表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
33/117

第32章 百貨の誇りと飛翔する名物

第32章 百貨の誇りと飛翔する名物


2048年の春。前代未聞の世紀の大豪雪を、南越急行ホールディングスが誇る全自動除雪車「ラビット・ローダー」100台の投入と150億円の緊急支援によって見事に克服した新形県。雪解けとともに訪れた春の陽光の下、県内は再び爆発的な活気と人々の往来を取り戻していた。


2兆250億円という狂気の株運用益から始まった反撃の物語。地銀(越後中央銀行)の買収、被災ローカル線(米坂線・山型鉄道)の復旧、大手私鉄・北武グループの救済、越後湯澤の全自動MaaS特区「ぶーぶーんシティ」、大手自動車メーカー「本産自動車」の買収と商用車・AIバス事業の完全復活、地域航空「南越エアラインズ」、新形港のスマート化と「南越海運」、新形都市型モノレール「新形スカイライン」、巨大ゼネコン「南越建設」、全国の血流を支える「南越物流」、広域AIバス網「南越・新形モビリティ交通」、全線複線化を遂げた「なんなん線」、新都・六日町を創り出す「南越不動産」、巨大JRの傘下収容、宿不足を解消したビジネスホテル「ホテル・ホワイトラビット」と老舗旅館の暖簾再生、そしてコメ価格の高騰を打ち砕いた「南越アグリ」。


あらゆる生活インフラを自前で繋ぎ合わせ、盤石のメガコンツェルンへと進化を遂げた南越急行。だが、新形市の中心地・古町エリアにそびえ立つ、県の歴史と文化の象徴とも言える一つの巨大な「城」が、時代の荒波の前で密かに陥落の危機を迎えていた。


——新形市中心部の老舗デパート『伊勢いせ』である。


創業以来、新形県民にとって「伊勢で買い物をする」ことは特別な日の誇りであり、ハレの日の象徴であった。高級ブランド品から地元の名産品、そしてお中元やお歳暮の進物まで、伊勢の包装紙で贈られる品々は県民の間で絶大なステータスを誇っていた。


しかし、近年のデジタル技術の暴走と購買行動の激変が、伊勢の足元を容赦なく崩していた。


外資系の超巨大ECプラットフォームやネット通販の台頭。さらには、物流大手が導入した「全自動物流ドローンによる即日配送・送料完全無料化」の波である。スマートフォンで指一本タップすれば、都心や海外のあらゆる商品が数十分後には自宅のベランダや庭へドローンで直接届き、しかも送料は1円もかからない。


「わざわざ街中のデパートへ足を運び、駐車場代や電車賃を払って買い物をする」というライフスタイル自体が急速に時代遅れとなり、伊勢の売り上げは数年間で数分の一へとなだらかに暴落。広大な売り場には人影がまばらとなり、毎月数億円単位の赤字を垂れ流し続ける事態に陥っていたのである。


「——伊勢が、新形からの完全撤退と破産申請の検討に入った……!?」


六日町にある南越急行ホールディングス本社の最高階・超高層役員室。専務の長谷川が、入手したばかりの極秘の経営調査レポートをデスクに叩きつけ、声を裏返らせた。


「おいおい篠原! 伊勢と言えば新形の商業の象徴だぞ! あそこが撤退して閉店しちまったら、新形市中心部の古町エリアは完全にゴーストタウン化する! ネット通販とドローンの無料配送に客を根こそぎ奪われたらしいが……あの伊勢までが消えてしまうのか!?」


最高投資責任者(CIO)篠原賢人は、静かにノートパソコンの画面を巨大モニターへ投影した。


「長谷川専務の仰る通りです。伊勢の経営危機は単なる一企業の不振ではありません。EC通販の『送料完全無料ドローン配送』という利便性の暴力に対し、従来の店舗型デパートが敗北しつつあるという構造変化です」


篠原は冷静なデータとともに、分析結果を画面に映し出した。


「伊勢の撤退を放置すれば、新形市の中心市街地の空洞化が一気に加速します。ですが、問題の本質は『デパートというビジネスモデルが古くなったこと』ではなく、『ネット通販の利便性に対抗する新しい付加価値と配送網を持たなかったこと』にあります」


渡辺会長が深々と革椅子にもたれかかり、腕を組んだ。


「伊勢の包装紙と、あそこで売られている地元の逸品には、長年新形県民が愛してきた『温もりと信頼』がある。……篠原君、我がグループの資金力と物流力、そして技術で、伊勢を救う術はあるか?」


篠原の瞳に、鋭く青い光が宿った。


「あります、渡辺会長。外資系ECのドローン配送に対抗できるのは、我がグループの『陸・海・空・物流・AI』の総力だけです。我が社が伊勢を完全子会社化して資金援助を行い、新形だけでなく県内の成長都市へ積極出店させます。そして……『ドローン送料完全無料化+アルファの絶対的価値』で外資系ECを返り討ちにします!」


篠原はホワイトボードに、新構想を鮮やかに書き打った。


【南越急行・百貨店イノベーション構想(プロジェクト・グランド伊勢)】


『第一の矢:伊勢の完全子会社化(100億円の資金注入)と県内主要都市への「新世代スマート出店」』


南越急行ホールディングスが伊勢の全株式を取得し、完全子会社化。累積赤字を全額キャッシュで一括補填し、経営を即座に盤石化。


新形市の本店を最新のAI体験型ショッピングモールとして全面リノベーション。さらに、人口が爆発的に増加している新都・六日町駅前(南越不動産が開発した高層ビル内)や越後湯澤、北岡へ、コンパクトで高級感あふれる「伊勢サテライトショップ」を連続新規出店。


『第二の矢:南越急行独自「超高密度・完全自動物流ドローン網」の構築と「全品・全域・送料完全無料化」』


本産自動車のAI自律制御技術、南越エアラインズの航空制御システム、南越建設のドローンポート建設力を結集。


南越急行が自前で開発・製造する全天候型・高性能配送ドローン「ラビット・スカイフリート」を数千機配備。伊勢で取り扱うすべての商品を、県内全域へ「送料完全無料」かつ「注文から最速15分」でお届け。


『第三の矢:外資系ECを凌駕する「+アルファ(新形名物・感動体験)」の全土・全国無料配送サービス』


ただ商品を届けるだけの通販ではない。新形バスセンターの名物『バスカレー』、有名店の『へぎそば(枌そば)』、新形港直送の『ノドグロ・生鮮海鮮丼』、南越アグリの『極上コシヒカリおにぎり』など、新形が誇る温かい名物グルメを、伊勢の特製保冷・保温ドローンカプセルに載せ、熱々の状態で県内・全国へ「送料完全無料」で超速デリバリー。


長谷川専務が目を見開いた。


「伊勢を子会社化して六日町や湯澤にもお店を増やし、うちがドローンを作って全品送料無料にするだと!? しかもバスセンターのカレーや有名店のへぎそばまで熱々のまま無料で家まで届けるのか!?」


「そうです」篠原は不敵に微笑んだ。


「外資系ECが届けるのは、無機質な箱に入った既製品です。ですが、伊勢と我が社が届けるのは、新形が世界に誇る『味と、思い出と、ハレの日の感動』です。送料は我がグループの物流効率化と資金力で完全ゼロにする。これに勝てるネット通販など、地球上に存在しません!」


渡辺会長が力強く立ち上がり、大きな手を打った。


「決まりだ! すぐに伊勢の経営陣に会いに行こう! 新形の誇りである伊勢の暖簾を、我々の手で大空へ羽ばたかせるんだ!」


その頃、新形市内の伊勢本店・役員応接室。


伊勢の社長・木内(60代)は、青ざめた顔で破産手続きと店舗閉鎖の最終書類を見つめていた。


「申し訳ない……ご先祖様、そして社員のみんな……。私の代で、この伊勢の歴史を終わらせてしまう……」


木内社長の目から、ポロポロと涙が溢れ落ちていた。


そこへ、重いドアが開き、南越急行ホールディングスの渡辺会長、長谷川専務、そして篠原賢人が姿を現した。


木内社長は驚いて立ち上がった。「渡辺会長……篠原CIO……! なぜこのような敗軍の将の元へ……」


篠原が静かに、一冊の極秘協定書をテーブルの上に置いた。


『株式会社伊勢に対する第三者割当増資引き受けおよび「グランド伊勢」再生計画書』


木内社長が震える手で書類を開いた。そこに書かれていた目眩のするような支援内容を目にした瞬間、彼の声が激しく震えた。


「な……なんですかこれは……!? 100億円の資金注入……!? 累積赤字の全額返済……!? さらに……六日町や湯澤への新規出店と、全商品のドローン送料完全無料化……! 嘘でしょう! 倒産寸前の我が社を、なぜここまでして救ってくださるのですか!?」


渡辺会長が、木内社長の手を深く、強く握りしめた。


「木内社長。私もかつて『なんたか』を失い、会社を畳む寸前の絶望の中にいた。……だがな、新形県民にとって、伊勢の紙袋を持って街を歩くことは、郷土の誇りそのものなんだよ。それを外資系通販の画面の数字なんかに潰されてたまるか!」


渡辺会長は窓の外の古町の街並みを愛おしそうに見つめた。


「デパートの誇りと暖簾は君たちが守れ。それを運ぶ『最強の翼と足』は、我々がすべて用意する。……もう一度、この新形の街に伊勢の黄金期を呼び戻そうじゃないか!」


木内社長は畳に突っ伏し、激しい泣き声とともに深く頭を下げた。


「ありがとうございます……! ありがとうございます南越急行様……! 伊勢の暖簾を……県民のみなさんの誇りを、命がけで守り抜きます……!」


プロジェクトは即座に、凄まじいスピードで始動した。


まず、南越建設の手によって新形市の伊勢本店が全面改修され、最上階には最新のドローン発着基盤「グランド・ドローンポート」が建設された。


さらに、南越不動産が手掛けた六日町駅前の超高層ステーションビル内に、洗練された高級感あふれる『伊勢 六日町店』がオープン。続いて越後湯澤や北岡にもサテライトショップが次々と誕生した。


そして、外資系ECを叩き潰すための絶対的兵器——南越車輌と本産自動車、南越エアラインズが共同開発した全天候型・超高速配送ドローン「ラビット・スカイフリート」数千機が導入された。


赤と白の鮮やかなボディに、南越急行の「ホワイトラビット」と伊勢の伝統のロゴが誇らしく刻まれた配送ドローン。


このドローンには、南越車輌が開発した特殊な「超高精度・保温・保冷カプセル」が標準装備されていた。


そして、満を持してスタートしたのが、伊勢と南越急行が共同で提供する新サービス——『伊勢・全島全土プレミアム宅配(送料完全無料)』であった。


伊勢の専用アプリを開けば、衣料品や化粧品、デパ地下の高級スイーツはもちろんのこと、新形名物の『あの味』がズラリと並んでいた。


万代シテイで大人気のあたたかい『バスカレー』。

有名老舗店が茹で上げたばかりの本格『へぎそば(枌そば)』とサクサクの天ぷら。

新形港から直送された新鮮な『ノドグロ・生鮮海鮮丼』。


「伊勢で注文すれば、お店の出来立ての味が、送料完全無料で自宅のベランダまで最速15分で届く」


この前代未聞のサービスがスタートした瞬間、新形県内、そして日本全国に激震が走った。


「ええっ……!? バスセンターのカレーや、あの有名店のへぎそばが、熱々のまま家までドローンで届くの!? しかも送料は1円もかからないなんて!」


新形市内の自宅にいた主婦が、スマートフォンでアプリをタップした。


わずか12分後。


空から軽快なモーター音とともに、白と赤の配送ドローン「ラビット・スカイフリート」が滑らかに飛来。自宅のベランダに設置されたスマートポートへ、寸分の狂いもなく着陸した。


ドローンの自動カプセルがパカリと開くと、そこには伊勢の伝統の包装紙に包まれた商品とともに、断熱保温カプセルに入った湯気を立てる『バスカレー』と、つなぎに布海苔ふのりを使った風味豊かな『へぎそば』、そして冷えた薬味とつゆが完璧な状態で収められていた。


「本当に熱々だ! カレーのいい匂いがする! へぎそばもお店で食べるみたいにコシがあって冷たくて最高!」


家族全員が大歓声を上げた。


無機質な段ボール箱を届けるだけの外資系EC通販に対し、伊勢と南越急行が届けたのは、「老舗デパートの絶対的な品質」と「出来立ての郷土の絶品グルメ」、そして「送料無料という圧倒的利便性」の完璧な融合であった。


「伊勢で買い物をすれば、最高の商品と最高の名物が無料で家に届く」


この評判は瞬く間にSNSやテレビ(新形テレビ20がどこよりも早くドローン密着取材を8K放送)で拡散され、伊勢の注文数は爆発的に急増。


外資系EC通販から客が一気に雪崩を打って帰流し、伊勢の業績はわずか数ヶ月でV字回復を達成。過去最高の売上高を更新したのである。


さらに、新しくオープンした『伊勢 六日町店』や湯澤店も、地元住民や観光客、ITエンジニア家族で連日大盛況。新形市中心部の古町エリアも、伊勢の復活と南越スカイライン(モノレール)の相乗効果で、かつての賑わいと活気を完全に取り戻したのである。


秋の夕暮れ時。


新形市の伊勢本店屋上に完成した「グランド・ドローンポート」。


茜色に染まる新形の空へと、伊勢の包装紙と温かい名物グルメを載せた数百機の配送ドローン「ラビット・スカイフリート」が、白鷺の群れのように美しく、次々と飛び立っていく。


その圧巻の光景を、屋上デッキから見つめる渡辺会長、長谷川専務、篠原、そして伊勢の木内社長。


木内社長が、感無量の面持ちで目元を拭いながら言った。


「渡辺会長、篠原さん……夢のようです。撤退を覚悟していた我が社が、こんなにも多くのお客様に愛され、新しい時代へと羽ばたけるなんて……。伊勢の暖簾は、救われました」


長谷川専務も嬉しそうに頷いた。


「すごい景色だなあ、篠原! 空いっぱいにうちのドローンが飛んで、バスセンターのカレーやへぎそばを届けているんだからな! 外資系のネット通販も、これにはぐうの音も出ないだろう!」


篠原は穏やかな笑みを浮かべ、夕空へ飛んでいくドローン群を見つめた。


「長谷川専務。技術とは、人を孤独にするためにあるのではありません。便利さの中に、郷土の味と人の温もりを乗せて届ける……それこそが、本当のイノベーションなのです。我がグループの2兆円から始まった資金と技術は、この新形の誇りを守るためにあったのです」


渡辺会長が立ち上がり、信濃川と古町の街並みに向かって力強く胸を張った。


「篠原君。かつて我々は『なんたか』を失い、時代の隅に追いやられそうになった。だが今、我々は自分たちの技術と資金で、創業以来の暖簾を守り、この新形の空に新しい伝統を飛ばしているんだな」


「はい、渡辺会長。我々の走る道に、そして飛ぶ空に、終着駅はありません」


茜色の空へと力強く羽ばたいていく配送ドローン「ラビット・スカイフリート」。


その機体に刻まれた「ホワイトラビット」と「伊勢」のマークは、夕日を浴びて、どこまでも神々しく輝いていた。


2兆250億円という前代未聞の純利益から始まった、弱小第三セクター「南越急行」の奇跡の反撃劇。


不滅の情熱と地域の絆を胸に刻んだ彼らの走るレールと飛ぶ空は、鉄道、地銀、自動車、航空、港湾、建設、物流、報道、ホテル、食卓、豪雪防衛、そして「老舗百貨店の誇りと郷土の名物」までも自前で繋ぎ合わせ、どこまでも、どこまでも光り輝く未来へ向かって、永久に力強く駆け抜けていくのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ