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第9話 選ばれた者たち


三十二階層特別攻略選抜の結果は、三日後に発表された。


ギルド本部一階の掲示板前は、朝から人で埋まっている。


普段の依頼更新とは空気が違う。

緊張と、苛立ちと、期待。


掲示板中央に、白紙が貼られた。


監査局の印と、ギルドの紋章。


ゆっくりと、カバーが外される。


名前が並ぶ。


九条烈斗。

朝霧直哉。

岩永剛毅。

篠宮雫音。

天城紗夜。

速水奏真。

椎名香澄。


そして。


来生雅也。

山波大樹。


ざわめきが広がる。


「回収員が二人?」

「山波って元Aだろ?」

「来生って誰だよ」


羨望と疑念が混じる視線。


雅也は少し離れた位置で掲示板を見ていた。


予想通りだ。


驚きはない。


隣で山波が息を吐く。


「……入ったな」


その声には、安堵と緊張が混ざっている。


「始まるぞ」


雅也が言う。


山波は笑う。


「やっとだ」


背後から声。


「おめでとうございます」


振り向くと、七瀬あずみ。


「監査局の最終面談が今日の午後にあります。遅れないように」


柔らかい口調だが、目は真剣だ。


「気をつけてください」


その一言には、経験者としての重みがあった。


午後。


監査局臨時室。


白石総一郎が、選抜者を前に立つ。


「皆さんは、三十二階層以降への立入を許可されました」


淡々とした声。


「ただし、行動は国家監査局の指揮下に入ります」


空気が硬くなる。


「作戦立案は共同。最終決定権は監査局にあります」


九条烈斗が口を開く。


「現場判断は?」


白石は視線を向ける。


「緊急時は認めます。ただし事後報告を義務とします」


完全な自由ではない。


だが完全な拘束でもない。


微妙な均衡。


白石の視線が雅也に止まる。


「来生さん」


「はい」


「あなたは回収員です。本来なら対象外でした」


周囲の視線が集まる。


「ですが、実力と状況判断能力を評価しました」


一拍。


「期待しています」


圧力と期待が同居する言葉。


雅也は短く答える。


「職務を全うします」


それ以上は言わない。


面談後、ギルド屋上。


山波がフェンスにもたれている。


「監査の目、気づいたか」


「ああ」


「お前を測ってる」


「だろうな」


山波は空を見上げる。


「もし国家に引き抜かれたら、どうする」


雅也は少しだけ考える。


「断る」


即答。


山波は笑う。


「即答かよ」


「俺は回収員だ」


山波はその言葉を反芻する。


回収員。


危険地帯から遺体や装備を回収する仕事。


華やかではない。


だが必要な役割。


「……お前、変だな」


「自覚はある」


短い会話。


だが信頼は確実に積み上がっている。


夕方。


松浦かなの配信が始まる。


タイトルは。


「三十二階層選抜、どう思う?」


視聴者数は普段より多い。


かなは真剣な顔で話す。


「私は選抜自体が悪いとは思わない」


コメントが流れる。


「でもさ」


カメラに近づく。


「選ばれなかった人が無価値になるわけじゃない」


言葉は柔らかい。


だが芯がある。


「探索者は順位で生きてるわけじゃないから」


コメント欄が落ち着いていく。


かなの配信は、少しずつ空気を変えている。


夜。


美野里は医務室で書類を整理していた。


そこへ雅也が現れる。


「決まったんですね」


「ああ」


美野里は手を止める。


「怖くないですか」


「怖い」


即答。


美野里は少し驚く。


「でも行く」


続く言葉。


「怖いから準備する」


それは強がりではない。


現実的な覚悟。


美野里は立ち上がる。


「私はサポートで同行許可を申請します」


雅也は目を細める。


「危険だぞ」


「知ってます」


迷いがない。


「あなたが行くなら、私も行きます」


沈黙。


雅也は否定しない。


できない。


遠くで警報が鳴る。


三十二階層から微弱な魔力反応上昇。


まだ小さい。


だが確実に増えている。


同時刻。


監査局の一室。


白石が報告書を読む。


「三十二階層、裂け目再拡大の兆候あり」


机に置かれた資料には、三十一階層の巨大影のスケッチ。


その横に、別の世界の資料らしき断片。


出所不明。


白石は静かに呟く。


「本当に偶然か?」


視線が、来生雅也の名前へ落ちる。


国家の影は、彼に近づいている。


だが向こう側の影もまた、近づいている。


選ばれた者たち。


それぞれの思惑と覚悟を抱え、三十二階層への扉が開く日が迫る。


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