だいいっしょう あおいのひみつ
あおいは、ようちえんにかよっている、
まだちいさな、おとこのこです。
あおいには、
にさいうえの、おにいちゃんがいます。
おにいちゃんのなまえは、
ひびき。
ひびきは、はしるのがじょうずで、
なわとびもサッカーもだいすき。
おうちのひとに、
「ひびきは、げんきいっぱいだね」
といわれると、
ひびきは、
えへへ、と、はずかしそうにわらいます。
でも、おかあさんは、
あおいを、そっとみながらいいます。
「ひびきもすごいけどね、
あおいも、ほんとうにすごいんだよ」
あおいは、ものをおぼえるのが、
とってもじょうずなのです。
せんせいがいったことば、
おうちでのやくそく、
すこしまえにきいたおはなしまで、
あおいは、
まるでこころのなかに、
ちいさいノートがあるみたいに、
きれいにのこしておけるのです。
でも――
あおいには、
ひとつだけ、だれにもいえない
ひみつのなやみがありました。
それは、
めがあまりよくみえないこと。
とおくのものは、
もやもや、ぼんやり。
おともだちのかおだって、
よくわからなくて、
「これ、○○くんかな…
それとも、△△ちゃんかな…」
あおいは、いつも
こころのなかで、そっとくびをかしげてしまうのです。
まちがえたら、
はずかしいきがして、
『あおくん、よんでもだいじょうぶかな…』
と、
なまえをよぶのを
ためらってしまいます。
そして、よくこけます。
はしっていると、
ちいさなこいしや、
うごいているおともだちのあしに
つまさきがひっかかって――
ゴンッ!
「いたっ…」
あおいは、ころんでしまいます。
ひざやてのひらには、
いつもバンドエイドがぺたぺた。
でも、おかあさんは、
そのたびに、そっとなでなでしてくれます。
「よくがんばったね。
いたかったね」
おとうさんは、
あおいのめのたかさまでしゃがんで、
「こんどはゆっくりあるいてみような」
と、やさしくこえをかけてくれます。
そして、おにいちゃんのひびきは、
いちばんにかけよってきてくれます。
「だいじょうぶ? あおい。
ほら、ひびきがおこしてやる!」
ひびきは、
あおいのことがだいすきで、
あおいもまた、
ひびきのことがだいすきでした。
だから、あおいは、
がんばってにこにこします。
「だいじょうぶだよ。
あおくん、たてたよ」
あおいがそういうと、
おとうさんもおかあさんもひびきも、
にこっとわらってくれるのです。
そのひ、
おそとあそびのじかん。
くもりそらだけど、
にわはこどもたちのこえでにぎやかです。
「よーい、どん!」
せんせいのこえで、
こどもたちがいっせいにかけだします。
あおいも、
トトトト…と、はしりだしました。
(あしもと、きをつけて…
でも、はしらなきゃ)
でも――
ゴンッ!
「あっ…!」
こんどは、
ちいさなこいしにつまずいて、
あおいはおおきくころんでしまいました。
「いたい…」
ひざが、ジャリジャリのつちにこすれて、
すぐにひりひりしてきます。
まわりのこえが、
すこしとおくにきこえました。
「またころんじゃった」
「だいじょうぶかな」
でも、あおいには、
かおがよくみえません。
また、はずかしくて、
かおをあげられません。
(あおくん、またころんじゃった…)
なみだが、ぽろぽろ。
そのときです。
あおいの、まぶたのうらが、
ふわっ…とひかりました。
「…?」
まっくらのなかに、
ちいさなひかりがひとつ。
おほしさまみたいな、
やさしいひかり。
それが、
すーっとあおいにちかづいてきます。
「ねえ〜…ねえ〜…」
とても、やわらかい、
あかちゃんみたいなこえがしました。
「あおい〜…」
あおいは、びくっとして、
なみだをふきました。
「…だれ?」
そっとかおをあげると――
そこに、
ちいさくてまるい、
きらきらひかるなにかが
ぷかぷかういていました。
「ひかってる…?」
あおいがつぶやくと、
そのちいさなひかりは、
にっこぉ〜とわらいました。
「うん〜。
あおいの〜…なかの〜…
きらきら〜のひかり〜」
こえは、
ふにゃふにゃで、
あかちゃんみたいで、
きいていると
こころがゆるむようなこえ。
「あおいの…なかの…?」
「そうだよ〜。
あおい、がんばったでしょ〜。
ころんでも、ないても、
にこってしたでしょ〜。
ひかりん、ず〜っと、みてたの〜」
「みてたの?」
「うん〜!
みてたの〜。
あおい、がんばりんぼさんだから〜
おきたの〜」
「おきたの?」
「うん〜!
あおいのなかで〜
ず〜っと、ねてたけど〜
おきたの〜。
ひかりの〜おともだち〜。
なまえはね〜…」
ちいさなひかりは、
くるっとまわって、
のびをしました。
「ひかりん〜!
ひかりんっていうの〜!」
「ひかりん…」
あおいが、
そっとくりかえすと、
「そう〜!
ひかりん〜!
あおいの〜きらきらの〜おともだち〜!」
ひかりんは、
ぴかぴか、きらきら。
あおいのぬれたほっぺを
そっとてらしました。
「でもね…あおくん、めがよくみえないの…
すぐこけちゃうの…」
あおいがいったとき、
ひかりんは、
あたりまえみたいにこたえました。
「しってるよ〜。
あおいのなかから〜ず〜っとみてたの〜」
「…みてたの?」
「うん〜!
あおいは〜やさしいから〜。
おにいちゃんにも〜、おかあさんにも〜
きにして〜がんばって〜にこにこしてるの〜。
ひかりん、ちゃんとみてたよ〜」
あおいのむねが、
じんわりあたたかくなりました。
「でもね〜。
あおいのせかい〜
まだまだきらきらできるの〜!」
「…きらきら?」
「うん〜!
めでみえるきらきらも〜
こころでみるきらきらも〜
あおいには、あるの〜!」
ひかりんは、
ちょんっとあおいのむねをさしました。
そのとき――
あおいのむねのなかが、
ぽうっとひかったきがしたのです。
(こころの…きらきら…?)
よくわからない。
でも、なんだかすこし、
かなしくなくなった気がしました。
そのとき、
せんせいのこえがきこえました。
「あおいくん、だいじょうぶ?
たてる?」
ふりむいたときには、
ひかりんのすがたは
きえていました。
でも、あおいのむねのなかだけは
あったかくて、
すこしかるくて――
そして、
きらっと、ひかっていました。
あおいは、
ゆっくりとたちあがって、
「だいじょうぶだよ。
あおくん、たてたよ」
と、ちいさく、
でもしっかりこたえました。
そのひとことは、
はじめてあおいのなかで
きらっとひかった
ちいさな「ひかり」でした。
――つづく。




