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それでもいつのまにか眠っていたわたしを、サッちゃんが起こした。正確にはわたしの鼻をつまんで口を開けさせ、甘いパンをちぎって放りこんだのだった。半分無意識でパンをモグモグと噛むと、とても美味しくてもっとほしくなった。
「おはよ。よく眠れた?」
「あんまり。その……ごめんなさい。女の子のあなたに……。恥ずかしいわ」
「そのうつむいた顔がまた男の子にはたまらないんだよ。どう? 恥ずかしさって研究に値するでしょ?」
「いやな研究ね……」
サッちゃんが残りのパンを、わたしの目の前でちらつかせた。
「ほしい?」
「くれるの? とっても美味しかったわ」
「あたしから取ってみなよ」
「くれないのなら、いらないわ……」
サッちゃんはパンをかじって、とても幸せそうな顔をした。
「もう、意地悪」
「いいかい? ロージーは欲望ってやつを毛嫌いしすぎてる。人に迷惑や不快を与えるような欲望は、ほどほどにしておくほうがいいけど、もうちょっと素直になってもいいんだよ?」
わたしが手を伸ばすと、サッちゃんは素早くかわす。
「ほーら、取ってごらん? あたしの作ったパンは美味しいよ?」
何度も何度もかわされてしばらく夢中になっていると、やっとパンをつかんだ。
「ごほうびだ、食べてよし! ミルクもサービスしよう」
サッちゃんは逆五芒星を描き、コップに入った冷たいミルクをくれた。勝ち取ったパンとミルクはとても美味しかった。
「さて、今度は読書の時間だよ」
そう言ったサッちゃんは本棚から数冊取りだしてきた。それらの本は女性の裸体が表紙になっていた。
「文字だけから浮かぶイメージっていうのは、時として映画よりも強い愛の欲求を与えてくれるんだ。それ、全部読んでね。あたしはもうちょっと寝るから。誰かさんのおかげであんまり眠れなかったんだ」
「いやだ。ごめんなさい、サッちゃん」
「いいって、わざとそうしたんだから。今度は本当に寝ちゃうけど襲わないでね? 信用しないわけじゃないけど、ベッドの周りに罠を仕掛けるから近付いちゃだめだよ? 急用でもあったら大声で起こして」
「は~い。おやすみなさい」
部屋を出てリビングで本を読み始めると、ゴソゴソという音が聞こえてきた。本当に罠をしかけているようだった。わたしは恥ずかしさに目を潤ませながら読書に戻った。
――すべての本を読み終えてまた身体が熱くなり、ふらふらと扉に近付いていったわたしも、さすがにサッちゃんが仕掛けた罠にわざわざひっかかるのはちょっと癪だった。
気分転換にテレビでも見ようとリモコンを押すと、画面にサッちゃんが映った。
「君はまだ気分転換なんてしちゃだめだよ? これでも見てなさい」
愛の映画が始まった。サッちゃんは鬼教師だった。
――映画を何本も何本も見せられていると、サッちゃんが起きてきた。
「な~んだ。ロージーの可愛い逆さ吊り姿でも見られるかと思ったのに」
「サッちゃんの意地悪……」
「だいぶいい顔つきになってきたね。そんないい顔をしてバフォメットに会ったら、さすがの彼でも押し倒しちゃうかも。……可愛いよ」
「サッちゃん……わたし……」
吸い寄せられるようにサッちゃんに近寄り、すがりついた。
気が付くとサッちゃんの太ももに夢中で口付けていた。
「初めから飛ばしすぎたかな? ちょっと気分転換でもするか」
「いいの?」