第21-2話:実り実った日常
二人でゴーグルとヘルメットを着用し、次にやって来たのは射撃訓練場内の標的の前。
三十メートルほど先に木製の人形標的が立っていて、それをここから撃ち抜く簡素な訓練。
既に一本上手く扱えるようになった銃があるけれど、今日扱うのはそれとはまた別の銃器。
無鋒剣を再び両手で掴むと、またもや光り輝き始める。
けれど大太刀が三秒ほどで顕現下のに対し、今顕現しているものは集中する時間で分針が一周する。
顕現させたのは、最初の実用的かつ単純な構造をした回転式拳銃——コルトSAAの初期型。
五発の弾薬を備えた銃身を、町田さんに教えてもらったフォームで構え標的へと向ける。
「それじゃあ、始め」
事前に教えられたフォームで的へ狙いを定め、引き金を引く。
火薬の破裂するけたたましい音のあとに、この身体で辛うじて目で追える速度で弾が飛んでいく。
「ら、ライフル銃は慣れたきたのに……あっ……当たらない……」
そして五発の弾丸を全て打ち込みきるも——五発中三発が命中しただけで、その特典も下の下。
ライフル銃と片手銃でこんなにも変わるのか、映画の向こうにいたあらゆる武器種を扱うプロフェッショナルがどれだけ凄まじいのかを身を持って体験する。
「いいのよ、ただの性能試験だから。使うにしてもこれから磨いていけばいいわ」
そう、これはただの性能試験。
最初の性能試験で銃を出せることが分かったときは「それじゃあ全部銃で良いんじゃ」って思ったけど、現実はそうもいかない。
銃は顕現に長い時間がかかる上、弾も打ち切ったら顕現し直し。
それに威信による武器強化が乗らないのは致命的で、私が相手を殺す気で穿った槍の方が圧倒的に威力が出るとかいう珍妙な現象も発生する。
だから黒太子との戦いで使った巨砲——ウルバンの巨砲然り、飛び道具はきちんと考えて使わなきゃいけない。
「……ふう。確か、次が最後の性能試験だったんで————」
拳銃を手にしたまま、町田さんの方を振り返りながらその銃口を降ろす。
記憶が正しければ、次は鞭みたいな非金属製の武器を出せるか試すって試験のはず。
けれど町田さんは返事をすることなく、血眼になりながら手首を掴んできた。
まさか、散々言われてた銃口管理をミスった?
でも銃口は的の方へ向けたまんまだし、第一弾はもう入ってないはずで……。
「あなた、何発撃ったの?」
「え……ご、五発ですけど」
「……シリンダーの中をご覧なさい」
そう言われて部品を外しシリンダーの中身を覗くと、確かに五発装填の拳銃を顕現させたはずなのに、そこにはまだ撃たれていない弾丸が一発装填されていた。
「私はコルトSAAを顕現させてって言った。けれど、めぐみちゃんが顕現させたのは六発装填のコルト・パイソンよ。これであなたが誤射していたら、死人が出るところだったかもしれないんだから」
なんで、確かに私はSAAを想像したのに。
けれど思い返すと、最近「あぶない刑事」を見返したからか……拳銃のイメージがこちらに寄っていたのかもしれない。
「ご、ごめんなさい……」
死という単語に胸の締め付けられる感覚を覚えながら顕現を解き、町田さんの目を見てそう口にした。
さっきまではSAAの形を保っていた光の粒子が、風に乗せられて散っていく。
「……あなたに殺す気が無くても、道具はそうとは限らないわ。これから学んでいってちょうだい」
町田さんは小さく息を漏らすと、私を僅かに上目遣いながら優しい言葉を掛けてくれた。
……私の過去を相当憂いてくれているのか、町田さんは偶に私目線でも甘すぎると思うことがある。
自分で反省を繰り返してもこれは自罰じゃない、またモデルガン貸してもらって分解組み立てからやり直すか。
自分なりに訓練のメニューを新たに組み立てたところで、軍の車両じゃない軽やかな排気音が遠く向こうの道から響いてくる。
駐車場へ目を向けると、一台の大きめの自家用車が予定より早い時間に乗り上げてきていた。
ゆっくりと開いた後部座席の窓から栗色の毛をした一人の男の子が顔を見せる。
あどけない幼さの残る表情をした私の友達————ルイが私の方へと手を振っていた。
「へへへ……」
遠すぎて声は聞こえないけれど、その笑顔を見るだけで口の端に笑みが滲む。
この訓練場はちょっとアクセスが悪い、電車を何度も乗り継いで帰るのも面倒だって話をしたら、ルイが家の人に言って車を出してくれることになった。
わざわざ私のために、って思うだけで唇の端が綻ぶ……でもこれって、ルイが家の人から結構甘やかされてることでもあるよね。
まあ私もその甘えに便乗させて貰ってるから強くは言えないけどさ。
「…………間違ってたら申し訳ないけど。多分だけど、めぐみちゃんってルイくんのこと好きよね?」
「へえっ!?」
藪から棒に、このひと何言ってんの!?
「いやいや、私はただ友達がわざわざ迎えに来てくれるのが嬉しいだけで」なんて取り繕っても、素の表情に戻るどころかどんどんと口と目の端が歪んでいく。
「そんなこと言ったら町田さんだって! 今日会った時から気付いてるんですからね、その首元の赤い痣!」
「えっ嘘!? あの人いつの間に————っ!」
ははん、私が気が付かないとでも思ったか。
日によって指輪を着けてたり着けてなかったり色々な町田さんは、まだ結婚して二年もないらしくどうやらお熱い関係のようで。
二週間に一回ぐらい、首元のシビアなとこに痣を着けるか濃く化粧を塗りたくって訓練にやって来る。
「もうねえ、私が子供欲しいって言ったらあの人最近激しくて激しくて……」
「いや、あの……そういうのは聞いてないです」
想像異常に生々しい話が飛んできたな……これももしかしたら仕返しなのかも。
町田さんが身をくねくねとなびかせながら惚気話を口に仕切ったころ「けれどね」と意味深な前置きをしてくる。
「早く手元に置かないと、誰かに取られちゃうかもよ?」
「だ、誰かに取られる……?」
いやいや、ルイって結構初だし?
面食い香蓮もあれ以来も須藤に惚れっぱなしでルイに一切気なんて無いみたいだし?
クラスでも男友達ばっかみたいだから取られるなんてそんな——ってか、別に何が取られるか言われてもないのに何で私はルイのことだと思ってんの!?
そう必死に自分を言い聞かせていたところで、町田さんが顎に指を当てながらとんでもないことを言った。
「例えば、そう…………私とかに?」
そう言われて、町田さんと初めて会ったときにルイと楽しそうに話していたところを思い出す。
尊敬する人と……一番の男友達が引っ付く……。
「ぐああああ! やめてえええ!」
冗談なのは分かってる。
冗談なのは分かってるのに抉られる心。
断末魔ともとれる私の叫び声が、訓練場のある雑木林へと甲高く響き渡った。




