きみの朝
目一杯、彼に甘えた次の日の朝、春を目の前に急に冷え込んだりするのは、それはそれで季節感があってわたしは嫌いじゃない。だって寒いことを理由にわたしは朝から彼にしがみつき、思いっきり甘える事が許されるのだから。
横たわる彼の顔に朝の光が射しがさしている
彼の過去の重さって、いったいどんなものなんだろう?
そう考えずにはいられなかった。でも、そのことを彼に直接聞くことはできなかった。
怖かった。
でも、いつか、それはわたしの前に現実として落ちてくるのだろう。そしてその日はそう遠くはないとわたしの中の何かがザワザワと騒ぎ立てる。
別れようとする魂と出会おうとする魂
わたしたちの出会いは、別の別れを意味するのかしら、それとも……
誰の上にも朝は訪れる。それが悲しい一日の始まりなのか、素敵な一日の始まりなのか、出会いがあるのか、別れがあるのか
「寝坊スケさん、朝ですよ」
彼の耳元でささやく。
「モーニン、モーニン、きみの朝だよー」
「懐かしいね、その歌、もう、20年くらい前になるのか」
「そうね、わたしはまだ小学校の低学年だったかなぁ、確かこれ、金八先生の後だったよね」
「うん、確かにこれを歌った岸田聡史はそのドラマに出てたけど、『きみの朝』は、他のドラマの挿入歌だったんだよ」
「えー、そうだったっけ?よく覚えてるね」
「まぁね、なんというか、思い出の曲だったから」
わたしは一瞬はっとした――『へぇ、どんな思い出?』と聞こうと思って、わたしはその言葉を飲み込んでしまった。
「わたし、マッチ好きだったなぁ」
だって、聞くのが怖かった。わたしと彼の間には、まだ思い出の曲と言えるものは1曲しかない。思い出の曲……そこには必ず恋愛の、それもどちらかといえば甘酸っぱい思い出が詰まっているものだ。でも、今はまだ、彼の過去まで含めて、全てを受け止める自身がなかった。ちがう、そんな遠い思い出話じゃないの。だって彼の向こう側には、常に誰かの影が見えるもの。
「ボクは明菜派だったかな。さて、じゃぁ、コーヒーでも入れようか」
「うん、お願い」
すれ違っているわけではない。お互いに何かを避けて、何かから逃げて、何かをごまかしている。そんな感覚に捕われるようになったのは、思い起こせばこの日を堺にだったかもしれない。
何かが足音を立ててだんだん近づいてくる。だんだん近くなってくる。