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6-6

 わたしは紋章を通り、魔界の家の玄関に帰り着いた。

「ただいま~」

 帰り着いた玄関にバフォメット様が姿を現わした。

「なんだ、戻ってきたのか」

「ええ、あんなわからず屋なんて縁を切ってもらって清々したわ」

「しょうがねえ娘だな、サッちゃんは。……さあ、おいで」

 バフォメット様が腕を広げて、わたしは広い胸に身をまかせた。大きな手がわたしの髪をなでている。

「ずっとここにいていいんだぜ。ここはサッちゃんの家だ」

 張り詰めていた心の糸がぷっつりと切れ、涙があふれてきた。わたしはバフォメット様の胸にすがって泣きわめいた。玄関じゅうにわたしの声が響き渡った。

「やれやれ、まだまだ嬢ちゃんのまんまだな」

「ルシファ様も……とうっ……様も……いなっ……く……なっちゃっ……た」

「そうだな。どうしてサッちゃんの大事な野郎はみんないなくなっちまうのかな。……しょうがねえ、こうなったら俺が父親になってやるか。パパとでも呼んでくれ」

「……そんっな……ことを……したら……バフォメット様まで……いなっ……くなっちゃう……」

「俺様みてえなつえー男は死にもしないし、頼まれたってサッちゃんを放したりしねえぜ? 姉様を守ってやれなかった分、大事な妹を守らせてくれ」

「……いいっ……の?」

「ああ、かまわねえ。サッちゃんは一人じゃない。だから、もう泣くな」

「……それなら……わたしをお嫁さんにして? ハーレムも……解散しちゃったんでしょう?」

「その手があったか。娘みたいなもんだって言ってきたばっかりに……」

 バフォメット様は頭を抱えた。

「……言い直してよ。お嫁さんにしてくれるでしょう? もう、一人でいるのも乙女を守るのもたくさんなの。本当の愛がほしいのよ。だからわたしを抱いて?」

「やけを起こすもんじゃねえ。いつか本当に夢魔をやめてもいいってくらいに俺に惚れたら、思う存分抱っこしてやるから。それまでは姉様の夢魔術と純潔を大切にしろ」

「……姉様の指輪を父様に置いてきちゃったわ。わたしの形見として」

「縁起でもねえこと言うんじゃねえ。またピジョンブラッドを作って指輪にしてもらおうぜ」

「じゃあ、わたしの目を見てお手本にして?」

「眠らせておかしなことするなよ?」

「起きたままでもするわ」

 バフォメット様の顔を引き寄せると、しつこいくらいのキスをして、身体を擦りつけた(すりつけた)。

「ねえ、こんなことする女は嫌い?」

 バフォメット様の手を導き、身体じゅうを触らせた。

 ――長いキスから解放して腕をすり抜けると、バフォメット様は歯ぎしりをして固まった。

「……そ、その手は食わねえぜ」

「姉様が言ったとおりの唐変木とうへんぼくだわ。……パパ、大好きよ!」

 パパの胸に飛びこもうとして、かわされてしまった。

「今すぐ眠らせて夢を見せてくれ、おかしくなりそうだ!」

「どっちの夢にする? 姉様? わたし?」

「娘の夢なんぞ見てたまるか。姉様でたのむ」


 その後、奇跡的に一命を取りとめたサタン様が代理君主となり、ルシファ様を失って暴徒化した民衆を取りまとめた。天界との和平交渉も無事にすみ、サタン様は新しい魔界の星になった。暴動で荒れた街を再生したサタン様は、魔界の街を『魔界都市パンデモニウム』と名付けた。残念なことに、深手を負って戦争前後の記憶をなくしていたサタン様は、城で会っても「君、可愛いね」と声をかけてくる程度の見知らぬ王様になっていた。それでも、命がけでルシファ様を守ろうとしたサタン様をわたしは密かに尊敬していた。その後積み上げられた数々の功績によって、サタン様は雲の上の存在になっていった。ルシファ様のママ達に呼ばれてお茶会に参加することもあったが、それ以外にお城に出向く用事はなかった。

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