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名医のいる大学病院

作者: 大蔵 富造
掲載日:2012/12/03

コメディーの分類で。

こんな診断を自分がされたら笑えませんが…。

 巷で有名な医者(38歳)がいた。

 彼の患者はどんな症状だったのか話してくれるが、どんな治療を受けたかは話すことはない。

 ただ、みんなが口をそろえて「先生のおかげで完治した」と言い、すがすがしい表情で病院をあとにする。

 そんな名医のもとに今日も患者が訪れる。



 採血を終えた男性(32歳)が診察室に入ると、名医と呼ばれる医者と女性看護師がいた。男性は思った。名医というにはまだ若い気がする。なんとなく老け顔の青年という印象を受けた。

「どうぞ、お掛けになってください。いきなりの採血には驚いたでしょう?」

 名医の声は高くもなく低くもなく安心感を与えるようにゆったりとしたものだが、いたって普通の声。


 男性は丸いイスに座る。

「まだ、症状も言ってないのに採血なんですね」

「そうですね、診断を早くするためです。事前に採血しておけば、すぐに結果が分かりますから。一度呼ばれて症状を言って、採血室に連れてかれたり、時にはレントゲンを撮ったり、患者を歩きまわさせるでしょ? 僕もね、医者になる前までは歩き回らさせられてイライラしたものですよ」

 女性看護師が資料を名医に渡した。名医は受け取った資料を見ながら、

「はい、これが採血の結果です。早いでしょ? この結果と患者さんの症状を合わせて診断していきます。患者さんが気付いていない病気が見つかることもありますよ。あっ、もしかして採血の時に今の話は全部聞いてました?」

「……はい」

「すいませんね、何度も説明するのも医者の義務ということで。さて、今日はどうなさいましたか?」



 男性は後頭部をさすりながら言う。

「あの、実は10日ぐらい前から頭痛がありまして、後頭部あたりなんですが。だいたい夕方になると痛み出すんです」

「…頭痛ですか。眼精疲労や肩こりから来る場合もあります。お仕事は目をよく使う仕事とか…またはパソコン関係ですか?」

「えっと、教師をしていますが、パソコンを使うこともあります」

「あ~、先生ですか。生徒のこととか保護者関係で頭を悩ませる感じですか? 確かに頭が痛くなりますよねぇ…ってそうじゃないですよね」

「ま、まぁ…そうですね、その頭痛とは違います」

「同じく先生と呼ばれる立場ですが、お互いに頑張りましょう!」

 名医は手を出して、男性はしぶしぶ握手をした。名医の手は熱かった。



「ねぇ、ほんと大変ですよねぇ。私も患者さんでねぇ……あっすいません、え~っと血液検査では…数値に異常はありません。ちょっと頭を見せてください」

「はい」

 男性はイスに座ったままくるっと回る。名医は患者の後頭部を触らず、まじまじと見つめた。

「あぁ~なるほどぉ。最近、体重増えました?」

「いや~、ちょっと、わかりません」

「頭痛は空腹時に起きませんか?」

「そう言われれば、そうかもしれません。夕方なので」

「あっ、もういいですよ。こっちを向いてください」

 男性は元の向きに戻ると名医はカルテに何かを書きながら言う。

「つかぬことを伺いますが……妖怪って信じますか?」

「……え?」



 名医は男性の目をじっと見て言う。

「妖怪です」

「あの、え? 妖怪って……あの妖怪?」

「そうです。あなたには妖怪『ふたくち』が憑いてます!」

「ちょ、ちょっと待ってください! 妖怪だなんて…」

「ここをどこだかご存知ですか? 大学病院です。真剣な診断結果です。病名は妖怪ふたくちです」

「あ、え…本当なんですね。その…ふたくちってなんですか?」

「ま~、一種の人面瘡ってやつです。比較的女性に多い症状なんですけど、最近は男性にも憑くようになってますね」

 男性は困惑の表情である。妖怪よりも人面瘡という言葉のほうがショックだった。



「ガンの告知をしても信じない人がいるぐらいですから、いきなり妖怪って言われても信じられませんよね。でも、安心してください、すぐ治りますから!」

「あ、あの本当なんですか? 本当に冗談じゃないんですか?」

「ほんとですよ、私は医者ですよ? 患者さんに嘘はつきませんよ。あっ、ちなみにこちらの看護師さんもふたくちです」

「えぇっ!?」

 女性の看護師はニコッと微笑んだまま口を開かずに、

「私もふたくちです。風邪とは違って病院にいても憑いてしまうので、気にしないでください。治す方法は判明していますので」

 と話した。


「わかりました? 今のは彼女の後頭部についたふたくちが話したんです。信じてもらえましたか?」

「え…そうですか…妖怪って…本当にいるんですね…」

「医学とはちょっと違いますが、妖怪はいます。誤解しないでください、彼女は妖怪じゃないです。妖怪が憑いただけ。私からしてみれば妖怪なんて言葉も差別用語みたいで嫌いなんですが、他に変わる言葉がないんです」

 男性は、うなづいて聞いている。



「それでは一週間分のお薬出しておきます。いいですか、ふたくちは害はないですから。いつも通りの生活で平気です。後頭部を下にして寝ても平気です。患部を触っててもいつもと変わりがなかってでしょう?」

「あっ、はい…そうですね」

「いいですか、もう一度言います。害はないのでいつも通りの生活で平気です」

「は、はい、わかりました」

「では、診察を終わります。一週間で治ると思いますので、完治した姿を見せてくださいね。最後にひとつ、病名はふたくちですが、カルテには頭痛と書いてあります。それは世間的にはまだ妖怪の話をしたら精神を疑われるかもしれないので、ですから口外禁止ですよ。私とあなたの秘密です」

 名医の爽やかな笑顔と完治という言葉を聞いて安堵した男性は診察室を後にした。



「…先生、また妖怪なんて言っていいんですか?」

 女性看護師はちゃんと口を開いて話した。

「いいの、いいの。血液検査で異常はなし。その頭痛は錯覚なんて言っても信じないでしょ? 人間ってのは何かのせいにしたいんだよ。それにしても腹話術うまくなったね! 驚いちゃった」

「練習しているんです! 先生のせいですよ。でも、本当に妖怪のせいにすると治っちゃうんだから不思議ですよね…」

「気の持ちようってやつだね。本当に病気だったらこの目で見抜けるし、患部を食べて治せちゃうもん、私は病気が好物の妖怪だからね」

 名医は蛇のような二つに分かれた舌をペロリと出して笑った。

医者の診断と自分の症状がなんだか一致しない時ってありませんか?

あと、この先生って本当に医者なのかなってラフな人いますよね。

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