表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/11

第10話 三十二階層へ


三十二階層降下当日。


ギルド地下の大型エレベーター前には、選抜者たちが揃っていた。


蒼輪の盟約、緋天の行軍、個人選抜組。

そして回収員の来生雅也と山波大樹。


全員が軽装ではない。

本気の装備だ。


金属の擦れる音。

魔力を帯びた武器の低い唸り。


国家監査局の隊員も同行する。

だが彼らは後方支援だ。


前に出るのは探索者。


和泉康介が一人ひとりを見渡す。


「三十二階層は未知域が多い」


低く、確かな声。


「生きて帰れ。それだけだ」


白石総一郎が続ける。


「作戦目的は三点。裂け目の確認、異常魔力源の特定、必要なら封鎖」


視線が鋭くなる。


「勝手な判断は慎め」


静かな圧。


雅也は表情を変えない。


エレベーターの扉が開く。


重い金属音。


下降が始まる。


沈黙。


誰も軽口を叩かない。


二十九階層を通過。

三十階層。

三十一階層。


前回の裂け目地点はすでに仮封鎖されている。


そして。


三十二階層。


扉が開く。


空気が違う。


重い。

湿度が低い。

わずかな鉄の匂い。


地形は三十一階層と似ているが、天井が高い。


奥は霧のような薄闇。


「散開、半径三十メートル警戒」


朝霧直哉が指示を出す。


烈斗が左翼を取る。


山波は雅也の右後方。


美野里は後衛支援位置。


一歩踏み出した瞬間。


足元の地面がわずかに震える。


「魔力反応、前方百メートル」


監査局端末の声。


進む。


静かすぎる。


通常、三十二階層なら魔物が出るはずだ。


だが気配がない。


代わりに、壁面に黒い筋が走っている。


裂け目の痕跡。


「広がってるな」


山波が低く言う。


雅也は触れない。


だが感じる。


向こう側の圧力。


やがて、空間が開ける。


広場のような空洞。


中央に巨大な亀裂。


三十一階層より明らかに大きい。


幅五メートル以上。


内部は闇。


冷気が流れ出している。


「これが本体か」


烈斗が槍を構える。


その瞬間。


亀裂の奥が脈動する。


鼓動のような音。


「来るぞ」


雅也の声が低く響く。


次の瞬間、闇から何かが飛び出す。


人型。


だが腕が三本。

背に破れた翼。

顔は半分が骨。


三体同時。


「戦闘開始!」


朝霧の号令。


岩永が前に出る。


重盾で衝撃を受け止める。


火花。


紗夜の闇魔法が一体を拘束。


だが拘束時間が短い。


個体の強度が高い。


烈斗が突く。


槍が胸を貫く。


黒い血が霧散する。


だが消滅しない。


再生しようとする。


「核は背中!」


雅也が叫ぶ。


背の中央に微かな光。


速水奏真が双剣で斬り込む。


連撃。


核破壊。


一体消滅。


残り二体が跳躍。


空間を蹴るような動き。


速すぎる。


山波が受け止めるが、押し込まれる。


「山波!」


雅也が踏み込む。


剣が閃く。


二体目の腕を断つ。


三体目が美野里へ向かう。


咄嗟に雅也が割り込む。


衝撃。


剣と爪が噛み合う。


間近で見る異形の瞳。


そこに意思がある。


単なる魔物ではない。


押し返し、斬る。


核破壊。


消滅。


静寂。


だが亀裂は脈打ち続ける。


「これは門の前段階だ」


雅也が呟く。


白石が振り向く。


「何だと?」


一瞬、視線が交わる。


雅也は言い直す。


「空間安定化前の兆候です」


完全な嘘ではない。


白石は端末を確認する。


「魔力値上昇中。封鎖処理を開始」


監査局隊員が装置を設置する。


だが。


亀裂がさらに広がる。


奥から巨大な影が揺れる。


前回、三十一階層で見た存在。


だが今回は、より明確。


「全員、後退!」


朝霧が叫ぶ。


地面が裂ける。


黒い腕が亀裂から伸びる。


衝撃波。


複数の探索者が吹き飛ぶ。


山波が転倒する。


雅也が掴み、引き起こす。


「立て」


「……ああ」


巨大影が半身を現す。


完全体ではない。


だが圧が違う。


空気が歪む。


雅也の胸が軋む。


異世界の戦場の記憶が蘇る。


「まだ開ききってない」


小さく呟く。


今なら止められる。


一歩前へ出る。


「来生!」


烈斗が止める。


雅也は振り返らない。


剣を構える。


巨大影が咆哮。


衝撃。


だが雅也は踏み込む。


最短距離。


黒い腕を断つ。


空間が軋む。


影が揺らぐ。


核は奥。


完全に出る前に斬るしかない。


その瞬間、背後から光。


桜子の祈り。


白い光が亀裂を包む。


影の動きが鈍る。


「今です!」


美野里の声。


雅也が跳ぶ。


亀裂の縁に足をかけ、奥へ踏み込む。


闇の中。


巨大な赤い光。


核。


剣を振り下ろす。


衝撃。


視界が白くなる。


次の瞬間。


亀裂が収縮する。


影が引きずり込まれる。


絶叫。


そして静寂。


地面に膝をつく雅也。


呼吸が荒い。


完全には閉じていない。


だが門形成は止まった。


白石が近づく。


「今の動き……」


雅也は立ち上がる。


「偶然です」


視線を逸らさない。


白石は何も言わない。


だが疑念は深まる。


撤退命令が出る。


三十二階層は仮封鎖。


完全封鎖ではない。


まだ終わっていない。


エレベーターで地上へ戻る。


疲労が全員にのしかかる。


山波が小さく笑う。


「派手な初日だな」


雅也は目を閉じる。


向こう側は確実に、こちらを認識している。


そして狙いは、自分だ。


地上。


美野里が隣に立つ。


「無事でよかった」


短い言葉。


雅也は頷く。


だが胸の奥に残る違和感。


あの影は、試した。


本気ではなかった。


三十二階層は、境界線だ。


そしてその向こうには、確実に“意志”がある。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ