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第144章 電子の飢餓と雪国のギガファクトリー

第144章 電子の飢餓と雪国のギガファクトリー


冬。新形県南部に広がる大沼エリア、六日町。

時価総額130兆円を突破し、エネルギー安全保障を根底から変える『南越化学』の合成石油プラント稼働、気候変動に打ち勝つ新新新新品種『新形黄金』による農業革命、そして日本海沖合の人工島2倍拡張に至るまで、世界の産業とフロンティアを文字通り牽引し続ける超巨大コンツェルン「南越急行ホールディングス」。


しかし、世界経済の足元では、生成AIや量子演算、全自動モビリティの爆発的な拡大に伴い、ある「絶望的なボトルネック」が地球全体を麻痺させ始めていた。


最先端の半導体メモリー——とりわけ超高層3D NAND型フラッシュメモリーおよびDRAMの「世界的な深刻な供給不足」である。


世界中のデータセンターやAIサーバー、スマートフォン、自動運転車、そして宇宙船に至るまで、AIの進化速度に対し、半導体メーカーの生産能力が完全に追いついていなかった。メモリー価格は過去最高値を更新したまま高止まりを続け、世界中のIT企業や製造業がメモリー手配の遅延によって減産や工場停止へ追い込まれるという「半導体ショック」が泥沼化していたのである。


六日町の本社タワー最上階にあるCEO室。


篠原賢人CEOは、窓の外で静かに舞い落ちる白銀の雪を眺めながら、温かいジャスミン茶(南越ビバレッジ特選一級品)を口に含んでいた。


デスクの上には、世界中のテック企業や自動車メーカー、そして日本の総務省・経済産業省から寄せられた切実な悲鳴のデータが山積みされていた。


ドアが静かに開き、ポーカーフェイスの最高財務責任者(CFO)大石専務が入ってきた。


「篠原CEO。世界の半導体メモリー市場の分析データ、最新版です」


大石はタブレットのホログラム画面に、垂直上昇を続けるメモリーの市況グラフを浮き上がらせた。


「AIサーバー需要の暴増に対し、海外の主要メモリーメーカーの供給能力は完全に飽和状態。価格の高止まりは向こう数年間解消されない見込みです。我がグループの南越重工業、新行電気工業、本産自動車、さらには宇宙造船部門においても、次世代AIチップ用メモリーの調達コスト跳ね上がりが影を落とし始めております」


「半導体は現代の『電子の米』だからね」篠原が静かに頷く。「これが滞れば、世界中の社会インフラもAIの進歩もすべて立ち止まってしまう」


そこへ、ドアを豪快に叩いて南越重工業社長の古賀副社長が飛び込んできた。手には、一枚の分厚い技術提携書が握られている。


「篠原! 大石! 見たかこのニュースを! 世界最高峰のNANDフラッシュ技術を持つ日本の半導体巨人……『キオクシェア(Kioxia)』の首脳陣が、今朝一番で新潟へ向かってるそうだぞ!」


古賀が熱っぽくデスクを叩いた。


「キオクシェアも最新の超高層3Dフラッシュメモリーの量産ラインを爆発的に増やしたいが、莫大な設備投資資金と、クリーンルームを動かす膨大な電力、そして精密製造に必要な超純水の確保に苦しんでるんだ! 俺たちの潤沢な資金と、柏崎核融合の無制限クリーン電力、そして南越建設の超速AI施工があれば、世界最大のメモリー供給基地を一瞬で作れるだろ!」


要請を受け、六日町の本社タワーへ到着したのは、キオクシェア(旧南芝メモリ)の社長および技術最高責任者(CTO)ら幹部陣であった。


最上階の応接室において、キオクシェアの社長は篠原賢人CEOと固い握手を交わし、切実な胸の内を明かした。


「篠原CEO、大石専務、古賀副社長……! ぶっちゃけた話を申し上げます」


キオクシェアの社長は、最新の3D NAND技術「BiCS FLASH」のウエハ試体を見つめながら熱く語った。


「我が社の技術力は世界一です。第8世代・第9世代となる200層超の超高層3Dフラッシュメモリーの技術はすでに完成しています。しかし……海外勢に対抗して世界中のAI需要を満たす規模の『超巨大ギガファクトリー』を新設するには、数兆円規模の莫大な設備投資キャッシュが必要です。さらに、最新ファブ(工場)を24時間連続稼働させるための膨大なクリーン電力と、ミリ単位の振動すら許さない堅牢な地盤が必要不可欠なのです!」


古賀副社長が豪快に胸をたたいた。


「社長さん、全部俺たちに任せな! 資金なら大石が金庫からいくらでも引っ張り出してやる! 電力なら柏崎の次世代核融合プラントから直通専用線を引いてやるし、揺れない地盤なら南越建設が免震地底ファブを完工させてやるぜ!」


ポーカーフェイスの大石専務も、手元のタブレットから滑らかに超大型出資・共同事業シミュレーションを提示した。


「……キオクシェア様と我が南越急行グループの共同事業体『南越キオクシェア・セミコンダクター(NKSC)』の発足をご提案いたします。総事業費、二兆六千億円。我がグループが資金の70%を出資し、工場建設、クリーン電力供給、超純水リサイクルライン、および全自動AI物流を完全サポートいたします」


大石のポーカーフェイスの口元に、冷徹かつ完璧な財務の笑みが浮かぶ。


「これにより、新工場からのメモリー供給量の50%を我がグループ(本産自動車、南越重工、新行電気)へ最優先・固定原価で優先確保。残り50%を世界市場へ一括供給し、高止まりする市況に『大量の原価供給』という物理打撃を与えて価格を適正水準へ押し下げます。投資額はわずか三年で完全回収完了です」


篠原賢人は温かいジャスミン茶を口に含み、キオクシェアの首脳陣を見つめて深く頷いた。


「日本の半導体のプライドと、世界中の製造業の未来を守る……。プロジェクト・『メガ・メモリ・ラビット』、即刻発動しましょう!」


決意からわずか二十四時間後。


新形県臨海地区の広大な敷地において、南越建設の全自動AI施工部隊が一斉に雪崩れ込んだ。


既存の四日市工場や北上工場を凌駕する、世界最大・最新鋭の半導体メガ・ファブ『南越キオクシェア・新形第1ファブ(ラビット・クリーン・メガドーム)』の建設が始まったのである。


建設の陣頭指揮を執ったのは、南越建設の井上社長、サロナエアコンの環境エンジニアチーム、そして作業着を着た古賀副社長であった。


通常、半導体の巨大ファブを建設するには、2年から3年という長い工期を要する。しかし、供給不足で世界中が悲鳴を上げていた今、数ヶ月の遅れすら許されなかった。


南越建設の全自動量子AIシールドマシンと、無人AI建設重機『ラビット・ビビッド』数百機が突貫投入された。


一、地震振動ゼロ『南越・超電導アクティブ全免震基礎』

第137章のアイスランド防災で実用化した『超電導アクティブ全自動免震システム』を工場全体の地下基礎に完全導入。打撃や近隣の交通振動、地震の揺れをミクロン単位で100%打ち消し、超精密露光装置(EUV・ArFi)の稼働率を100%保持。


二、サロナ&武沢『クラス1・超極純クリーンルーム&超純水循環プラント』

空気中の微粒子を1立方フィートあたり「0個」に近付けるサロナエアコンの超多層ナノ触媒エアドーム。さらに武沢製薬と南越重工が共同開発した「ナノ超純水循環再生ユニット」により、工場で使用する大量の水は100%完全内部リサイクル(ゼロ・ディスチャージ)を達成。


三、柏崎核融合・直接直通『ゼロ・カーボン超安価電力網』

柏崎の次世代核融合プラントから超電導地下ケーブルでメガ・ファブへ電力をダイレクト送電。電力コストを海外競合メーカーの「3分の1」へ削減し、24時間365日絶え間ない過酷な量産体制を完全補強。


「サハラ・ラビット型重機群、クリーンルーム構造体ドッキング完了!」

「EUVステッパー&最新エッチング装置、一千台一括搬入スタート!」


着工からわずか「六十日」。

日本海を見下ろす臨海エリアに、ドーム球場五個分におよぶ世界最大の半導体メガ・ファブ『南越キオクシェア・新形第1ファブ』が、完璧な姿でそびえ立ったのである!


冬。完成した『南越キオクシェア・新形第1ファブ』のメインコントロール室において、試運転と同時に本格量産の火が灯された。


完全無人のクリーンルーム内では、本産自動車と南越重工が開発した超小型AI天井搬送ドローン『ラビット・FOUPポッド』数百機が縦横無尽に舞い、300ミリ・シリコンウエハを次々と最新露光装置へと搬送していく。


キオクシェアが誇る最高峰の「200層超・3D NANDフラッシュメモリー」が、1日あたり数百万枚という異次元のスピードで次々と焼き上げられ、検査・出荷ラインへと流れていった。


従来の海外競合メーカー(韓国・台湾・欧米勢)の生産効率を遥かに上回る、圧倒的な歩留まり(良品率99.8%)と、核融合電力による圧倒的な低コスト。


「出荷開始だ!! 1秒間に数万個の最新メモリーが完成しているぞ!!」


メインコントロール室で、キオクシェアのCTOと技術者たちが、モニターの爆発的な生産数値を見上げて抱き合って涙を流した。


南越通商の超音速貨物機『ラビット・カーゴ』と、南越急行のAI貨物電車ネットワークにより、出来立ての最高品質メモリーが世界中のIT企業、自動車メーカー、そしてデータセンターへと怒濤のごとく一斉出荷されたのである!


この「南越キオクシェア」からの圧倒的な爆量出荷のニュースは、直ちに世界の金融市場と半導体市況を直撃した。


『緊急速報:南越急行とキオクシェア、世界最大の半導体ファブから最新メモリーを一括大量供給開始!』

『メモリー高止まり市況が一瞬で崩壊! 世界的なAI半導体不足が完全解消へ!』


高値を維持して荒稼ぎしていた海外の半導体投機筋や、メモリーの囲い込みを行っていた悪徳ブローカーたちは、一瞬で市場価格が適正価格(従来の半額以下)へと暴落したことで大打撃を受け、青ざめた顔で抱えていた在庫を投げ売りせざるを得なくなった。


世界中のAI開発企業、スマートフォンメーカー、そして本産自動車をはじめとする自動車メーカーは、安価で最高品質のメモリーを潤沢に入手できるようになり、世界経済全体の滞っていた歯車が一気に爆発的な回転を取り戻したのである!


第五節 新形テレビ20の中継とハゲタカの破滅

新形テレビ20のベテラン記者・高橋とカメラマン・井上も、この歴史的出荷の最前線から全世界へ向けて生中継を行っていた。

井上の担ぐ最新鋭8K真空防爆カメラの側面には、あの破産寸前のローカル局時代から変わらない「古びたガムテープ」の切れ端が、誇り高く貼られている。


「こちら新形テレビ20です!」

高橋記者が感涙に声を詰まらせながらマイクを握る。

「世界中を麻痺させていた『半導体メモリー不足』が、いま、南越急行とキオクシェアのタッグによって劇的に解消されました! ごらんください、この最新鋭ファブから次々と出荷されていく最高品質のメモリーの山を! 日本の技術と雪国の情熱が、世界のAIと製造業を足元から救い出しました!」


画面には、新工場で生き生きと働く若い技術者たちの笑顔と、浦佐の『南越重工業大学校』から実習生として派遣され、最新のAI搬送ドローンのメンテナンスを担当する陸少年たちの姿が映し出された。


この生中継映像は全世界へ配信され、経済産業大臣および米商務長官から篠原賢人へ、最高峰の『グローバル・産業貢献賞』が贈られたのである。


一方、メモリー価格の高止まりが今後も続くと踏み、半導体先物市場で買い占めと空売りを繰り返していたウォール街の悪徳ハゲタカファンド『グローバル・ショート・ファンド(GSF)』の幹部たちは、ディーリングルームで血の気の引いた顔で叫んでいた。


「な……なんだと!? 日本の南越急行がキオクシェアと組んで、世界需要の3割を占めるメモリーを市場へ一括投入しただと!?」


「価格が垂直落下している! 買い抱えていた高値の在庫がすべて紙くずになったぞ!」


大石専務率いる金融部門が仕掛けたのは、圧倒的な「実物供給」による市場の粉砕であった。


メモリー価格の正常化によって、不当な吊り上げを行っていたハゲタカファンドたちは数十億ドルの巨額損失を出し、一瞬で全ファンドが破産へと追い込まれていったのである。


すべてのオペレーションが完了した冬の夕暮れ。


六日町メガロポリスの本社CEO室。


大石専務がタブレットの最終決算数値を指で弾き、ポーカーフェイスのまま数字を提示した。


「……篠原CEO、古賀副社長。今回の『南越キオクシェア・新形第1ファブ』プロジェクト。我がグループへの最優先・原価メモリー供給による製品製造コストダウン益、キオクシェアからの配当益、ならびにメモリー外販益を含め、初年度の当期純利益は『三兆四千億円』を記録いたしました。投下資金二兆六千億円は、わずか一年で完全回収完了です」


「ガハハハ!」古賀副社長が豪快に大石の背中を叩いた。「見たか篠原! 世界のメモリー不足を吹っ飛ばして、海外のハゲタカどもを返り討ちにして、なおかつ3兆円超えの儲けだ! やっぱり俺たちのインフラビジネスに勝てる奴はいねえな!」


「はい。今回は産業安全保障、グループ内の製造コスト大幅カット、そして莫大な金融利益を両立させた、完璧なオペレーションです」


ポーカーフェイスの大石の口元にも、極めて晴れやかで温かい笑みが浮かんでいた。


式典が終わり、静けさを取り戻した新形メガ・ファブの夜景。


白亜のクリーン防爆ドームの向こうには、積雪に映える綺麗な街灯と、日本海の深い青が広がっていた。


新ファブの敷地内に設置された展望テラスに、篠原賢人、古賀副社長、大石専務の三人が佇んでいた。


日本海からの爽やかな海風と、粉雪が三人の頬を撫でていく。


古賀副社長が、感無量といった面持ちで光り輝く巨大ファブを見上げた。


「なあ篠原。この雪国の小さな田舎町から生まれた俺たちが、いまや世界中のAIやロケットの頭脳メモリーを作って、世界中へ届けてるんだな……」


大石専務も静かに頷いた。

「はい。電子のひと粒、メモリーの一チップであっても、人を支え、未来を動かす貴重なインフラです。滞っていた世界の歯車が、再び滑らかに回り始めました」


篠原賢人は温かいジャスミン茶(南越ビバレッジ特選一級品)を一口含み、眼下に広がる雪景色と、そこを滑らかに駆け抜けていく新幹線の光を見つめた。


「大石、古賀。我々が敷いてきたレールは、目に見える鉄の線路だけではない」

篠原の静かな言葉に、二人が深く耳を傾ける。


「社会に必要なものを、必要な場所へ、誠実な情熱とともに届け続ける『信頼のレール』だ。世界がどんな試練に直面しようとも、我々が現場の技術と情熱を忘れない限り、そのレールはどこまでも力強く、どこまでも遠くへ伸ばされ続けていく」


渡辺前社長が遺した不滅の言葉——「会社は人より長く生き続けるべきもの。稼いだ金は未来を信じる魂だ」。


大沼の夜空に、最高品質のメモリーと夢を乗せたAI貨物電車の誇り高き長笛が、力強く響き渡っていった。

世界の産業と全人類の輝かしい未来を足元から完璧に支えながら、南越急行ホールディングスの走らせる無限のレールは、地上を、地底を、海を、空を、そして宇宙の彼方へと、どこまでも、どこまでも力強く伸び続けていくのだった。

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