第148章 時代の証言者たち——世界を変えた三つの魂
第148章 時代の証言者たち——世界を変えた三つの魂
冬。
新形県南部に広がる越後盆地。南大沼の山々に抱かれた、六日町。
時価総額130兆円を突破し、エネルギー安全保障を根底から変革した『南越化学』の合成石油プラント、世界的な半導体飢餓を解消した『南越キオクシェア・新形第1ファブ』、人類の労働観を変えた完全自律型無人工場『新形第0プラント』、さらには米軍からの軍事委託を毅然と平和利用へと転換させ、宇宙長期航海を見据えた次世代宇宙食エコシステムまでをも構築した「南越急行ホールディングス」。
その巨大なコングロマリットを率いる三人の男たちのもとに、国際社会から一つの特大のニュースが飛び込んできた。
世界で最も権威ある国際総合誌『タイム(TIME)』および世界経済フォーラム(WEF)が共同で選定する、「世界で最も影響力のある100人(The 100 Most Influential People in the World)」——そのビジネス・リーダーシップ部門の頂点に、篠原賢人CEO、古賀副社長、大石専務の三名が、異例の「三名同時・共同選出」を果たしたのである。
選出理由には、こう記されていた。
『彼らは単に巨大企業を率いる経営者ではない。過酷な赤字ローカル鉄道から出発し、独自の現場技術、不滅の誠実さ、そして圧倒的な金融・産業エコシステムによって、国家の破綻、地球環境の崩壊、宇宙のフロンティア、さらには全人類の平和と命を救い続けてきた「21世紀最大のイノベーター」である』
この選出を受け、ニューヨークのTIME誌本社から、世界屈指のジャーナリストである特別主席特派員エレナ・ヴァンス率いる取材チームが、直接六日町の本社タワーへと派遣されてきた。
本社タワー最上階、ガラス越しに白銀の魚沼の山々と、時速160キロで滑らかに雪原を駆けるAI特急『新・なんたか』が見下ろせる特別応接室。
テーブルには、南越ビバレッジが誇る「特選一級品・ジャスミン茶」と、南越アグリが育てた新米『新形黄金』の特製和菓子が並べられていた。
「本日は世界中が注目するお三方にお時間をいただき、心から光栄に思います」
エレナ特派員が、最新の8Kホログラム録音端末を起動し、三人に温かい微笑みを向けた。
向かい側には、仕立ての良いスーツを自然体で着こなす最高経営責任者(CEO)篠原賢人。
職人の風格を漂わせ、腕を組んで豪快に構える南越重工業社長兼グループ副社長の古賀。
そして、端正な姿勢でメガネのブリッジを静かに押し上げる最高財務責任者(CFO)大石専務。
全世界が息を呑んで見つめる、歴史的独占インタビューが幕を開けた。
<原点とポリシー——「鉄道会社」であることの誇り>
エレナ特派員:
「まず初めに、お三方が歩んでこられた南越急行の歴史についてお伺いします。今や御社は宇宙造船都市『メガロ・ドック』を動かし、合成石油や半導体まで手掛ける超巨大コングロマリットですが、その根底にある『創業の精神』と『会社のポリシー』とは何なのでしょうか?」
篠原賢人CEOが、ジャスミン茶の湯気を見つめながら、静かに、しかし澄み切った声で答えた。
「我々の原点は、どこまで行っても『赤字ローカル線の鉄道会社』です」
篠原の言葉に、エレナ記者が身を乗り出す。
「かつて経営破綻の淵にあった小さな鉄道を、先代の渡辺前社長が命がけで守り、我々が受け継ぎました。鉄道というのは、ただ人を乗せて運ぶだけの鉄の箱ではありません。朝、学校へ通う子供たちの未来を運び、仕事へ向かう人々を支え、夜には温かい家庭へと無事に送り届ける……地域の人々の『命と暮らしのインフラ』そのものです」
篠原は窓の外の雪景色を指差した。
「我々がどれほど事業を広げ、扱う金額が数十兆円になろうとも、ポリシーは創業初日から一ミリも変わっていません。『人の命と暮らしを足元から支え、社会が必要とするものを誠実に創り出すこと』。この誇りがあるからこそ、我々はどんな巨大なプロジェクトに対しても、迷わずに正しいレールを敷き続けることができるのです」
古賀副社長が、豪快に頷いて言葉を継いだ。
「そうだ! 俺たちモノづくりの現場にとっても、ポリシーは至ってシンプルだ。『嘘をつかないモノを作る』、これに尽きる!」
古賀の太い声が部屋に響く。
「電車の一本のボルト、AIのワンコード、宇宙船の耐熱パネルの一枚に至るまで、そこに手抜きや誤魔化しがあれば、人の命は簡単に失われちまう。俺たちは泥臭く油に塗れて、現場で汗をかいて、職人の魂を込めてきた。机の上の理論だけじゃなく、現場のリアルを何よりも信じること……それが南越重工業、そして南越急行の強さの秘密だ!」
<ノーベル平和賞受賞の感想と、国家間取引への想い>
エレナ特派員:
「御社は過去に、地雷原の無害化や紛争地のインフラ復興、戦時下の人道支援などの功績により、民間企業として異例の『ノーベル平和賞』を受賞されました。受賞から時間が経った今、改めてその栄誉をどのように受け止めておられますか?」
篠原CEOが、穏やかな笑みを浮かべた。
「ノーベル平和賞をいただいたことは、大変名誉なことでした。しかし、我々自身は『平和のために何か特別なことをした』という感覚はありませんでした」
「特別なことではない、と?」エレナが目を見張る。
「はい」篠原は頷いた。「アデン湾の海賊問題の時も、ベネズエラの通貨危機の時も、キーウの地下学校建設の時も、我々はただ『目の前で困っている人々のために、インフラ事業者として当たり前の仕事をした』だけなのです。武器を売って利益を得るのではなく、暮らしの基盤を創ることで争いを無くす。平和とは、スローガンではなく、誰もが温かいご飯を食べ、安全に眠れる『生活の安定』そのものです。その当たり前を証明できたことが、何よりの誇りです」
エレナ特派員:
「近年では、ニューヨーク地下鉄の再建、ウズベキスタンのアラル海再生、アイスランドの火山・地震防災、さらには先日のアメリカ国防総省からの救護機契約に至るまで、文字通り『国家レベル』での直接取引が激増しています。一企業が国家の運命を左右するインフラを担うことについて、どのような感想をお持ちですか?」
ここで、ポーカーフェイスの大石専務が静かに口を開いた。
「国家からのオファーが増加している理由は極めて合理的です。彼らは我が南越急行グループに対し、『世界最高の技術力』だけでなく、何よりも『絶対的な中立性と誠実さ(カントリーリスクの排除)』を求めているからです」
大石のメガネの奥の目が、鋭く知的な光を放つ。
「多くの国家は、大国の覇権争いや、短期的な利益しか見ない民間資本に振り回されてきました。しかし我がグループは、相手国を債務の罠に落とし込むことも、政治的な意図でインフラを停止させることもしません。投下した資本は現地の産業と人を育て、長期的なストックビジネスとして双方がウィン・ウィンになる形で回収する。国家元首たちが自国の命運を我が社に託すのは、我がグループの財務と哲学が、世界で最も信頼できる『防波堤』だからです」
<ファンドへの想いと「実体経済の勝利」>
エレナ特派員:
「大石専務、非常に踏み込んだ質問をさせていただきます。御社の歴史は、ある意味でウォール街の悪徳ハゲタカファンドや、投機筋との激しい戦いの歴史でもありました。先日の米独禁法訴訟(第138章)でも、宇宙ファンド連合を完璧に撃滅されましたが……彼らのような『投機マネー・金融ファンド』に対して、どのような想いを抱いておられますか?」
部屋の空気が、一瞬にしてピンと張り詰めた。
ポーカーフェイスの大石専務は、手元のジャスミン茶を静かに口に含み、冷徹かつ完璧なトーンで語り始めた。
「……金融とは、本来、未来を創る情熱と技術を持った人々へ『血液(資本)』を循環させるためのツールであるはずです」
大石の声には、一切の迷いがなかった。
「しかし、現代の金融市場に巣食う一部の投機ファンドは、自らは汗を流さず、一滴の製品も生み出さず、他人の破綻や社会の混乱を煽ってショート(空売り)を仕掛け、莫大な富を掠め取ることしか考えていません。彼らは実体経済を蝕む『寄生虫』に過ぎない」
大石の口元に、かすかな財務の刃のような笑みが浮かぶ。
「我々が彼らを幾度となく市場から退場させてきたのは、単なる復讐ではありません。『実体を持たないマネーゲームは、現場の誠実な技術と圧倒的な実需の前には絶対に勝てない』という資本主義の真理を、数字によって証明したに過ぎません。汗を流して人を幸せにする企業こそが最大の利益を享受する……それが我が南越フィナンシャル・グループの鉄則です」
古賀副社長も豪快に笑いながら机を叩いた。
「ガハハハ! その通りだ! エクセルを叩いて数字を転がしてるだけの奴らに、俺たちが命がけで作った新幹線や宇宙船を解体されてたまるかってんだ! 現場を舐める奴には、大石の冷徹な計算と俺たちの現場パワーで、いつでも鉄槌を下してやるだけさ!」
エレナ記者は、二人の圧倒的な気迫と論理の完璧さに、感嘆の息を漏らしてペンを走らせた。
<三人の素顔と、意外な「個人の趣味」>
エレナ特派員:
「世界を動かすお三方の力強い信念に圧倒されます。……ここで少し肩の力を抜いて、読者が非常に知りたがっている『お三方の個人の趣味や、休日の過ごし方』についてお伺いできますか? 130兆円企業の首脳陣は、普段どのような時間を過ごされているのでしょうか?」
この質問が出た瞬間、それまで重厚だった部屋の空気が一気に和らぎ、三人の表情が綻んだ。
篠原賢人CEOが、少し照れくさそうに笑った。
「私の趣味は……実はとてもシンプルでしてね。休日に、南越急行の普通電車や、立ち食いそば『そばろく』のカウンターにふらりと立ち寄って、地元の皆さんが美味しそうにお蕎麦を食べている姿を眺めることです」
「えっ、変装もせずにですか?」エレナが驚く。
「はい。キャップを深く被って、南越ビバレッジのお茶を飲みながら、駅のベンチで文庫本を読む。車窓から魚沼の山々や田んぼの風景を眺めている時間が、私にとって何よりの贅沢であり、次の仕事へのエネルギーになっています」
古賀副社長が、豪快に笑いながら口を開いた。
「俺の趣味は分かりやすいぞ! モノづくりと、酒と、バイクだ!」
古賀は誇らしげに胸を張った。
「休みの日はな、浦佐の交通博物館や重工業大学校の実習棟へ行って、若い学生たちと一緒に古いディーゼルエンジンをバラして磨いてるんだ。油の匂いを嗅ぎながら、学生たちと『ここはこう削るんだ!』って怒鳴り合って、夜は地元の居酒屋でビールと焼き鳥をかっ食らう! これ以上の幸せがこの世にあるか?」
そして、エレナ記者の視線が、ポーカーフェイスの大石専務へと向けられた。
「大石専務は……やはり休日は高度な金融シミュレーションなどを?」
大石専務は静かにメガネのブリッジを押し上げ、極めて真面目な顔で答えた。
「……私の趣味は、『至高の寿司の探求』です」
「寿司、ですか?」
大石の目が、先ほどファンドを語っていた時とは全く違う、純粋で情熱的な輝きを帯びた。
「はい。全国、そして世界中の海を巡り、その土地の極上の魚介類と、我が南越アグリの米『新形黄金』のシャリが織りなす究極の一貫を味わうことです。アデン湾のマグロ、ケープタウンのミナミマグロ、アラル海のキャビア、アイスランドの天然サーモン、ハワイ沖のアヒ……。職人の技によって昇華された寿司を口に含み、味覚のビッグバンを感じて涙を流す瞬間こそ、私の生命の最高の喜びです」
古賀が横から大石の背中をバシッと叩いた。
「ガハハ! こいつは本当に寿司のことになると泣くんだからな! 経理の鬼が、寿司の前じゃタダの食いしん坊なんだよ!」
応接室全体が、温かい笑い声に包まれた。
世界を動かす三人の巨頭の、人間味に満ちた素顔が垣間見えた瞬間であった。
<目指す未来と、不滅のレール>
エレナ特派員:
「素晴らしいお話をありがとうございます。……最後に、お三方がこれから見据えている『南越急行が目指す究極の目標』、そして世界の人々へのメッセージをお願いいたします」
篠原賢人CEOが静かに立ち上がり、窓の外の果てしない空を見つめた。
「我々が目指す究極の目標……それは、『地球上のすべての人が、生まれた場所や境遇にかかわらず、安心して明日を信じられる世界の実現』です」
篠原の瞳には、未来を照らす温かな光が宿っていた。
「地上であれ、地底であれ、海であれ、宇宙であれ、人間が生きる場所には必ず移動があり、暮らしがあり、絆があります。我々南越急行グループは、そのすべての場所に最も安全で、最も温かい『不滅のレール』を敷き続けます。どんなに技術が進化しようと、我々は常に現場に立ち、人の心に寄り添い、未来への希望を運び続けます」
古賀副社長が力強く拳を握りしめた。
「若者たち、世界中の職人たちよ! 夢を諦めるな! 自分の手と頭と心で、世界をあっと言わせる素晴らしいモノを創り出そうぜ! 俺たちのレールは、お前たちの夢をどこまでも乗せて走る準備ができてるからな!」
大石専務も静かに礼をし、締めくくった。
「富とは、奪い合うものではなく、誠実な労働と知恵によって共に創り出すものです。我が南越急行グループは、今後も全人類の持続可能な繁栄のために、寸分の狂いもない正確さで価値を循環させ続けます」
パチパチパチパチ……!!
エレナ特派員をはじめとする取材クルー全員から、心からの感動と敬意を込めた、惜しみない拍手が送られた。
インタビューが終わり、夕暮れを迎えた六日町。
西の空が茜色から深い群青へと染まりゆく中、南越急行のAI特急が、誇り高き長笛を鳴らして白銀の雪原へと走り出していった。
その光の軌跡は、地球を巡り、宇宙の星々へと向かって、どこまでも、どこまでも力強く、美しく伸び続けていた。
渡辺前社長が遺した不滅の言葉——「会社は人より長く生き続けるべきもの。稼いだ金は未来を信じる魂だ」。
世界に選ばれた三人の男たちの胸の中には、創業の日から変わらない、温かいふるさとの灯火と、全人類の未来への不滅の誓いが、永遠に光り輝いていたのである。




