第2話:死にかけの王女に『虫除け』を飲ませたら、一瞬で全快してドン引きされた件
目の前で横たわる女性――この国の第一王女、アルテミス。
銀髪を血に染め、その腹部には魔獣の鋭い爪で引き裂かれたような、目を覆いたくなるほど深い傷があった。
「……はぁ、……はぁ。もう、……これまで、か……」
彼女の瞳から光が消えかけている。
普通の回復魔法や市販のポーションでは、もう手遅れなのは素人の目にも明らかだった。
「いや、諦めるのはまだ早いですよ。……たぶん」
俺は、先ほど錬成した『無色の液体』を取り出した。
【神眼鑑定】によれば、これは『万能浄化液』。本来は魔獣を追い払うために作ったものだが、不純物を極限まで削ぎ落とした結果、究極の治癒効果も備わってしまったらしい。
「……な、に……? 毒、を……飲ませる……気?」
「毒じゃないですよ。ちょっと苦いかもしれませんが、我慢してください」
俺は彼女の唇を指で割り、その液体を一滴、口の中に流し込んだ。
瞬間。
洞窟全体が真っ白な光に包まれた。
「……えっ?」
アルテミスが驚愕の声を漏らす。
彼女の傷口から、ドス黒い魔獣の呪毒が蒸気となって吹き出し、それと同時に肉が、血管が、皮膜が、恐ろしい速度で再生していく。
数秒後。
そこには、傷一つない白磁の肌を取り戻した王女が、呆然と座り込んでいた。
「……治った? 私の、呪い付きの致命傷が? ……嘘でしょ? 教会の高位神官が束になっても数日はかかる傷よ?」
「ああ、やっぱり『虫除け』としては少し効きすぎたみたいですね。まあ、死ななかっただけ儲けものってことで」
「……虫除け? 今、これを虫除けと言ったの?」
アルテミスは信じられないものを見る目で俺を凝視した。
彼女は自分の手を確認し、さらには溢れ出す魔力の奔流に顔を強張らせる。
「ちょっと待って……傷が治っただけじゃない。魔力回路が……追放される前より、何倍も強固に再構築されている。あなた、一体何を飲ませたの……!?」
「え、ただの雑草をちょっと煮詰めただけですけど。……そんなに驚くことですか?」
「…………」
アルテミスは絶句したまま、パクパクと口を動かしている。
その様子を見ていると、ふと勇者カイルの顔が思い浮かんだ。
あいつらは、俺の作る薬を「泥水」と言って捨てた。
けれど、この国の最強騎士が、その泥水(仮)で腰を抜かしている。
(……なんだ。俺、やっぱりあいつらに騙されてたのか?)
俺の中にあった自尊心の欠片が、少しずつ形を取り戻していくのを感じた。
「貴公……名前は? これほどの奇跡を成し遂げた御仁を、私は知らない」
「ゼクスです。ただの、クビになった調香師ですよ」
「……調香師? ふざけないで。そんな国家機密級の力を持った男を放逐するパーティなど、この世にあるはずが――」
その時、遠くの通路から騒がしい足音が聞こえてきた。
「――おい! 聖騎士様がこの先に逃げ込んだはずだ! 早く見つけて、手柄を横取りするぞ!」
聞き覚えのある声。
カイルだ。
あいつら、俺を捨てたあと、今度は王女の救助という「名誉」を求めて戻ってきたらしい。
アルテミスの目が、冷たく細められた。
「……ゼクス。どうやら貴公を捨てた『愚か者』たちがやってきたようね」
「……みたいですね」
俺は手の中に残った『世界樹の葉』を弄びながら、入り口の方へ視線を向けた。
お読みいただきありがとうございます!
王女様を救ったゼクスですが、さっそく元パーティと再会!?
ざまぁの準備は着々と進んでいます。
続きが気になる方は、ぜひ評価やブクマをお願いします!




