第8話:聖教国の『枯れた聖泉』に入浴剤を投げ込んだら、伝説の霊峰がまるごと浄化された件
馬車に揺られること三日。俺は隣国、ルミナス聖教国の中心地へとやってきた。
そこにあるのは、この国の生命線とも言える『聖なる泉』。だが、今のそれはドロドロに濁り、腐敗した魔力の臭いが立ち込めている。
「ゼクス様、どうか……! この泉が枯れれば、我が国の民は癒やしの加護を失い、病に倒れてしまいます……」
聖女エルナが、祈るような手つきで俺の服の裾を掴む。
彼女たち聖職者が何百人も集まって一ヶ月間浄化の祈りを捧げても、ビクともしなかった絶望的な汚染らしい。
「ふむ……。これ、単に魔力の循環が詰まってるだけじゃないかな。……ちょうどいいや、昨日試作した『炭酸ガス入り入浴剤(試作型)』を試してみよう」
俺はカバンから、拳ほどの大きさがあるシュワシュワした白い塊を取り出した。
重曹とクエン酸、それに庭に生えていた『魔力の結晶化した雑草』を練り込んだだけの代物だ。
「ゼ、ゼクス様!? それを泉に投げ込むのですか!? 聖なる儀式もなしに……!」
「いいから見ててください。えい」
ポチャリ、と入浴剤が濁った泉に落ちる。
――次の瞬間。
シュワーーーーーッ!!
凄まじい勢いで泡が立ち上がり、泉の底から濁濁とした黒いヘドロが、まるで意思を持っているかのように浄化され、一瞬で消え去った。
それどころか、泡は泉を飛び出し、川を遡り、ついには背景にそびえる『霊峰』の山頂まで光の柱となって駆け抜けていく。
「……な、……えっ? 泉が、クリスタルのように透き通っていく……?」
「あ、炭酸成分を強めすぎたかな。血行促進……じゃなくて、魔力循環が良くなりすぎちゃったみたいです」
数分後。
枯れ果てていたはずの泉からは、かつての百倍以上の濃度の聖水がコンコンと湧き出し、周囲の枯れ木には一斉に花が咲き乱れた。
「……信じられない。私たちが命を削って祈っても届かなかった神の領域に、あなたは……入浴剤一つで……」
エルナは呆然と膝をつき、透き通った水面に映る自分の顔を見つめている。
「おい、見たか! 伝説の『黄金の魚』が戻ってきたぞ!」
「聖女様でも無理だったのに、あの青年は何者だ!?」
教会の司祭たちが腰を抜かして叫ぶ中、俺はそっと水に手をつけてみた。
「うん、いい湯加減……じゃないや、いい水質ですね。これなら野菜を洗っても美味しそうだ」
俺の「生活の知恵」が、また一つ、一国の滅亡を救ってしまったらしい。
背後で、アルテミス王女が「また余計な功績を立てて……もう、目が離せませんわね」と、呆れながらも誇らしげに微笑んでいた。
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