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第8話 選抜試験


三十二階層の国家管理が発令されてから一週間後。


探索者ギルドの大ホールに、異様な静けさが満ちていた。


通常なら依頼掲示板の前で人だかりができ、笑い声や怒鳴り声が飛び交う場所だ。

だが今日は違う。


正面の特設スクリーンには大きく表示されている。


三十二階層特別攻略選抜試験。


国家監査局と探索者ギルドの共同実施。


選抜人数、最大三十名。


条件、Aランク以上、もしくはそれに準ずる実力を有すると認められた者。


ざわめきが広がる。


「準ずるって何だよ」

「コネか?」

「結局、選ばれた奴だけか」


不満と期待が入り混じる。


壇上に和泉康介が立つ。


その隣に白石総一郎。


和泉がマイクを握る。


「三十二階層以降は危険度が段違いだ」


低く、よく通る声。


「国家の介入は避けられなかった。だが――」


一瞬、言葉を区切る。


「探索者の領域は、探索者が守る」


空気がわずかに変わる。


「選抜は実力で決める。身分も所属も関係ない」


白石が続く。


「試験は三段階。戦闘能力、連携適性、そして状況判断能力」


その視線が、客席をゆっくりと見渡す。


「特に最後を重視します」


来生雅也は後方に立っていた。


隣には山波大樹。


「出るのか」


山波が小声で問う。


雅也は少し考える。


出れば、目立つ。

出なければ、三十二階層の内側に入れない。


向こう側が動き出している以上、外から見ているだけでは足りない。


「出る」


短い返答。


山波は笑う。


「だろうな。俺も出る」


その目に、以前の迷いは薄い。


挫折は消えていない。

だが、止まってもいない。


試験第一段階は模擬戦闘。


訓練場中央に結界が張られ、複数の高位模擬魔物が投入される。


ランクはA相当。


だが、数が多い。


「一人三分」


審判の声。


最初に名を呼ばれたのは、九条烈斗。


槍を構え、静かに結界へ入る。


開始。


魔物が三体同時に襲いかかる。


烈斗は回避を優先し、位置を整える。


鋭い突き。


一体目の核を正確に貫く。


二体目が横から迫る。


足運びが速い。


回転しながらの横薙ぎ。


連携を断つ動き。


三分終了。


結界解除。


拍手は少ない。


だが評価は高い。


次々と呼ばれる探索者たち。


蒼輪の朝霧直哉、岩永剛毅、篠宮雫音。


それぞれ持ち味を見せる。


雫音の水刃は精密で無駄がない。


だが誰もがわかっている。


本番は次だと。


「来生雅也」


名が呼ばれる。


一瞬、ざわめき。


回収員の名が、Aランクと並ぶ。


雅也は結界へ入る。


木剣ではなく、実剣。


開始。


六体同時出現。


通常の倍。


観客席がざわつく。


白石の視線が鋭くなる。


雅也は動かない。


一歩、踏み出す。


最短距離で一体目を斬る。


振り向きざまに二体目の首。


三体目が背後から迫る。


振り返らない。


体を沈め、後ろ蹴りで体勢を崩し、斬る。


無駄がない。


三分経たずに六体終了。


静寂。


拍手が遅れて起きる。


山波が小さく息を吐く。


「やっぱりな」


白石は表情を変えない。


だが記録端末に何かを入力する。


第二段階。


即席パーティーでの連携戦。


くじ引きで組まれる。


雅也の組は、山波、椎名香澄、真田和希。


模擬ボス出現。


連携重視。


開始。


山波が前衛に立つ。


以前より踏み込みが深い。


雅也はあえて一歩引く。


主役は山波だ。


ボスの攻撃を受け止める山波。


一瞬、足が止まりかける。


だが、踏みとどまる。


「来い!」


叫び。


雅也が横から斬撃。


香澄の矢が核に刺さる。


真田の支援魔法が山波の体勢を安定させる。


連携。


終了。


山波は息を荒くする。


だが、笑っている。


「……やれたな」


雅也は短く頷く。


第三段階。


状況判断。


突如、試験会場の照明が落ちる。


警報音。


訓練場外で爆発音。


ざわめき。


混乱。


だがこれは試験だ。


スピーカーから声。


「想定外事態発生。指揮系統混乱。行動せよ」


本物に近い演出。


多くが立ち尽くす。


誰かの指示を待つ。


雅也は即座に動く。


「山波、入口確保」


「了解」


「香澄、高所確認」


「任せて」


「真田、負傷者役を優先」


指示が飛ぶ。


他の受験者も動き出す。


だが連携が遅い。


雅也は周囲の動きを把握し、最短で混乱を収束させる。


三分後、照明が戻る。


試験終了。


白石が壇上へ上がる。


「合格者は後日発表します」


だが視線は明らかに数名へ向けられている。


雅也。


烈斗。


朝霧。


そして――山波。


夜。


ギルド屋上。


山波が缶コーヒーを投げる。


雅也が受け取る。


「久しぶりだな、この感じ」


「何がだ」


「自分で掴みに行くって感覚」


山波は空を見る。


「元Aランクって肩書きに縋ってたのかもしれない」


雅也は静かに聞く。


「でもな」


山波は笑う。


「俺はまだ終わってない」


風が吹く。


階下では、松浦かなが配信をしている。


「今日の選抜、正直すごかった」


コメントが流れる。


かなはカメラ越しに真剣な目をする。


「でもね、試験で測れないものもあると思う」


その言葉が、少しずつ世論を変える。


探索者は管理される存在ではない。


戦う意思を持つ人間だ。


屋上。


美野里が現れる。


「どうでした?」


「終わった」


「合格しそうですか?」


雅也は少しだけ考える。


「多分な」


美野里は安堵と不安が混ざった顔をする。


「三十二階層、危ないですよ」


「知ってる」


「それでも行くんですね」


「ああ」


沈黙。


やがて美野里が小さく言う。


「私は、隣にいますから」


その言葉は、約束ではない。


だが逃げない意思。


雅也は視線を合わせる。


「頼む」


それだけ。


遠く、三十二階層の方向から微かな振動が伝わる。


誰にも気づかれないほどの小さな揺れ。


だが確実に、向こう側は準備を進めている。


選抜は始まりに過ぎない。


本当の試験は、これからだ。


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