩です。今回は比較的早く更新することができました。狩りで一番強いのは狩人ではないという事と、狩りの大変さ、一歩間違えれば…といったことを描かせていただきました。かなり重い話ではありますが、色々と受け止めていただければ幸いです。次回は新キャラ登場なのでご期待を!では、次の話で会いましょう。

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