第9話:神ュニケーション
「やったー!ここのSTCは神話体験できるんですね!」
ルナクは嬉しそうにピョンピョンと飛び跳ねた。
隣のシルも言葉こそ発さないが、少し嬉しそうであった。
なぜそんな当たり前にできる事にこんなに2人は喜んでいるのかというと、ルナクとシルがいた村では、本人達が神話体験しよう決めた日に、カプセルの不具合で神話体験ができなくなってしまったという。
「じゃあ、皆さんで行きませんか?私、神話の視聴はしたんですけど、お話ができなくてですね〜」
ルナクがそう提案した。しかし、ジャストロとフレードはその言葉に耳を疑った。
「ルナク、お話ってどういうことだ?」
「おぅおぅ、俺たち話しかけたりしたけど、答えてくれなかったぜ?」
そんな2人の質問に、今度はシルが答えた。
「あの神話視聴の後に、もう一回カプセルで神話の項目を開くと、視聴の下に体験っていう項目があるの…そこで、神話に出てきた人たちと、疑似会話できるの…」
そんなことを知らなかったジャストロとフレードは、その話を聞いて、即時に決めた。
「よし、行こう」
「行こうぜ!」
と、いうわけで、4人でSTCまで向かった。今日はかなりの狩人でごった返していたが、運良く4人分のカプセルが空いていた。それぞれがカプセルに入り、神話を選択した。ジャストロとフレードは、実は内心半信半疑の状態であったが、神話を選択したところ、本当に視聴の下に体験という項目があった。そのため確信し、ためらいなくそのボタンを押し、ゴーグルをし、背もたれに体を預けた、背もたれがゆっくり下がり、仰向け状態になった。そして、ワープ時の電子音が刻まれる…
やがて、電子音が止まった。背もたれがかなりふかふかになっているような気がした。心の中で10秒数えてゴーグルをとった。起きて周りを見回すと、そこはなんと…雲の上であった!ふかふかなのは、雲の弾力だった。周りを見渡すと、3人も驚いている。
「すげーじゃんかよ!雲の上に乗ってるぜ!」
「わぁ〜い!ふかふかのモフモフです!」
シルはというと、無言で雲をポフポフと叩いていた。
そんなことをしていると、ジャストロの目の前に画面が現れた。どうやら、話したい者を選択するらしい。他の3人には画面が表示されていないため、4人で一つの選択をしなければいけないらしい。
「よし、じゃあ、まず誰を呼びたい?」
ジャストロは3人に問いかけた。
「は〜いっ!カリエルさんがいいです!!」
即時にルナクが答えた。
「他の2人は?」
「俺もそれでいいぜ」
「いいと思う…」
ジャストロは一つ頷き、一番下にあるカリエルの画面を押した。すると画面が消え、そこから光の柱がいきなり出現した。そして、その光の柱が砕け散った真ん中に、大天使カリエルが立っていた。歳は4人よりも若めで、顔立ちも綺麗であった。
「何か用ですか…」
カリエルは少し退屈そうに答えた。
「本物みたいだな…」
「おぉすげぇな!マジモンじゃねぇか!」
「うわぁ〜可愛いですっ!」
「すごい…!」
あまりのリアルさに、4人とも知らず知らずのうちに口を開いていた。
そして、ルナクはというと、相手が大天使でありながら、堂々と抱きつきに行った。
「カリエルさ〜んっ、会いたかったですよ!」
「なんですか初対面で…飽きれますね全く。鬱陶しいですから離れてください」
カリエルは完全に嫌がっていた。というか、まず初対面で抱きつくルナクがいけないと思った。
その後カリエルは、抱きついたままのルナクを引きずりながらこちらに近づいてきた。
「そちらの方々は僕に用があるんじゃないんですか?早めにお願いしますよ」
まだ誰も何を聞くか考えていなかったため言葉に詰まったが、ジャストロが助け舟を出した。
「まず最初に、君が生まれたきっかけについて知りたいかな」
カリエルは無表情でジャストロを見つめ、少しの沈黙の後、口を開いた。
「もうすでにあなた方は視聴型で知ってると思われますけど…とりあえず、最初からお話しましょう。少し長くなりますよ。私は、全能神ラウトさんから生まれました。生まれた理由は、ライアスの審判をするためらしいです。なんでも、ライアスで悪事を働く者が現れ始めたらしいので、それを取り締まるのが僕の役目です」
「生き物は皆、狩神様が生み出しました。よって、悪事を働く者…すなわち神に背く行動をとった者が一人でもいれば連帯責任になりますので、その生贄として雷を落とす事にしました。雷を落とせば、そこには必ず生き物がいますかね。心は痛みますが、連帯責任として命をいただくことにしています」
視聴型は、我々が理解せずとも勝手に進んでいくため、内容も理解できないところが多くあった。しかし、こうして話してみることで、細かいところまで把握ができて助かる。
ジャストロは、もしかしたら体験型は交流以外にも、こういった大事なことを学ぶためにあるのではないかと思った。
そんなことを思っている間にも、カリエルの話は続いた。
「このことに対して不満がおありかと思います。しかし、我々はあなた方に、大地・自然・太陽・雨・様々な生物…など、多くの恵みを与えました。そして、あなた方が気持ちよく暮らせるため、対価は雷による生贄のみとしました。そこのところを理解していただければいいですけどね」
最初は無愛想なカリエルだったが、そのイメージをかき消すようにスラスラと説明をしてくれた。
「ありがとう。視聴型では分からないことまで聞けてよかった」
ジャストロは、深々とカリエルに頭を下げた。
「気にすることはないです。これも私の役目ですから…それより、この人をどうにかしてくれませんか?」
カリエルは鬱陶しそうに、ずっと自分をいじくりまわすルナクを指差した。
ジャストロには引き剥がすのは難しいので、フレードに頼もうと振り返った。しかし、フレードはヨダレを垂らしながら仰向けに爆睡していた。
「さっきの話…難しかったみたい…」
シルが少し呆れ気味に答えてくれた。そして、そのままルナクを止めるため立ち上がった。
「ルナク…めっ…!」
シルは少しふくれっ面でそう答えた。
「えぇ〜いいじゃないですか!天使なんてそうそう会えるもんじゃないですし!!」
そういって、ルナクはカリエルの羽の付け根を触った。
途端に、カリエルの体がビクンと跳ねた。
さすがのルナクもこれには驚き、思わず尻餅をついてしまった。
「ど…どうしたんですか…?」
ルナクは目を丸くしながらカリエルに問いかけた。
「っ…な、なんでもありません。ぼ、僕ははこれで失礼しますっ…まったく!」
そういって、カリエルは自分から消えてしまった。ルナクからしか見えなかったが、頰が少し赤いような気がした。
「なにしたんだ…」
ジャストロが問いただす口調で答えた。
「知りませんよ〜…!羽の付け根を触っただけなのに、いきなり身震いするんですもん。おかしいですよね〜っ」
ルナクは相変わらず反省の色もなしに、そう答えた。
ジャストロは、次来るときは一人でこようと思いながら、深いため息をついた。
「しょうがない、次は狩神様二人を呼ぶか」
そう言って、レギンとリレを呼び出した。
目の前に、日本の光の柱が現れ、砕け散った中にそれぞれ、レギンとリレが立っていた。やはり、狩神様としての威厳がオーラとして現れ、とても神々しく思えた。ちなみに、フレードはまだ爆睡しているが、3人ともレギンとリレに釘付けで、ほぼ存在を忘れている状態だった。
3人がボーッとしていると、レギンが口を開いた。
「俺はレギン。一度あんた達としては視聴型で会ってるが、こうして体験型で会うのははじめてだな」
続いて流れるように、リレが会話をつないだ」
「私がリレ。私もこうして会うのは初めてね。よろしくたのむわ」
二人ともテンポよく自己紹介をするうえに、神様らしい淡々とした口調に圧倒され、3人ともしばらく自己紹介をすることを忘れ、見とれていた。
5秒立ったぐらいに我に帰り、慌てた順に自己紹介をはじめた。
「わ…わ、私はルナクっていいますっ!よろしくおねがいひまふっ…!」
一番慌てたルナクは、完全にテンパって噛んでしまった。
「シ、シルですっ…!あの…よろしく…お願いしますっ…!」
シルも珍しく若干慌てた様子で答えた。
「ジャストロです…!会えて嬉しく思います。よろしくお願いします」
ジャストロは、内心慌てまくっていたが、外面は冷静さを装い、一番まともに挨拶ができた。
そんな4人の様子を見て、二人は少し困った顔をしていた。もちろん、慌てているのは承知の上だ。
「この分だと、ラウトに会うとなるとかなり大変そうだな」
「そうね。私たちを生み出した神様でもあるしね」
その後、少し沈黙が流れた。会話の種が見つからなく緊張しているため、質問しようとしてもできないというわけである。
「何か俺たちに質問とかあるか?あるならそう硬くならずに、色々聞いてくれ」
そんな4人を気遣い、レギンがいった。
そんな中、恐る恐るだが、積極的なルナクが口を開いた。
「リレさんにまず質問したいんですけど…お腹はなんで見せてるんですか?」
「なかなか面白い観点からの質問ね。これは、女の魅力を引き出しているの。でも、そんなことしたら普通は他の男が寄ってくると思うでしょ?」
その答えに、4人は頷いた。確かに、リレの元には、レギンの他にもラウトとカリエルという男がいる。そのため、お腹で無意識的に魅了してしまえば、二人を引きつけてしまうこととなる。
「でも、そんなことは全くないのよ。ラウト様は一人で創造できるから女性には興味がないし、カリエルも審判の仕事をこなすだけだから、同じく興味ないの。ただ、今日は少し視線を感じるわね」
そういって、リレはチラッとジャストロの方を見た。続いて、ルナクとシルの視線がジャストロに刺さった。ジャストロは、3人と目を合わさないように、遠くの方を向いていた。
「まあまあ、そんなに気にするな。男だったら女の魅力に囚われるのは当たり前だからな」
そこでレギンが助け舟を出した。が、ジャストロはやはり恥ずかしいのか、微動だにしなかった。
「ん…なんだ?もう朝か?」
そこにまたまた助け舟を出したのは、爆睡していたフレードであった。
「ふぁ〜よく寝たぜ!っと…!あ!あんたはレギンさんじゃねぇですか!!」
そして、他の4人のように緊張もせず、相変わらずの下手な敬語でレギンに話しかけた。
「ん?俺のこと知っているのか?」
レギンは意外そうな顔をしてフレードの元へ歩み寄った。
「この剣、実はあんたの持ち物だって蔵書館の本に書いてあったんですぜ!」
そういって、フレードは、腰に装備していた剣を、鞘ごとレギンの目の前に持ってきた。
「おっ!確かにこの剣は俺の剣だ。まさかあんたが持ち主だったとはな。一気に距離が縮まった感じだ!」
そういって、レギンはフレードの肩に手を回し、意気投合した。そんな中、ずっと黙っていたジャストロが、ここぞとばかりに質問を投げかけた。
「フレードがレギンさんの武器を持っているっていうことは、ラウトさんやリレさん、カリエルさんの武器も持っている人がライアスにいるということですか?」
その問いには、リレの方が答えた。
「そうね。ライアスのどこかには必ずいるわね。もし会ったらよろしく頼みたいところね」
「了解しました。会った時には伝えておきます」
ジャストロがそう言い終わってすぐ、謎の警告音が鳴り響いた。どうやら、レギンとリレとの会話時間、残り1分前らしい。かなり話し込んでいたためであろう。
「そろそろ時間か。色々話せて楽しかったぞ。また会えればいいな!」
「折角だから、また時間ができたら遊びに来て欲しいわね。いつでも待っているから」
そういって、二人は消えてしまった。
「あーあ、リレさんのお腹ちゃんと見ときゃよかったぜ」
リレのお腹大好きなフレードが残念そうに呟いた。
いよいよ、残るは全能の狩神様、全能神ラウトだけとなった。
「私、さっきみたいに固まっちゃうかもです…」
と、ルナク。その発言に、フレード以外の3人が頷いた。
「ん?なんかあったのか?」
もちろん、当の本人は何も分かっていない。
ということで、雰囲気的にフレードが最初にラウトに話しかける流れとなり、ジャストロがラウトのボタンを押した。途端に光の柱が現れ、ラウトが現れた。やはり、顔には謎の微笑みを浮かべている。
「初めましてだね。僕はラウト、よろしく」
そして、よく通る声で堂々と名乗った。声だけでもかなりの威厳を感じた。
「「「「よ、よろしくお願いします」」」」
そして、4人はラウトに操られるのかのように、無意識に挨拶を返した。
「うん。それじゃあ、僕に何か聞きたいことがあれば、聞いてくれて構わないよ」
4人とも、レギンとリレの時は固まっていたが、なぜか今はリラックスした状態だった。
だが、いつもの通り、ルナクが聞きに行った。
「ラウトさんは、どうやって色々を創造しているんですか?」
ラウトは一息置いて答えた。
「んー、そうだね。実は、僕の体の一部を使えば、なんだって創造できるんだ。もちろん、体毛でもオーケーだよ。僕がライアスを作った時には、髪の毛を抜いて創造したよ」
「ほえぇ!じゃあ、その後のライアスに人間が創造されるまでも聞いていいですか?」
ルナクはラウトの何かに惹かれるように、さらに突っ込んで聞いた。
「うん。もちろんいいよ。その後は、リレ・レギンを生み出したんだ。その時は、体液で創造したね。失礼なことにも感じると思うけど、より重要な者を生み出すためなんだ。その後は、僕は血を流して動植物やの創造を、レギンとリレは交わって、狩人や初祖龍の創造をしたんだ」
一呼吸おき、さらにラウトは口を開いた。
「そしてその後、ライアスの秩序を乱す者が現れたってことは知ってるよね?だから、それを正す審判という存在が必要になったんだ。そこで、僕が体液を使って創造したところ、カリエルが生まれたんだ。これでいいかな?」
話を聞き終えたルナクは、目を輝かせながら拍手をした。
「おぉー!ありがとうございます!ラウトさん自身の体験談だったので、とってもわかりやすかったです!!」
「ん、それはよかった!」
ラウトは満足そうに一つ頷いた。
「じゃあ、他に聞きたいことはあるかな?」
ラウトがまた口を開くと、ここでフレードがやっと初の質問をした。
「んじゃあ、俺から。ライアスにはこいつみたいに神様が作った武器があったりしますけどよぉ…他にもそういうなんかすげぇもんっあるんですかねぇ?」
その問いに、ジャストロも頷いた。実は、ジャストロも聞きたかった問いであった。
「なるほど。実はもう一つ、武器の他にも僕たちに関係するものはあるよ。それは、神化龍っていうんたけど、僕たちの化身とされているドラゴンが、ライアスの各場所にいるんだよ。どうやらかなり強いらしいから、もし戦う場合はSTCをおすすめするよ」
と、ラウトが言い終わった所で、警告音が鳴り響いた。
「おっと、もうこんなに時間か。それじゃ、僕はそろそろ帰るよ。君たちはなかなかいい目をした狩人だったよ。君たちには期待しているよ」
ラウトはそういって一つウインクをした。と、それが合図かのように、ラウトは消えてしまった。
「いや〜楽しかったですね!」
「おぅ!レギンさんにも会えたしな!」
「神化龍、気になるな」
「貴重な体験…楽しかった…!」
それぞれが感想を口にし、STCへ戻るために準備を始めた。
「そうだ。向こう帰ったあとのノルマはなに狩るんだ?」
ふと、フレードがたずねた。
「私はアンガロスをまた狩りたいです!この前は散々でしたけど、今度は頑張りたいです!」
と、ルナク。
「そうだな。それがいい」
「さんせい…」
ジャストロとシルも異議はないようだ。
「んじゃ、そうすっか!!よっしゃ、帰るぜ!!」
最初爆睡していたフレードの掛け声に3人とも呆れながら、ゴーグルを装着し、仰向けに寝転がった。
今日あったことを考えながら目を瞑る。やがて、耳に聞きなれた電子音が鳴り響く…
(神化龍や神器のことについて暴いてやる!)
そんな思いを胸に抱きながら、4人の狩人は村へと帰還した…………
どうも。閃光 眩です。今回の話は、ロールプレイングハントにおける神話の神様と天使について焦点を絞ってお送りいたしました。ただ見るだけや、狩りをするではなく、交流もできるというのもSTCの良い所です!また新たに、ライアスの三狩神器所持者についてや、神化龍の存在などが出てきて、今後、それらがどういった形で物語りに絡んでくるのかが見どころです!!ではまた、次の話で会いましょう。