第7話:ただの『栄養ドリンク』を献上したら、男爵の位と伝説の聖女様まで付いてきた件
王宮の大広間。
そこには、きらびやかな衣装を纏った貴族たちがひしめき合っていた。
俺――ゼクスは、人生で一度も着たことがないような高級な礼服に身を包み、国王陛下の前に膝をついている。
「ゼクス殿。貴公の功績は、我が国の傷病兵を救い、王家の危機を救うに足るものだ。よって、本日この時を以て、貴公に『男爵』の爵位を授与する!」
国王の力強い声が響き、周囲から割れんばかりの拍手が沸き起こる。
昨日の今日で、俺は「無能な調香師」から「貴族」へと成り上がってしまった。
「……はは、信じられないな。俺、ただの雑草を煮詰めただけなのに」
ちなみに、叙爵式の前に国王へ「疲れが取れるお茶です」と渡した、道端の根っこを煮込んだだけの『栄養ドリンク』。
それを一口飲んだ陛下は、「全身に力が漲る! 20歳若返ったぞ!」と叫んで、広間で剣を振り回し始めるという騒ぎになったばかりだ。
そんな賑やかな式典の最中、一際目を引く一団が入場してきた。
「――隣国、ルミナス聖教国より、第一聖女エルナ様のおなーりー!」
純白の法衣に身を包んだ、金髪碧眼の少女が現れた。
彼女は「生ける奇跡」とまで謳われる、世界屈指の治癒魔法の使い手だ。
だが、その顔色はどこか優れず、杖を持つ手も微かに震えている。
「エドワード陛下……本日は、我が国の『聖なる泉』が枯れ果てた件について、ご相談に参りました……」
エルナ聖女の声は弱々しく、今にも倒れそうだ。
どうやら、過酷な浄化作業で魔力を使い果たし、重度の『魔力欠乏症』に陥っているらしい。
「ふむ……。聖女殿、それについてはちょうど良い男がおる。ゼクス、前へ」
「えっ、俺ですか?」
国王に促され、俺はおずおずと聖女の前に立った。
近くで見ると、彼女の魔力回路はボロボロに荒れ狂っている。
俺は咄嗟に、ポケットに入れていた『携帯用ののど飴』を取り出した。
「あの、これ……。喉にいいし、少しは楽になると思います」
「え……? 飴、ですか……?」
エルナは怪訝な顔をしながらも、俺の手から小さな琥珀色の粒を受け取り、口に含んだ。
――瞬間。
彼女の背後に、巨大な光の翼がバサァッと広がった。
「なっ……!? 魔力が、溢れる……!? 枯れていたはずの私の魔力源が、一瞬で大海のごとく満たされていく……っ!?」
エルナは驚愕のあまり、その場にへたり込んだ。
そして潤んだ瞳で俺を見上げ、震える声で呟いた。
「あなた……一体、何者なのですか? このような神の雫を、お菓子のように持ち歩いているなんて……」
「え、ただのハチミツと薬草を固めただけですけど。……そんなに効きました?」
アルテミス王女が、少しだけ不機嫌そうに(?)俺の腕を掴んで引き寄せる。
「聖女殿。彼は私の男――失礼、我が国の騎士、ゼクス男爵ですわ。安易に誘惑しないでいただけます?」
王女と聖女。二人の美女が俺を挟んで火花を散らす。
俺はただ、「飴、もっと多めに作っておけばよかったかな……」と、遠くを見つめることしかできなかった。
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