第6話:国王陛下が直々に工房へやってきたが、俺は『ただの芳香剤』を煮込んでいた件
王都の特等施設にある俺の工房。
そこは今、厳重な警備に包まれていた。
「ゼクス様、失礼いたします。……国王陛下がお見えになりました」
メイドの言葉に、俺は思わず調合スプーンを落としそうになった。
この国の頂点、エドワード三世。
伝説の竜を退治したこともあるという武闘派の国王が、なぜこんなしがない調香師の元に?
「――貴公がゼクスか。アルテミスから話は聞いている」
豪奢なマントを翻し、威厳に満ちた初老の男性が入ってきた。
背後には近衛騎士たちがずらりと並び、工房内が一気に緊張感に包まれる。
「は、はい。ゼクスです。……あの、今ちょうど掃除用の『芳香剤』を作っていたところでして、お見苦しいものを……」
「芳香剤だと? ……む、この香りは……!」
国王が鼻を動かした瞬間、その瞳が大きく見開かれた。
彼はふらふらと、俺が鍋で煮込んでいた「オレンジの皮と道端のハーブ」に近づいていく。
「な、なんという清浄な魔力だ……。長年、余を苦しめていた戦傷の痛みが、この香りを嗅いだだけで消えていくではないか! まるで伝説の聖域に足を踏み入れたような心地だぞ!」
「ええっ!? いえ、これ、ただの消臭スプレーのつもりなんですけど。……部屋の匂いが気になったので」
「馬鹿な! これほどの浄化能力、教会の国宝『癒やしの香炉』を遥かに凌駕しておるわ! 貴公……これを芳香剤と呼ぶのか!?」
国王は驚愕のあまり、王としての威厳も忘れて俺の両手を握りしめた。
「ゼクス殿! ぜひ、我が国の『国師』として迎い入れたい! 望む報酬はなんだ? 領地か? 金か? それともアルテミスとの縁談か!?」
「お、お父様!? 何を勝手なことを!」
背後でアルテミス様が顔を真っ赤にして叫んでいる。
そんな騒ぎの最中、工房の入り口で騒ぎが起きた。
「離せ! 俺は勇者カイルだぞ! ゼクス、そこにいるんだろ! 早く出てきて俺たちの魔力回路を治せ! お前のせいでパーティが解散の危機なんだよ!」
ボロボロの装備で、門番に押さえつけられているカイルたちの姿が見えた。
彼らは中が見えないのか、まだ俺が「無能」だと信じて疑っていないらしい。
国王の冷たい視線が、入り口の方へと向けられた。
「……アルテミス。あの騒々しい下民どもは何だ?」
「ゼクスをゴミのように捨て、あまつさえ私に劇薬を飲ませようとした愚か者たちですわ、お父様」
「ほう……。我が国の至宝を害しようとし、余の不興を買うとは。……衛兵! あの者たちの冒険者ライセンスを剥奪し、地下牢へ連れて行け。罪状は『国家反逆罪』だ」
「「「え……?」」」
カイルたちの顔から血の気が引いていく。
俺を捨てた報いは、俺が手を下すまでもなく、国そのものを敵に回すという最悪の形で返ってきたようだった。
「ゼクス、あんな奴らのことは気にするな。さあ、この『神の芳香剤』について、詳しく聞かせてくれんか!」
俺は、連行されていくカイルたちの背中をぼんやりと眺めながら、「あ、芳香剤、詰め替える瓶が足りないな……」なんてことを考えていた。
お読みいただきありがとうございます!
ついに国王陛下まで登場し、勇者たちの破滅が決定的になりました。
「国家反逆罪」……なろうの王道、最強のざまぁ展開ですね!
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