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第五章

 ルシファ様のお城は市街地中心の広大な敷地に建っていた。取り囲むおおほりの一カ所にかけられた跳ね橋を渡って城門をくぐると、芝生の広場がどこまでも広がっていた。この広場は一般の出入りが許可されているので、多くの人々が寝そべったり、バーベキューをしたり、ワルツを奏でるバイオリンで踊ったりしていた。わたし達は広場を貫く舗装の小道を歩いていた。

「お祭りみたいね」

「そうだな。退屈な時はここにくればいい。誰でも仲間に入れてくれるぜ。だが、嬢ちゃんはもうちょっと人を見る目を養ってからのほうがいいかもな」

「悪い人がいるの?」

「いい奴等だが自分に素直すぎる奴が多いからな、魔族ってのは。だから、嬢ちゃんみたいな娘を見たら言葉巧みに誘惑してくるに違いないぜ」

「わたしが誘惑されたら、焼き餅を焼いてくれる?」

「乳がでかくなったくらいで俺様を独り占めできると思うなよ? 俺はモテモテだからな」

「そうでございましたわね。あなた様ほどの男ぶりなら、ご婦人がたが放っておくはずありませんものね」

「ハーレムは解散したんだぜ?」

「どうして? いつか奥様達にいろいろ聞かせてもらいたかったのに」

「奥様達か……。まあいい、行くぞ」


 広場のはずれあたりまでくると、数台の馬車が待機していた。

「大きなお馬さんね」

「乗りたいか? 飛んでいってもいいんだが、言えばいくらでも乗せてくれるぜ?」

 ツヤツヤと黒光りする二頭の馬に引かれる馬車に乗りこむと、舗装された道をどこまでも走った。

「ルシファ様って、遊び心のあるおかたなのね」

「だから魔界人に尊敬されるのさ」

 しばらく客車に揺られていると、尖った屋根のお城が見えてきた。白っぽい石に黒い屋根の巨大なお城の周りには、同じく尖った屋根の高い塔が建っていた。

「あの中に敵国のお姫様が幽閉ゆうへいされていたりはしないの? 王子様に助け出されるのを待っている素敵なお姫様が」

「可愛い女達はいるぜ? あそこはルシファ様のハーレムだからな。まあ、入りたくて入った奴等だから、自分の王を待っているだけだがな」

「そうなの。残念だわ」

「そのうち大天使の姫でも堕として(おとして)きて献上けんじょうするか? 天界の奴等、血相を変えて迎えにくるぜ? おっと、それじゃあ戦争になっちまうか」

「戦争はいやよ。それに、さらってきてはやっぱりかわいそうだわ」

 わたし達は馬車を降りると、猛牛のような顔の兵士達の横を通り、城に入った。

 広くて入り組んだ黒絨毯の通路を、バフォメット様は迷いもせずに進んでいった。バフォメット様ほどの長身でもかがまずに入れる大きな扉を開けると、頭から髪の代わりに黒い蛇の生えた女性がいた。黒いスーツ姿の女性は蛇をウネウネさせているものの、シャープな顔立ちの美しい人だった。

「あら、バフォメット様。素敵なお嬢さんを連れてどうしたの? 娘さん?」

「なんだ、どいつもこいつも。俺はまだまだ現役だっつーの」

「はいはい。で、可愛い恋人を連れてわたしにご用?」

「恋人でもないが、まあいいか。エウリュアレ、この子がサキュバスを引き継ぐことになったんだ。手続きを頼む」

「サッちゃん、残念だったわね。いい子だったのに。お嬢さん、書類を見せて?」

 書類を渡した時に蛇がわたしの顔に近付いて、思わず飛び退いて(とびのいて)しまった。

「ごめんなさい! そういうつもりでは……」

「いいのよ。みんな最初は怖がるわ。でも、この子達にもいいかげん愛着があって、散髪というわけにもいかないのよ。好きでやってることだから、いちいち気にしてないわ」

 エウリュアレさんは書類に素早く目を通すと、四角いスタンプを押して整頓された書類の山に加えた。引き出しから色々取りだすと、赤みがかった濃い色のがくを二つ組み立て、紙とメダルのようなものをそれぞれに入れた。

「はい、これであなたも魔界貴族の一員よ。しっかりルシファ様を支えていきましょうね」

 手渡された額には任命証と小さな逆五芒星が彫られた勲章くんしょうが入っていた。

「その星が位を示すんだ。まあ、身分なんて問題にする奴は少ないがな。ようは星集めのゲームみたいなもんさ」

「面白そうね。頑張っていっぱい星をもらうわ」

「たのもしいわね。頑張って」

 そこへ、おおげさな黒いマントに身を包んだ男の子が入ってきた。見た目は十歳くらいのどこにでもいる地上人みたいな男の子だった。ハンサムではないけど、見苦しくもない青白い顔をしていて、きれいにそろえられた黒髪には清潔感があったが、マントからのぞく細い脚を見るとなんだかちょっとたよりない坊やという気がした。

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