気持ちの伝え方
視点が何度も変わります。
『キーンコーン、カーンコーン』
いつものようにつまらない学校生活が終わり、大きなチャイムの音が学校全体に響き渡る。
香織はこのチャイムの音が好きだった。だってこの大きなチャイムが学校の終わりを知らせてくれる。もう憂鬱な気持ちにならなくてすむ。
「やっほー、香織。学校も終わったし一緒に帰ろ?」
「もちろんだよ実。私も早く実に会いたかったから。」
香織が玄関で立っているとすぐに実がやって来る。実はすぐに香織に抱きついて、香織も軽く実を抱きしめる。
実は学年でいや、学校で一番可愛いと思う。
薄い桜のような髪が綺麗でずっと触りたくなる。髪も長くて身長は低いけれどスタイルはいい。そんな実をずっと見つめてしまう。
学校が終われば実と会える。逆に学校にいる間は実と会えない。だから香織は学校が大嫌いだった。
月島香織は十七才の高校二年生。ここは女子校でそこの寮で暮らしている。その寮で一緒に過ごしているのが幼馴染であり香織が片想いしている日宮実だった。
「ねえ、帰ったらどうする?お出かけする。それともゲームでもする?」
「うーん、今日は外に出る気分じゃないから一緒にゲームでもしよっか。」
香織は実と外に出るのが嫌だった。外だと実を変な目で見る奴が多すぎるからだ。だから二人きりでいれる寮が好きだった。
香織は実の手をぎゅっと掴み、寮の中へと入る。
二人は幼馴染ということもありずっと一緒だった。
小さい頃から何をするにしても一緒で周りからは姉妹みたいだねと言われていた。
親が事故で死んでからは色々あって実の家で住むことになった。
その時も実は優しく接してくれた。
それからもずっと仲良しでいつしか香織は実を恋愛として好きになっていた。
そして高校になってからは寮で二人で住むことにした。そこからはずっと幸せな生活が続いていた。
「いやー、今日も学校楽しかったなあ。香織はどうだった?」
「まあ、それなりには楽しかったよ。」
嘘だ。香織はこの学校生活が嫌いで仕方なかった。
香織には実以外の友達はいないし実だけが香織の大切な人だった。それに学校には実を不純な目で見る人が多すぎる。
だけどそれは香織だけが思っていることであり実には絶対に知られたくないことだった。
実は見ての通り、明るくて人気があって誰とでも仲良くなれる。だからクラスでもみんなと話しているし、そんな実が見たくなくて香織の方から距離を置いていた。
この気持ちは知られたくないし、知られたらもう実とは一緒にいられなくなってしまう。
「えへへ、じゃあ早速ゲームしよっか。ほら、くっついてやろうよ。」
実はスキンシップが多いから香織はいつもドキドキしてしまう。これがただのじゃれあいだということはもちろん分かっているがそれでも実とくっ付ける貴重な時間。この感触と温もりは絶対に忘れない。
「そう言えば今度友達と遊ぶんだけどさ、良かったら香織も一緒に来ない?」
実なりの優しさか分からないが香織はその言葉を聞きたくない。
他の人と関わりたくないし実が他の人と話しているのが嫌で仕方がない。間近で実が他の人に抱きついていたら香織はいよいよ壊れてしまう。
「ごめんね、私が他の人と話すのが苦手なのは知ってるでしょ。だから私のことは気にしないで出掛けて来ていいから。」
「むー、そっか。でもやっぱり私は不安だよ。だって香織が学校で私以外の人と話しているところを見たことがないもん。香織は優しくて美人で最高なんだから他の人にも知って貰いたいの!」
ズキズキする。他の人のことをできるだけ考えないで欲しい。先生もクラスのみんなも親も大嫌いだ。香織には実だけしかいない。
だというのに実の周りにはたくさんの人がいて自分はその中の一人でしかない。
寮が一緒なのもただ幼馴染だからという理由でそれ以上の意味はない。
「余計なお世話だよ。私がうるさいのが苦手なのは知ってるでしょ。だから実だけで楽しんで来ていいよ。」
「そっか、私こそ無理に言ってごめんね。」
「大丈夫だから。そんなことより今は私と遊ぶことだけ考えて。」
「そうだよね。やっぱり香織は優しいね。」
こうやって笑い合いながらたわいもない時間を過ごす日々が無限に続けばいいと思う。
「香織先輩、今日は一緒に買い出しに行きません?絵の具がほとんど残っていませんよ?」
「本当だね。それなら部費を渡すから綾音が買ってきてよ。」
実以外で唯一まともに話す綾音に香織はお金を渡した。
香織は絵を描くのが好きで美術部に入っている。絵は唯一自分の気持ちを吐き出せるから大好きだった。
中学の頃授業でハマってから気がつけばずっとやっていた。
真っ白なキャンパスを自分の色で染め上げることができるからストレスの捌け口として丁度いい。
「えー、たまには香織先輩も行きましょうよ?いつも私一人で言ってるじゃないですか。この部活は二人しかいないんですから私一人が行くとフェアじゃないですよ。」
「でも私はここでたくさん成績を残しているから。」
部員も足りないのに廃部になってないのは香織が何度も賞を取ってるからだ。
もちろん、香織は賞を取ろうと思ったことはない。だだ勝手に香織の絵が他人に評価されただけだ。
「それを持ち出すのはズルじゃないですか?たまには外に出ましょうよ。ほら、行きますよ。香織先輩もたまには外に出た方がいいですから。」
この子も強引だなと思いつつ香織は諦めて外に出ることにした。どうせ今は絵を描く気力はなかった。
なぜなら今日は実が他の人と遊ぶ人だ。実が他の人と楽しそうに遊んでいるところを想像するだけで頭が痛くなる。
何故自分だけがこんな気持ちにならないといけないのか?香織はもう既に限界を迎えていた。
「いいよ。それじゃあ早速買いに行こっか。」
「ねえ、これ見てちょー可愛くない?」
「あっ、本当だ!それ買っちゃおうかな!」
「いいじゃん。実には絶対似合うよ。」
辞めたい、このつまらない生活を。早く香織に会いたい。香織だけが実にとっての光だった。
青くて綺麗な長い髪。透き通った瞳にとても綺麗な肌。それはモデルと間違うほどに美しいものだった。
香織は幼馴染であり実の唯一の大切な人だ。
実は普段からいろんな人と話してバカやって楽しんでいるフリしてるけれど本当に心底つまらなかった。
実の周りにいる人は誰もがヘラヘラと媚びへつらってるだけでつまらない。変な目で見てくる人も多くて本当に嫌だった。
きっかけは香織を嫉妬させたくて他の人と絡み出したことだ。だけどそれは逆効果で香織とはなんの進展もないし学校でも話さなくなった。
その上、寮で二人きりの時もなんだか暗いように見える。
それでも生きる理由を教えてくれた香織が大好きだった。
実は今までのつまらない生活を変えてくれた香織を病的なまでに愛していた。
香織は人に興味なんてないから実のことも多分友達くらいにしか思っていないと思うけれど。
それに香織は実以外の人と話してるところを見たことがない。それだけで安心できる。
たとえ想いを伝えられなくても関係が変わらず一緒にいられたらそれだけでいい。
「おーい、実ってば話聞いてる?」
「ご、ごめん。何の話だっけ?ちょっと聞いてなかったよ。」
「もう、実はそういうところあるよね。」
そう言って笑うみんなに合わせて実は何も面白くないのに笑った。
実には香織以外の楽しみが一切なかった。
昔はもっと色々と興味があってキラキラしていたとは思う。でもここ最近本当につまらなくて何の味もしなくなった。
放課後だけを待ち続けるそんな日常。放課後さえくれば実は自由になれる。そんな短い幸せ。
それでもいい。積み上げた宝物が一つあればそれだけでいい。
実は香織という大切な宝物を人生をかけても守り続けると心の中で誓った。
「ねえ、あれ実の寮の仲間じゃね?」
「本当だ、あのちょっとうざいやつでしょ。確か月島香織だっけ?でも今日は一人じゃないんだ?」
「は?嘘でしょ?」
そこには確かに実の知らない人と歩いている香織がいた。あの女は誰だろうか?
香織は友達なんていないはず。香織は実以外に笑わないはず。だったはずなのに。
香織は微かによく知らない女に笑いかけていた。そもそも香織は実ともあまり外には出かけてくれなかった。
積み上げていたモノが一気に崩れ去る。実のメンタルは既にバラバラに砕け散っていた。
気がつけば涙が頬を伝っていた。
「実、どうしたの?何で泣いてんの?」
「何か嫌なことでもされた?」
「ごめん。私、ちょっと行って来るから。」
「ちょっと!急にどこに行くつもりなの?」
実は騒ぐ友達を全て無視して香織の元へ行く。全てがどうでもいい。実にとって香織だけが全てだから。
「見つけた。香織、ちょっとこっちに来て。」
「実?突然どうしたの?どうしてここに。」
驚く香織を無視して実は強引に引っ張った。
こうなったらどんな手段を使っても香織を手に入れてみせる。
既に実は壊れていた。
実は無言で香織を掴んだまま、寮まで戻り香織をベットに押し倒した。
香織は訳がわからないのか唖然としていた。
「ちょっと、急に来たと思ったら寮まで戻ってどうしたの?今の実はなんだか怖いよ。」
実はそんな香織にイラついていた。もう全てがどうなってもいい。
「うるさい!うるさいうるさいうるさい!香織が悪いんだよ?私以外の人と楽しそうに歩いているから。香織には私だけいればいいんだから。」
実は不安そうな顔で見つめてくる香織の服を無理やり脱がせる。
こうなったら体に直接教え込むしか方法はなかった。
「ちょっと、突然どうしたの?何か説明してよ。」
「黙ってよ!大人しく私に抱かれて。」
実は無理やり香織の胸を揉んでキスをする。自分の唾液を無理やり香織に飲ませる。実の全てを香織に共有したい。
もう手段なんて考えていられない。香織が自分のモノにならないのであればどんな手でも手に入れてみせる。
「とりあえず話そうよ。話せば分かるから。」
必死に話そうとする香織を実は完全に無視する。何も聞きたくなんてなかった。
ああ、何て惨めなんだろう。こんなことしかできない自分が嫌になる。ただ実は泣きながら香織を汚すことしか出来なかった。
そして実が正気を取り戻した頃には既に遅かった。
「ひうっ。酷いよ実。どうしてこんなことするの?」
泣いて実を見つめる香織にもう何も考えれなくなる。
頭がぐわんぐわんになってもう死にたい気分だった。
「ごめん香織。私もうダメみたいだよ。」
こんな汚れてしまってはもう香織の隣にはいられない。
実は泣きながら寮を出た。もう香織とは二度と会いたくない。
「ごめんね、実。」
香織は他に誰もいない寮の中で呟いた。香織の瞳には大量の涙でいっぱいだった。
もちろん突然実に服を脱がされた時はびっくりしたし、怖かった。しかしそれは、決して嫌なことじゃなかった。
嫉妬してくれたことも気持ちを伝えてくれたことも全てが嬉しかった。何よりそれだけ香織のことを好きだったというのが分かって嬉しかった。
自分だけじゃないというのが分かってよかった。
泣いたのは実が嫌だった訳ではなく、こんなに実が苦しんでいるのに何も出来なかった自分に対しての悔しさだ。
だから香織がやることは既に決まっていた。今からやることもこれからやることも。
しかしこうなったららもう普通に戻ることなんて絶対にできない。
「私ってば何てことしちゃったんだろう。もう香織と顔を合わせることが出来ないよ。」
実は誰もいない河川敷でうずくまっていた。
香織のことが大切なのに自分のせいで傷つけてしまった。だから香織にはもう会えない。
せっかくの幸せな時間を自らの手で壊してしまったんだ。もう死にたくてしょうがない。
「香織大好きだよ。香織がいない私に生きる意味なんてないから。」
実は何もないただ静かな場所でボソッと呟く。この想いも伝わらない結局は伝わらないんだ。
「私も実のことが好きだよ。だから死のうと何てしないでよ。」
実は目を疑った。そこには何故か存在しないはずの香織がいた。だって香織は自分で傷つけてしまった。もう実が香織に会う資格なんてないはずだ。
「でも私は香織を傷つけて。だから私はもう香織に会えないんだよ。」
実は香織から離れようとするが香織は抱きついて離してはくれなかった。
「私ね、実の気持ちが知れて嬉しかったんだよ?確かに困惑はしたけれど、一度でも実を嫌いになったことなんてないから。」
何で香織はここまで優しくしてくれるのだろうか?そう思うと涙が止まらなくなる。
それに実はまたいつか香織を傷つけてしまう気がした。
「私は独占欲強いし性格も悪いから香織を傷つけちゃうかも知れないよ。それでもいいの?」
「それはお互いさまだよ。私だって実が思ってるほど完璧じゃないから。だから一緒に溺れようよ?」
そう言って香織は手を差し伸べた。本来その手を取るべきではない。
そうだとしても実にはもう迷いなんてなかった。こうなったら後は二人で深海まで落ちるだけだ。
結局二人は手を握り合って、寮へと戻った。
もう二人にはお互いのことしか頭になかった。
それからの二人というものは完全に壊れた関係になっていた。
香織は定期的に知らない人と楽しそうにしたりして実の嫉妬心を煽った。そうすれば実は香織を一心不乱に愛してくれるから。
実は無理やり香織を犯したり、わざと学校で香織をいじめて完全に孤立させたりした。そうすれば香織を独り占めできるから。
周りから見たら完全に壊れているがそれが二人にとっての気持ちの伝え方になっていた。
「だって私達は幸せだから。」




