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ねぇ

「ねぇ、わたしのことどう思っている?」

 そんなこと怖くて聞けなかった。わたしの期待通りの返事ならそれを信じられるのか、そうでなく、悲しい返事だったら、苦しみに耐えられるのか、わたしにはわからなかった。


「どうしたの?そんな顔して」

 そんなことを考えていると、彼はわたしの顔を覗き込むようにして、そしてやさしく、意地悪そうな表情で微笑んでくれる。


「べーだ。どうせ そ・ん・な・顔ですよーだ」

 彼はずるい。わたしにだってわかるんだから……最近特に気になるようになった。或いは本当に回数が多くなったのか、時間が長くなったのが、彼が時々遠くを見つめるような表情で、なにか考え事をしている。そんな彼を心配して……心配?なにを心配しているの?わたし……


「そんな顔をされると、益々好きになっちゃうだろう」

 彼はずるい。わたしは…・・・わたしはもう、彼なしでは生きていけない。そんな気にさせられる。


「もう!いつもそうやって!」

「そうやって――なに?」

「もう!ズルいんだから!」

「そうだよ。ボクはズルい男――こんな素敵な女性を独り占めできるなんて、ズル以外のなんでもないよね」

「もう!だから、そういうのやめてよねー」

 わたしは始めて彼とであったときのように真っ赤な顔をしていた。

「あの時も、そんな顔してたね」

「あー、そう、いつか聞こうと思ってたの。あのときキャベツを選びながら、『これしかない』とかいってなかたっけ?あれ、どういう意味?」


 彼はしばらく上のほうを見ながら――彼は何か思い出したり、するときに必ず腕を組みながら上のほうを見上げる。「あー、あれね。うん、あれはね――」そして照れくさいとき、彼は決まって右手で頭を書きながら話す。「――僕は、野菜炒めと焼きそばしか、料理できないんだよ」


 彼と付き合うようになってから、ご飯は必ずわたしが作っていた。そして食事の後は必ずおいしいコーヒーを入れてくれる。


「えー、じゃー、毎日野菜炒めと焼きそば食べてたの?」

「流石に毎日じゃないけど、どうもコンビニの弁当って言うのは好きになれなくて」

 確かに彼はしっかりしているようで、どこか生活感がない。いいところの坊ちゃんという感じではないが、身の回りの世話は家の人が、やってくれていたというのはすぐにわかる……家の人、ご両親、そして前の……


「ねぇ、今度、料理教えてあげようか」

 わたしは自分がまた、何かを考えて不安な気持ちになるのがイヤで、思いついたことをそのまま口に出して言ってしまった。

「うん、あまりできのいい生徒じゃないけど、先生と呼ばせてもらうよ」


 あっ、しまった!


 わたし、そんな人に料理を教えるなんて、わたしが人に料理を教えるなんて、家族が知ったら、きっとひっくり返って笑うことだろう。


「ねぇ、ちょっと、その先生とか言うのは……やめない?」

「やめないっ!先生、どうか、よろしくお願いします!」

「ねぇ、もう、ちょっと~やめてよね~」


 なにをやっているんだろう、わたし……わたし、いったい、なにを……

 わたしは彼をわたしのものにしたかった。だから彼とも思い出を一杯作りたかったし、彼が料理や洗濯といった身の回りの事が苦手なら、それを教えてあげることで、彼を自分の色に染めることができるような気がしていた。だから2人で映画を観たときも、サントラのCDを買って彼の部屋で2人で聴いた。スティーブン・タイラーのバラードは、2人の思い出の曲になったし、『アルマゲドン』は今まで見た映画の中で一番好きな映画になった。



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