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第94章 南越急行、全国の赤字路線を救う

第94章 南越急行、全国の赤字路線を救う


世界最大の預金残高800兆円を誇る「南越フィナンシャル・グループ(NFG)」を傘下に収め、400兆円という天文学的な日本国債を一括買い取りすることで、一国の国家財政と市場の信用すら完璧に担保する存在となった南越急行ホールディングス。


しかし、時価総額が数十兆円を超え、宇宙ステーション『グランド・ラビット』や超音速旅客機『ビーイング7117』を世界へ送り出す地球規模の大コングロマリットへと変貌を遂げても、経営陣である篠原賢人、古賀副社長、大石専務の三人の根本にある魂は、何一つ変わっていなかった。


彼らは、どこまでいっても「骨の髄まで泥臭い鉄道マン」であった。


そんなある夜、六日町のCEO室で、古賀副社長がグラスを片手に、眉間に深いシワを寄せてテレビ画面を見つめていた。画面に映し出されていたのは、全国ニュースの特集番組であった。


『地方の鉄路、次々と途絶える——〇〇線、本日限りで廃止』

『維持困難な赤字ローカル線、今年度さらに十路線がバス転換へ』


ニュースでは、地方の過疎化と人口減少、車両や設備の老朽化、そして急激なインフレによるメンテナンスコストの高騰に耐えきれず、地方の第三セクターや中小私鉄、さらには大手JR各社(JR北海道・JR四国・JR九州・JR西日本などの赤字ローカル線区)が、悲鳴を上げながら路線廃止とバス転換を発表する姿が報じられていた。最後の列車を見送りながら、涙を流す地元の住民や高齢者、子供たちの姿が画面いっぱいに広がっていた。


「……篠原さん、大石さん。見ていられねえよ」


古賀が低く、搾り出すような声で呟いた。その大きな拳は、膝の上で固く握りしめられていた。


「俺たちは400兆円の国債を買って国を救った。800兆円の預金を抱えて宇宙にステーションまで建てた。だが、足元を見ろよ。日本の地方じゃ、お年寄りが病院に通うための、高校生が学校に通うための『当たり前の鉄路』が、毎日毎日、切り捨てられて消えていってるんだ。これのどこが『豊かな国』なんだ?」


古賀の悔しさに満ちた言葉に、最高財務責任者の大石専務も静かに眼鏡を外し、目元を拭った。


「……仰る通りです、古賀副社長。かつて我々の南越急行も、赤字十数億円で『緩やかな死』を待つだけのローカル線でした。あの時、篠原CEOの覚悟と、渡辺前社長の個人保証がなければ、なんなん線もとうの昔に線路を引っぺがされ、アスファルトに埋もれていた。手元に何百兆円のキャッシュがあっても、全国で悲鳴を上げる鉄路を見捨てておくなら、我々が『鉄道会社』を名乗る資格などありません」


篠原賢人CEOは、静かに立ち上がり、壁に掛けられた古びた一枚の額縁を見つめた。そこには、かつて単線時代の美佐山駅の雪原を、白い煙を上げて力強く走り抜けていた旧型電車「NK100形」の写真と、亡き渡辺前社長の直筆の書——『線路に終着駅はない』が飾られていた。


「やりましょう。私たちが手に入れたこの圧倒的な資金力と技術力は、まさにこの時のためにあるのです」


篠原の瞳に、あの日、300億円の内部留保を半導体株に投じた時と同じ、静かで圧倒的な情熱の炎が宿った。


「JR各社や地方自治体が『赤字だから』と切り捨ててきたローカル線、そして日本全体の物流の命脈でありながら莫大な線路維持費に苦しむJR貨物……そのすべてを、私たちが買い取り、守り抜きます」


翌週、南越急行ホールディングスは、国土交通省、JR各社、そして全国の自治体に向けて、日本の交通史を根底から揺るがす前代未聞の大構造改革案を発表した。


『全国赤字鉄道網救済プロジェクトおよび「南越日本鉄道(Nantetsu Japan Railway / NJR)」設立構想』


その内容は、日本の鉄道のあり方を根底から変革する圧倒的な救済スキームであった。


第一に、全国の中小私鉄や第三セクター鉄道会社向けに、無利子・無担保で老朽化設備の更新資金や運行維持費を永久支援する一兆円規模の『全国鉄道継続維持基金』を設立すること。


第二に、自力での継続が困難となった赤字路線、およびすでに完全子会社化している「JR北日本」を除く、JR各社が指定する「赤字ローカル線区(輸送密度2000未満の全路線)」、さらには日本全国の鉄道路線を走りながらも線路使用料や車両老朽化で苦しむ『日本貨物鉄道(JR貨物鉄道)』を、南越急行が一括して買い取り、引き取ること。


そして第三に、それらの買収路線とJR貨物を統合・一元管理するための新たな100%完全子会社『株式会社 南越日本鉄道(NJR)』を設立することであった。


買収にあたり、南越急行が提示した条件は、全国の首長や鉄道関係者を絶句させた。


「対象路線の線路保守費、電気・設備更新費、および現場職員の雇用と人件費は、すべて南越急行グループの自前資金(NFGの運用益)により100%永久保証する。赤字を理由とした廃線・減便は今後一切行わない。さらに、移籍する全職員の年収を従来の1.5倍に引き上げ、労働環境を劇的に改善する」


かつて「赤字の足かせ」として手放したがっていたJR各社の経営陣や財務省、国土交通省の官僚たちは、この破格すぎる提案に耳を疑った。


「ほ、本当ですか……!? 我が社が抱える毎年数百億円の赤字ローカル線と、設備の莫大な更新コストを、すべて南越急行さんが引き受けてくださるというのですか!?」


JR各社のトップたちは、信じられない思いで篠原と古賀の前に書類を差し出した。特に、莫大な線路維持費と老朽化した電気機関車の更新費用に押しつぶされ、自力での線路維持が限界に達していたJR貨物の社長は、涙を流して古賀の手を両手で握りしめた。


「南越急行さん……! 我々JR貨物は、日本の物流の命脈を守るために現場の人間が泥をすすりながら走らせてきました! だが、線路を借りる費用も、新しい機関車を作るお金もなく、現場は限界だった……! 本当に、日本の貨物列車と現場の仲間を救ってくださるのですか……!」


古賀副社長は、その手を強く握り返し、温かく力強い声で応えた。


「当たり前だ! 貨物列車が止まったら、日本の農家も、工場も、スーパーの棚もすべてストップするんだ。あんたたちが全国の線路を守ってきてくれたから、今の日本がある。これからは俺たちの仲間だ。お金の心配なんか一切気にせず、胸を張って一番一番最高の列車を走らせてくれ!」


こうして春、新会社『株式会社 南越日本鉄道(NJR)』が正式に発足した。初代社長には、かつて山型鉄道をV字回復させ、南越急行の現場を束ねてきた古賀副社長が兼任で就任。南越車輌、南越建設、本産自動車のトップエンジニアたちが役員として名を連ねた。


NJRの発足と同時に発動された「鉄路復活作戦」のスピードとスケールは、日本全国の住民を狂喜乱舞させた。


全国からNJRに組み込まれた北海道から九州に至る数千キロの赤字ローカル線、そして旧JR貨物の全路線に対し、南越急行グループが誇る異次元の技術群が一斉に投入されたのである。


まず、線路とインフラの劇的強化には「株式会社 南越建設」が誇る全自動AI施工部隊と無人保線ロボット群が投入された。何十年も予算がつかず放置され、徐行運転を余儀なくされていた全国の老朽化したレールや木製枕木、トンネル、鉄橋が、南越建設の手によりわずか数ヶ月で超高規格のPC枕木と無縫製ロングレール、免震補強構造へと一新された。


次に、車両の劇的進化には「南越車輌」と「本産自動車」がタッグを組んだ。


各地の赤字ローカル線には、南越車輌が開発した最新鋭の超軽量・高性能トリプルハイブリッド気動電車「NKH2000系・NKH2800系」が大量投入された。これにより、これまで最高時速50キロでガタガタと揺れていたローカル線が、一瞬にして時速120〜160キロで滑らかに走る超快適な高速アクセスラインへと変貌を遂げたのである。


さらに旧JR貨物に対しては、南越車輌と本産自動車、南越電力が共同開発した最新鋭の超高出力プラズマ・ハイブリッド電気機関車「EFH900形・EHH900形(通称:ラビット・コンボイ)」数百両が一括投入された。従来の機関車の二倍の牽引力を持ちながら、電力消費量を四十%削減し、自動追従走行とAI自動制御を備えたこの最新鋭機関車により、日本全国の貨物輸送能力は一瞬で三倍へと跳ね上がった。


そして、ソフト面とサービスの改革には、「南越不動産」と「ホテル・ホワイトラビット」、そして「南越アグリ」が全面協力した。


無人化され荒れ果てていた全国のローカル線の駅舎は、南越不動産の手により、地域の交流拠点やカフェ、南越信託銀行の無料相談窓口、南越総合病院の遠隔診療ブース、そして「スーパーカワサワ」や「コメチョウ」の自動物流デポを併設した洗練されたステーションへとリノベーションされた。


各列車の車内では、南越アグリの採れたてのお米で作られた特製駅弁や、地元の郷土料理が破格の適正価格で提供され、観光客と地元客で連日超満員となるフィーバーが巻き起こったのである。


新形テレビ20は、この『NJR誕生と全国ローカル線劇的復活』の模様を、特番として全国および宇宙ステーション『グランド・ラビット』の宇宙支局から世界へ同時に生中継した。


高橋報道局長が現地取材した北海道の過疎路線では、かつて一日に数人しか乗らなかった一両の古いディーゼルカーが、ピカピカの「NKH2000系」ハイブリッド超高速電車に生まれ変わり、満員の高校生とお年寄りたちの笑顔を乗せて雪原を軽やかに駆け抜けていた。


カメラの前で、地元の八十代のおばあさんが涙を流しながら語っていた。


「この線路がなくなったら、私は病院にも買い物にも行けなくなると諦めていました……。南越急行さんが来てくれて、綺麗な電車が三十分おきに来るようになって、孫も『乗りにいくのが楽しみだ』って帰ってくるようになったんです。命の恩人です……」


その映像を観た全国何千万人もの人々が、テレビやスマートデバイスの前で目頭を熱くした。


「買収」という言葉から世間が連想するリストラや切り売りとは真逆の、資金と技術と熱い「愛」を注ぎ込んで地域の暮らしと現場の誇りを完璧に蘇らせる南越急行の姿勢に、日本全国から賞賛の大歓声が巻き起こったのである。


株式市場でも、この「一見すると巨額の赤字を引き受けるだけ」に見えたNJRの立ち上げが、予想外の巨大なビジネスシナジーを生み出すこととなった。


大石専務の冷徹な計算通り、JR貨物を傘下に収めたことで、南越急行グループは「なんなん線」から新形港、新新形国際空港、さらには日本全国の全臨海工業地帯と主要都市をダイレクトに結ぶ『日本一の完全自前・陸海空統合物流ネットワーク』を完成させたのである。


南越物流の全自動トラック群、南越海運の大型輸送船、南越エアラインズの貨物機、そしてNJRの超高速貨物列車がAIで完全同期したことで、日本全国の物流コストは30%カットされ、配送スピードは従来の二倍へと劇的に向上した。


ムギリや書籍OFF、鶴田製菓、サロナエアコン、本産自動車など、グループ内および提携企業の製品が、ロスタイムゼロで日本全国、そして世界へと超高速出荷される体制が完璧に整ったのである。


六日町本社の役員室で、大石専務は届いたばかりのNJRの初年度財務レポートを篠原と古賀に提示した。


「篠原CEO、古賀社長。NJRの事業報告です。全国の赤字ローカル線のインフラ改修と人件費、車両投入により、初年度は3000億円の直接的な運用持ち出しとなりましたが、グループ全体の物流効率化によるコスト削減効果、および観光旅客の爆発的増加により、グループ連結としては初年度から五千億円以上の純利益増となって還元されています。もはや『赤字路線』という概念そのものが、我がグループの生態系の中で完全に消滅しました」


古賀社長は豪快に笑い、満足そうに電卓を弾く大石の肩を強く叩いた。


「ハハハ! 見たか大石さん!『情けは人のためならず』ってのはこのことだな! 現場の路線を守り、乗務員や保線員の雇用を守ったことが、巡り巡ってグループ全体をさらに強くしたんだ!」


篠原は穏やかな笑みを浮かべ、社長室の窓から見える六日町駅のホームを見下ろした。


そこには、新形・山型・永野を結ぶ超高速AI電車「NK3500系」と、新しくNJRの塗装を纏った全国直通の高速貨物列車「ラビット・コンボイ」が、誇り高く並んで信号の青を待っていた。


かつて、越後湯沢と金沢を結ぶローカル線で、年間十数億円の純損失を出し、新幹線開業の陰で捨てられ、廃線の恐怖に震えていた雪国の小さな第三セクター「南越急行」。


内部留保300億円を解約し、半導体株にすべてを賭けたあの日から始まった命がけの金融格闘技は、地銀を救い、三県を減税の桃源郷に変え、国家の財政危機を救い、宇宙に城を築き、そしていま、日本のすべての「途絶えかけた鉄路」と「現場の誇り」を完璧に救い出した。


(渡辺社長……見えていますか。あなた方が命がけで守り抜いたあの日の一本の線路は、いまや日本全国のすべての線路と手を取り合い、決して途切れることのない黄金のネットワークとなりました)


夕日に映える六日町駅のホームに、澄み切った出発進行の発車ベルが響き渡る。


「出発進行!」


運転士の力強い指差確認とともに、最新鋭の電車が、静かに、そしてどこまでも滑らかに走り出した。


渡辺前社長が遺した不滅の言葉——「線路に終着駅はない」。


その言葉の通り、人々の暮らしと笑顔、そして現場の誇りを乗せた南越急行と南越日本鉄道の希望のレールは、日本中を包み込み、地球を包み込み、無限の未来へと向かって、どこまでも、どこまでも力強く駆け抜けていくのだった。

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