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1999年のふたり


 彼と過ごした時間は、わたしがこれまで過ごしてきた時間とは、まるで違う世界のようだった。

 二人の出会いは何かの運命のようだと、そんな会話をしたのは、出会った最初の頃だったか――。

 それとも、別れる前だったか――。


 わたしが彼の胸に飛び込むのに、それほど時間はかからなかった。

 出会ってから――、

 たった数分間で恋をし

 恋に焦がれ

 迷い

 戸惑い

 そして――、次の瞬間には、彼の胸の中に抱かれていた。


 わたしって、わたしって、こんなことできるんだ。


 少し前までは想像できないような夢のような時間が過ぎてゆく。彼はわたしの全てを受け止めてくれる。初めてわたしのすべてをゆだねられる人に出会えた。それを幸せといわないのだとしたら……。


 疑うことを知らない少女のように、突然、目の前に現れた王子様がいつでわたしを支えてくれると信じて、そして彼はわたしのわがままに100%応えてくれた。


 「年末は帰れないかなぁ。ほら、ニュースでもやってるでしょう。200年問題」

 わたしは仕事が忙しいからと嘘の電話をして、年末は実家には帰らなかった。

 でも半分は本当だ。


 その昔、コンピュータがまだ一般の家庭に普及することなど遠い未来のことだと思われていた時代。西暦が1900年代から2000年代に入ることなど考える余裕などなかったそうだ。


 『Y2K』という言葉は、今となっては誰も覚えていないかもしれないけど、彼が東京に出てきたのも、実は『Y2K』のおかげなのだということがわかったのは、彼の部屋に最初に泊まったときのことだった。


「ねぇ、2000年問題って、実際どうなるかしらね。飛行機が落ちるとか、銀行の残高が0円になるとか言ってみんな騒いでるけど……」


 彼はわたしの口に人差し指を優しくあてがった。


「大丈夫だよ。2000年は、きっといい年になるさ。二人にとって」


 彼の声、彼の瞳、彼の言葉、彼の匂い、彼の鼓動……。


 たとえ2000年に世界が滅びるような事が起きても、彼がそばに居てくれたらそれでいい。それからまた二人は目を閉じて愛を確かめ合った。


 今が一番幸せと思うわたしの心よりも、彼の心はもう少し先を見つめているんだぁ。その時は、それがとてもうれしくて仕方がなかった。


 ふたりの愛を確かめ合えば確かめ合うほどに、わたしは彼のことを好きになっていった。



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