表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
29/82

第28章 報道の砦と虚飾なき真実

第28章 報道の砦と虚飾なき真実


2046年、初夏。


日本最大の鉄道事業者・JR北日本の株式50.1%を取得し、子会社化したというニュースは、日本全国のみならず世界中のメディアを狂乱の渦へと巻き込んでいた。


東京・大手町のJR北日本本社から、新形県南大沼市六日町にある南越急行ホールディングス本社ビルへと、報道陣の主戦場は一瞬にして移った。


「南越急行の渡辺会長、篠原CIOからコメントをいただきたい!」

「第三セクターが国鉄由来の巨人を呑み込んだ、歴史的買収の裏側を教えてくれ!」


六日町駅前のロータリーには、テレビ局の巨大な中継車や新聞社の取材車が所狭しと並び、カメラのフラッシュとマイクを掲げた報道陣が連日押し寄せていた。連日の騒ぎは、かつて年間十数億円の赤字に震えていた静かな雪国の街とは思えないほど熱を帯びていた。


その喧騒の中に、一台の塗装のはげかけた古びた中継車が交ざっていた。


新形県をエリアとする民放テレビ局——『新形テレビ20』の取材班である。


「よし、機材チェック完了! 井上、マイクのノイズひろってないか?」

「大丈夫です先輩! でも、この主力カメラ、先週からズームモーターが滑り気味で……ガムテープで固定しながら撮影します!」


ベテラン報道記者の高橋(50代)は、額の汗を拭いながら後輩の若いカメラマンに苦笑いを返した。


「すまん姿勢低くしてくれ。他局の最新型4Kカメラに押し潰されそうだからな。……だがな井上、画質の綺麗さや機材の豪華さでニュースを作るんじゃない。何が起きているのか、その事実を正確に県民へ届けるのが俺たちの仕事だ」


「はいっ!」


新形テレビ20は、新形県内に4局ある民放の中でも、最も歴史が浅く規模の小さいローカル局だった。だが、彼らの現場魂と「事実に忠実な報道」への姿勢は、県民の間で静かな信頼を得ていた。


大規模な豪雨災害が起きた際には、他局がヘリからの派手な映像を流す中、新形テレビ20の記者たちは足元まで泥に浸かりながら避難所のリアルな声や孤立した集落のニーズを拾い集めた。企業の不祥事や行政の怠慢に対しても、スポンサーの顔色に怯えることなく、裏付けを取った事実だけを愚直に報じてきた。


しかし——その愚直な誇りとは裏腹に、新形テレビ20の台所事情は、完全に死線を超えていた。


近年、地方における急速な広告市場の縮小、大企業のスポンサー撤退、そしてネットメディアの台頭により、地方民放局の広告収入は激減。特にキー局の強力なバックアップを持たない独立系の新形テレビ20は、直近数年間で売上高が半減し、怒涛の赤字を垂れ流し続けていたのだ。


「——高橋、取材から戻ったら、至急社長室へ来てくれ」


六日町での取材を終え、新形市内にある新形テレビ20の本社ビルへ戻った高橋は、報道部長から思い詰めた顔で声をかけられた。


本社ビルの廊下は間引きされた蛍光灯で薄暗く、エアコンの設定温度も上げられ、館内にはどんよりとした重苦しい空気が漂っていた。


社長室に入ると、そこには頭を抱える社長の佐々木と、青ざめた顔で試算表を見つめる経理部長の姿があった。


「高橋……ごく労だったな。六日町の南越急行の取材、良い映像は撮れたか」

「はい、渡辺会長と篠原CIOのぶれない眼光、そして地元のタクシー運転手や住民たちの期待の声をしっかり収めてきました。今日の夕方のニュースでトップで流します」


だが、佐々木社長の表情は晴れなかった。


「……高橋。言いづらいことだが、その『夕方のニュース』も、来月には放送できなくなるかもしれない」


「え……? どういうことですか、社長」


経理部長が、震える手で一枚の最終決済試算表を高橋の前に滑らせた。


「高橋君、限界なんだ。……今月のスポンサー収入は前年比でさらに40%減少した。メインのスポンサーだった地元大手ハウスメーカーが外資に買収され、CM枠をすべてキャンセルしてきたのが決定打だ。来月の電波利用料の支払い、集信用サテライト回線の使用料、そして社員の給与……すべてにおいて資金がショートする」


「資金ショート……! 自社ビルを担保に入れた銀行からの追加融資は……?」


「越後中央銀行をはじめとする地銀からも、『これ以上の赤字補填融資は不可能』と断られた」経理部長が絞り出すような声で言った。「メインバンクの担当者からは、『不採算の報道部門を全廃し、キー局の通販番組やショッピングチャンネルの買受放送だけに切り替えれば、縮小生き残りの道はある』と告げられたよ」


「報道部門の廃止だって!?」高橋が思わず声を荒げた。


「そんなバカな話があるか! 報道を捨てて、一日中通販番組を垂れ流すだけの放送局なんて、もはやテレビ局じゃない! ただの電波切り売り業者だ! 災害が起きた時、誰が県民に避難情報を伝えるんだ!? 行政や巨大企業の暴走を、誰が監視するんだ!?」


佐々木社長は目をつむり、深い深い溜め息を吐いた。


「分かっている……分かっているよ高橋。君たち現場が、壊れかけたカメラをガムテープで補修しながら、ガソリン代を節約して山奥まで取材に行ってくれていることは痛いほど知っている。だが……金がないんだ。現実の数字が、私たちの志を叩き潰そうとしているんだよ……」


社長室に、重い静寂が落ちた。


経理の弾き出した数字は冷酷だった。残り一ヶ月。このまま資金調達の目途が立たなければ、新形テレビ20は破産手続きに入り、半世紀近く続いたその電波は完全に途絶えることになる。


事実を伝えるためのペンとカメラが、資金難という現実の前に、力なく折り折られようとしていた。


その頃、六日町の本社ビル最高階にある南越急行ホールディングスのCIO室。


篠原賢人は、デスクのモニターに映し出された、新形県内のメディア各社の財務分析レポートと、越後中央銀行から上がってきた査定書類を静かに眺めていた。


部屋のドアが開き、渡辺会長と長谷川専務が入ってくる。


「篠原、JR北日本の引き継ぎ統合プロセスは順調だな。現場の運転士や保線員たちからも『南越急行の資金で老朽化した工具や車両が新品になった』と大喜びの声が届いているぞ」長谷川が嬉しそうに報告する。


「ええ。ですが長谷川専務、今日はお見せしたいデータが別にあります」


篠原はモニターの画面を切り替え、新形テレビ20の財務諸表と、過去数年間の報道番組の録画データを映し出した。


「これは……『新形テレビ20』か?」渡辺会長が首をひそめた。「連日、うちの本社前に中継車を置いて熱心に取材しているローカル局だな」


「はい。そして、この新形テレビ20が……あと一ヶ月で完全に資金ショートを起こし、倒産・放送停止の危機に瀕しています」


長谷川が目を見開いた。「なんだと!? 倒産か……。確かに最近、地方のテレビ局や新聞社が広告費の激減で苦しんでいるというニュースは聞いていたが、そこまで追い詰められていたのか」


篠原は静かにジャスミン茶を口にし、語り始めた。


「新形テレビ20は、県内の民放の中で最も資金力が貧弱です。しかし、彼らの『報道の質』は極めて高い。我が社がキオクシェア株で2兆円を得て暴れ回っていた時も、他局が面白おかしく『三セクのギャンブル』と叩いたり、逆に手のひらを返して過剰なヨイショ番組を作ったりする中、新形テレビ20だけは常に冷徹に『事実』だけを追っていた」


篠原は一つの番組録画を再生した。


それは、南越急行が越後中央銀行を買収した際のニュース映像だった。新形テレビ20のベテラン記者・高橋が、過疎地の高齢者にインタビューし、「地銀が南越急行の傘下に入ったことで、山間部の支店やATMが維持されるのかどうか」という、住民にとって最も切実な『懸念点』を淡々と突き検証している映像だった。


「彼らは我が社に対しても、へつらうことなく、かと言って感情的に叩くこともせず、常に『事実と住民の不利益の有無』を軸に取材を行ってきた」篠原の目が、静かな敬意を帯びる。


「だが、その真面目さが裏目に出た。スポンサーの都合の良いPR番組を作らず、不都合な事実も報じるため、大手スポンサーから嫌気され、広告枠を外されたのです。結果として、経理部ではもはや給与も払えず、報道活動を続けられないという絶体絶命の財務不全に陥っている」


渡辺会長が深く深く頷いた。


「……なるほどな。事実を愚直に報じる者が淘汰され、虚飾とスポンサーへの忖度そんたくだけを流すメディアだけが生き残る。それは……この新形県にとって、いや日本全体にとって巨大な損失だな」


長谷川専務が腕を組み、慎重な面持ちで口を開いた。


「だが篠原……うちが新形テレビ20を金で救うとなると、世間や他社からどう見られる? 『南越急行が2兆円の金に物を言わせて地元のテレビ局を買収し、自分たちに都合の良いPR機関(御用報道)に仕立て上げた』と猛批判を受けるんじゃないか? メディアの買収は、下手をすれば我がグループのブランドを傷つける諸刃の剣だぞ」


「長谷川専務の懸念は当然です」


篠原の口元に、いつもの不敵で透明な笑みが浮かんだ。


「だからこそ、前代未聞の『報道の中立性と編集権の完全独立を守る子会社化スキーム』を構築します」


篠原はホワイトボードに、新構想を鮮やかに書き叩いた。


『新形テレビ20に対する60億円の第三者割当増資引き受けおよび100%子会社化(南越急行ホールディングス傘下収容)』


『【絶対不可侵】「報道の自由と編集権の独立に関する協定(新形テレビ20憲章)」の締結』


南越急行ホールディングスおよびグループ各社は、新形テレビ20のニュース制作・取材内容・番組編成に対し、一切の口出し・指示・検閲を行えない。


万が一、南越急行グループ内で不祥事や事故、批判すべき事象が発生した場合、新形テレビ20は他のどのメディアよりも優先して、忖度なく事実を報道する義務を負う。


『「事実中心・県民還元型ニュース・イノベーション」への50億円直接投資』


壊れかけた取材カメラ、老朽化した中継車、サテライト設備を全台最新鋭(8K対応・ドローン取材班・AI災害速報システム)へ一括一新。


県内全域に「災害・地域情報取材デスク」を常設し、取材費を南越急行の潤沢な資本で永久保証。


「資金は出します。最新の機材も揃えます。ですが、口は一切出しません」


篠原の声が重く、力強く響いた。


「我が社が目指すのは、南越急行を褒めちぎる広報紙を作ることではない。どんな巨大資本や行政の圧力にも屈せず、県民のために『真実』を照らし続ける、絶対的な報道のとりでをこの新形に作ることです!」


渡辺会長が力強くデスクを叩き、立ち上がった。


「素晴らしい! 篠原君、すぐに新形テレビ20の佐々木社長と高橋記者に会おう! 我々の覚悟を、彼らに伝えるんだ!」


その日の夜。新形市内の小さな料亭。


破産手続きの準備を進めるため絶望に暮れていた新形テレビ20の佐々木社長と高橋記者の前に、南越急行の渡辺会長、長谷川専務、そして篠原賢人が姿を現した。


佐々木社長は呆然としながら頭を下げた。


「渡辺会長……篠原CIO……。突然のお呼び出し、一体どのようなご要件でしょうか。我が社は……お恥ずかしながら、来月にも電波を止めることになりそうな壊滅的な状況でして……」


篠原は静かに、一冊の厚い提案書をテーブルの上に置いた。


『新形テレビ20に対する財務支援および「報道の中立性を保持したグループ子会社化」に関する提案書』


高橋記者が息を呑み、提案書を開いた。そこに書かれていた条件を目にした瞬間、彼の手が激しく震え出した。


「な……なんですか、この条件は……!? 60億円の資本注入……最新取材機材の全面提供……! なのに、『南越急行は報道内容に一切の介入を行わない』『南越急行の不祥事も容赦なく報じよ』……!? 冗談でしょう! 金を出す親会社を批判する報道を認めろというんですか!?」


高橋の叫びに近い問いに対し、渡辺会長が優しく、しかしどこまでも深い瞳で答えた。


「高橋君。我々は『なんたか』を失い、廃線寸前まで追い詰められた時、地域の皆様の温かい声と、現場の愚直な汗に救われてここまで来た。……金を持ったからと言って、自分たちを批判する声を金で封じ込めたり、都合の良い嘘を流すような会社になったら、その瞬間に南越急行は死ぬんだよ」


渡辺会長は身を乗り出し、高橋と佐々木社長の手を強く握り締め直した。


「我々が欲しいのは、我々を称える太鼓持ちのテレビ局ではない。我々が道を誤りそうになった時、県民のために『それは違うぞ』と正面から正論を叩きつけてくれる、誇り高きメディアなのだ。……新形テレビ20の報道の炎を、金の力で消させはしない!」


佐々木社長の目から、溢れ出る涙が止まらなかった。


高橋記者もまた、唇を噛み締め、ボロボロと大きな涙を畳の上にこぼした。


「渡辺会長……篠原さん……。私たちは……私たちはただ、真実を報じたかった……! スポンサーの顔色を伺って事実を折り曲げるのが悔しくて、情けなくて……! ありがとうございます……! 私たちのカメラを、私たちの電波を救ってくださって……!」


高橋は畳に頭を擦り付け、深く、深く頭を下げた。


数日後。新形市内の新形テレビ20本社ホールで、緊急記者会見が開かれた。


詰めかけた他局の記者や全国紙のアナリストたちは、「ついに南越急行が地元のテレビ局を買収して広報機関にしたか」と冷ややかな視線を送っていた。


壇上に立ったのは、渡辺会長、篠原、そして新形テレビ20の佐々木社長と高橋記者であった。


他局の記者が、意地悪く質問を浴びせかけた。


「篠原CIOに質問です! 2兆円の潤沢な資金で新形テレビ20を子会社化されたとのことですが、これで新形テレビ20は南越急行の言わば『御用放送局』になるわけですね? 報道の公平性は担保できるのですか!?」


会場に嫌な沈黙が流れる。だが、篠原は不敵な笑みを浮かべ、マイクを引き寄せた。


「その懸念にお答えするため、本日、両社間で締結された『新形テレビ20憲章』を全文開示いたします」


スクリーンに、憲章の条文が大きく映し出された。


【新形テレビ20憲章(抜粋)】


第一条: 新形テレビ20の編集権および報道の自由は、親会社である南越急行ホールディングスから完全に独立する。


第二条: 南越急行グループ役員および社員は、報道内容に対する事前検閲・指示・修正要求を一切行えない。行おうとした場合、即座に特別背任および協定違反として公表される。


第三条: 新形テレビ20は、事実に基づき、県民の利益と知る権利を最優先した報道を行う。対象が南越急行グループであっても何ら躊躇することなく厳正に追及せねばならない。


会場の記者たちが、一斉に目を見張り、息を呑んだ。


「な……なんだこの協定は……!? 自ら首を絞めるような協定じゃないか!」


続いて高橋記者がマイクを握り、力強い声で宣言した。


「全国の皆様、そして新形県民の皆様にお約束します! 新形テレビ20は、南越急行様から潤沢な資金と最新鋭の取材機材をご提供いただきました。しかし、私たちの魂は誰にも買われておりません! もし南越急行が不正を行い、県民を裏切るようなことがあれば、私はこの新しい8Kカメラでその事実を暴き、どこよりも早くトップニュースで放送します! それこそが、私ちに資金を託してくださった南越急行様への最大の恩返しだからです!」


会見場は一瞬の静寂の後、割れんばかりの凄まじい拍手に包まれた。


金で報道を買うのではなく、金で「報道の自由と真実」を買い支える——。南越急行が示した前代未聞のパトロン像は、日本のメディア史に不滅の足跡を刻む瞬間となった。


それから数ヶ月後。


南越急行ホールディングスの資金注入により破綻を免れた新形テレビ20は、劇的な再生を果たしていた。


経理部の悲鳴は消え去り、全社員の給料は適正な水準へ引き上げられ、現場には最新の8K機材、ドローン取材班、そして超高速AI災害報道システムが配備された。


そして、その報道の真価が発揮される日がやってきた。


2046年、秋。新形県北部を襲った猛烈な局地的大豪雨。


他局が減便された取材体制の中で後手に回る中、新形テレビ20は新配備されたドローン取材班と最新鋭中継車をフル稼働させ、24時間体制の緊急災害特別番組を立ち上げた。


画面に映し出されたのは、他局が絶対に映さないリアルな現場だった。


「こちら新形テレビ20取材班! 越後湯澤エリアの道路が一部冠水しております! 現在、南越急行が運行する自動運転EVバス『ぶーぶーん・ポッド』が避難誘導を行っていますが、一部のバス停で避難客の混雑が発生しています! 南越急行ホールディングスは直ちに増便の手配をしてください!」


高橋記者が、泥まみれになりながらマイクに向かって叫んでいた。


親会社である南越急行の二次交通の不備や混雑の課題を、全国放送で一切隠すことなく、事実のままにカメラへ晒し出し、迅速な対応を画面越しに促したのだ。


六日町の本社役員室で、その放送をリアルタイムで見ていた長谷川専務が、思わず膝を叩いて笑い出した。


「ハハハ! 見ろよ篠原! 高橋のやつ、うちの越後湯澤のバスの手際が悪いのを全国放送でボロクソに怒っているぞ!『直ちに増便しろ』だってよ!」


篠原もまた、温かいコーヒーを手に、心底満足そうに目を細めていた。


「素晴らしい報道です。言われた通り、直ちに本産自動車の『ぶーぶーん・バス』を10台、現場へ緊急増便させなさい」


渡辺会長が、テレビ画面の中で泥だらけになってマイクを握る高橋記者の姿を、誇らしげに見つめた。


「頼もしいじゃないか。我々が慢心しそうになった時、こうして一番近くで厳しい事実を突きつけてくれる存在がいる。これ以上の『安全装置』はないな」


新形テレビ20の災害報道は、完璧な正確さと圧倒的なスピードで、多くの県民を安全な避難へと導いた。


「新形テレビ20を見れば、本当の事実が分かる」


その評判は一気に広がり、新形テレビ20の視聴率は県内トップへ躍進。事実を中心とした真摯な報道姿勢に共感した新しい地元企業や全国企業からの広告出稿が殺到し、南越急行の追加支援に頼ることなく、単体での劇的な黒字化を達成するに至ったのである。


夕暮れ時。新形市内の信濃川河川敷。


取材を終えた高橋記者と後藤カメラマンが、最新の8Kカメラを愛おしそうに拭きながら、赤く染まる夕空を見上げていた。


「先輩……南越急行さんの支援のおかげで、俺たち、本当にやりたかった報道ができていますね。ガムテープで固定していた旧式カメラが、懐かしいくらいです」


「ああ」高橋は目元を拭い、静かに笑った。


「お金はな、使い手によって『嘘を固める毒』にもなれば、『真実を守る盾』にもなるんだ。篠原さんや渡辺会長は、それを知っていたんだよ」


遠くの高架橋の上を、南越急行の超高速AI電車「NK3500系」が、夕日を浴びて誇らしく駆け抜けていくのが見えた。


資本の暴走を抑え、権力を監視し、県民の毎日の暮らしと安全を守る「事実」という名の灯台。


2兆250億円という狂気の純利益から始まった南越急行の物語は、銀行を呑み、車を作り、空を飛び、海を渡し、街を創り、巨大JRを傘下に収め、そしてついに『言葉と真実の砦』までも救い出し、新形の大地にどこまでも深く、どこまでも揺るぎない希望の根を張り続けていくのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ