Fu・Ri・N
「道理でおかしいと思ったわぁ。だって、コーヒーメーカーがすごいのに比べて、他のものは全然だものね」
「そうなんだ。僕は、なんというかそういうのは全然わからないし、うちの親も男子厨房に入らずっていうのの標本みたいなものだったし」
「『おーい、お茶!』っていうとお茶と灰皿と新聞が出てくるみたいな?」
「ははは、まるで見たことのようにいうけど、本当にそんな感じだったんだよ」
「やーね、男って。いまだにそんなことが通用すると思ってるんだから、もう20世紀も終わりよ」
「あー、まー、そーなんだけどね。だからこそ、僕はこうして東京に出てきたし、そのお陰で君に会えた」
「何よそれ。2000年問題とわたしは並列で並べるような凶事や事故みたいなものなの?」
「あ、は、は、は、こりゃ一本とられたかな」
「あ、あのねぇ、その旧世紀的な受け答え、若い子に嫌われるわよ」
「いいんだ、僕は若い子に嫌われようが、ただ一人だけ笑ってくれれば」
「もう、またそういうこと言って!」
二人の会話は、一見していつもと変わらないようだった。だけどわたしには違って思えた。違って感じられたし、今までとは違うものが見えた。それは手探りでお互いの距離を測ってきた二人が、互いの場所を確認し合い、そしてお互いがどの方向を見ているのか、そしてどの方向に向かおうとしているのかを、互いに気遣う姿。愛し合う普通の恋人のそれとは何か違う。
「わたしね。学生の頃に付き合ってた彼氏がいたんだけど彼が地方の大学に行っちゃってね、それでしばらくは長距離恋愛してたんだけど、ダメね。お互いが信じられなくなるっていうか、自分自身が信じられなくなるって言うか……よくわかんないけど、すぐにうまく行かなくなっちゃってクリスマス前に別れちゃった。長距離恋愛って、お互いを信じあえるかじゃなくて、自分自身をどこまで信じられるかで決まるんだなぁって、最近はそう思うようになったわ。なんでかはわからないけど、そう思うようになった」
あー、わたし、何をしゃべっているのかしら、自分で言っていて訳わかんないよ
「自分を信じる……かぁ、なるほど、それは一理も二理もあるかなぁ」
ダメ。そんなに遠くを見ないで。お願いだからもっと近くの、もっと近くのわたしだけを見て。
そう願うなら、最初からそんなことを言わなければいいのにと、わたしは自分の唇をこっそりと、それでも強くかみ締めた。痛かった。嫌な女ね。わたしは自分を責めながらも彼の大きな肩に必死でしがみついた。本当に嫌な女。こんなことをして、彼を困らせて、それでも振り向いて欲しい。そばにいて欲しい。でも、彼らしくあって欲しい。どっちも本当の気持ち。どっちも本当の自分。
わたしの中で、今はっきりと、一つの言葉が頭の中を駆け巡る。
嗚呼、わたし、Fu・Ri・N してるんだ。