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募る想い

 幸せに感じれば感じるほど、彼を身近に感じれば感じるほど、わたしはどうしようもなく不安になった。


 彼と会えないとき、気を紛らわすのにとても苦労した。


「先輩、最近変ですよ」


 来た。サッチンよ。どうしてこの子はこうもするどいかな?


「ナニがよ、ナニが?」


「だって先輩、最近ため息多いですよ。知ってます? 人はため息をつくたびに、なんだかが逃げていくそうです?」


「お、おい。そのなんだかって言うの、なんなのよ? それを言うなら幸せが逃げてくだろうよ」


「さすが先輩! 何でも知ってるー! で、先輩はどんな幸せを逃がしたんですか?」

 

 し、しまった! 完全にはめられた!


「に、逃がしてなんかいないワイ!」


「えー、じゃー、もしかして今――、幸せの真っ最中なんですか? ずるい、ずるいー。私たちを差し置いて先輩だけ幸せになるなんて、約束が違うじゃないですかー」


 う、うん? いつそんな約束をしたっけ……。


 っていうか、なんかすっかりバレバレな感じなんですけど。


「わかった! わかりました。わかったからもう勘弁してくれー。白状する。白状するからもう少し時間をおくれ、もうひとつのため息の理由を片付けちゃうからさ」


「もうひとつの理由って……。あー、例のプロジェクトの話ですか。なんかいろいろとややこしいことになってるみたいですね。部長も頭抱えてるとか」


 新年度に向けてWEBページを大幅にリニューアルする企業はたくさんある。


 我が社もそういったクライアントをたくさん抱えているのだが、その中にはなかなか企画内容が固まらない案件もある。


 クライアントからすればWEBの製作など、企業の様々な活動の中でも、まだまだ優先順位の低い分野である。


『これからはWEBの時代が来る。紙のパンフレットよりもWEBの商品説明力は圧倒的な情報の量と鮮度を送ることができる』


 などと、最初はみんな鼻息が荒い。


 しかし、何事にも新しいことは、理解を得るのが難しい。


 それはその企業がどういう使い方をするか。また決済の必要な部署や手続きなど、今までのやり方と違う。


『WEBになんでそんなに予算がかけられるのか』とか、『専任の担当はつけられない』とか、問題は様々。そういった問題をクリアしたとしても、『社長の一言で一からやり直し』などということは日常茶飯事。


 この年度末はまさにそのピークのようなものだった。


「わたしたちってさぁ、結構最先端なことしてるのにさぁ。相手の頭の中が旧式だとどうも話がかみ合わないのよねぇ。流行に敏感な業界の企業と話をするときはまだしも、老舗とかなると、まぁ、用語一つ一つ説明しないといけないし、大変なのよねぇ」


「このまえなんかぁ、ちゃんとページが表示されていないとか、クレームの電話がかかってきたんですけど、結局お客さんの使っているブラウザーの設定が悪くて……。まぁ、でもそれも、お客さんが悪いかといえば、そんなことないですしねぇ」


「おー、サッチンもだいぶ大人になったじゃん。前はすぐに『キィィィー』とか『ビィエェェェン』といってわたしに泣きついてきてたのに」


「そりゃぁ、もう、頼りになる先輩の一部始終を見てますから。お客さんの対応の仕方も覚えますって」


 おいおい、この子はずっとわたしのことを観察してるのか?


「は、は、は、なんかこう、うれしいような怖いような話だね。それ。道理で最近背中に視線を感じるわけか」


「はい、先輩のことなら、何でも聞いてください。わたし何でも知ってますから」


「こ、こら!大人をからかうんじゃないよ」


「ははは、なんちゃてぇ」


 いや、正直バレバレだろうな。


 きっとデザイナーのアッコも気づいているけど、あの子は気を使って気づかないフリをしている。


 まぁ、キヨミはそういうことには無関心かもしれないけど……。


 キヨミは今まさにその厄介なクライアントの担当だけに、それどころじゃないだろう。


 ありがとうね、サッチン。


「わたし、みんなに甘えちゃってるのかなぁ」


 思わず口に出たその言葉を、誰かに聞かれたのではないかと周りを見渡すわたし。


 はやく、彼に、会いたい


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