5 ちいさな敵襲②
「総督!」
駆け寄ってくる若い小柄な騎士は、リィゼア達と同じ軍服を身に纏っている。
黒の詰襟に黒ズボン、銀のベルト。左胸に輝く銀の星の徽章は守星軍所属の騎士である証。
守星軍に入ることは、この国において最も名誉なことの一つである。
国を守ること、この星を守ること、人々を守ること。その全てを担う守星軍は貴族平民関係なく入団を志願できるが、実際に合格できるのはほんの一握り。
いちばんの入団条件は、いついかなる時も強くあることだ。
「セレン。哨戒ご苦労様。早速だけど、報告にあった『異変』について教えてちょうだい」
リィゼアは部下に歩み寄る。軍服の上から羽織った白の片マントが吹いてきた風に靡いた。総督の階級を示すそれをそっけなく手で払いのけ、さらに質問を重ねる。
「研究所にはもう連絡した? 異変を確認してからこれまでに変わったことは? 文献の調査……はこの短期間では無理ね」
「姫、一度に喋りすぎです。ほら、セレンが困ってますよ」
一言発するごとに前のめりになっていくリィゼアの身体を、シィルが抱き止めた。
「ごめんなさい。つい」
「いいえ、我々も詳しいことがわからずぼんやりとした報告になってしまいましたから」
セレンが即座に首を振って否定する。
「とりあえず、異変についてはカケラを見ていただければお分かりになるかと」
そう言って彼が差し出してきた握りこぶし大の星のカケラを受け取り、リィゼアは目を丸くした。
形はいつも通り。三角中と円柱と立方体をぐちゃぐちゃにくっつけたような、歪でおかしな形だ。
けれど、一目で違和感を感じた。
「光が、強い……?」
星のカケラは通常、青の淡い光を発している。それは、昼間では目を凝らせばわかる程度の弱いものだ。
けれど目の前のカケラは明らかに強い光を発していた。
「これ、まさか中からミニサイズの〈侵略者〉が出てきたりしないわよね」
「文献でもそういった話は読んだことがありませんが」
「新種は文献には載ってないじゃない。参考になんてならないわよ」
「あの、恐れながら、その可能性は低いかと……」
リィゼアとシィルが二人で言い合っていたところに、セレンがそろそろと手を挙げた。
「同じようなカケラはここ数日でいくつか見つかっていて、その一つをうちの者がトンカチで割ってみたのです。しかし、何も起こりませんでした」
「あんた達、度胸あるわね」
「観察も我ら哨戒班の仕事の内ですので」
「にしても勇気があるわ。未知の物体の中身を覗いてみるだなんて」
上司にそう言われたセレンは、小柄な身体を縮こまらせて照れている。褒められ慣れていないようだ。
……仕事とはいえもう少し警戒心を持ってほしいなーなんて思ったのは口には出さない。
彼らには彼らなりのプライドややり方があるからだ。それに対して、哨戒経験のほとんどないリィゼアが口を出すのは違う。
「そういうことならミニサイズ〈侵略者〉説は可能性が低いわね。じゃあこのカケラは何なのかしら」
「研究所に渡してみないことにはわからなさそうですね」
「ええ」
リィゼアが頷いてセレンの方を見ると、彼はきゅっと表情を引き締めて背筋を伸ばした。
「研究所にはもう連絡してあるので、数日以内に到着できるだろうとのことです。それから先ほどの質問についてですが、見つかった異変はこの光の強いカケラだけで、それ以外に異常は見られませんでした。文献の調査はまだできていないのと、ここ落陽地帯の基地には書物や資料が少ないので、そちらでお願いできますか」
「わかったわ。調べておく。研究所にも過去の事例について尋ねてみるわね」
「ありがとうございます」
セレンは頭を下げた。
その綺麗な礼の姿勢をとる頭に、リィゼアはさらに質問を投げかける。
「それからもう一つ、報告書にそろそろ〈侵略者〉が来そうだとあったのだけれど」
「はい。ここ数日に降ってきた星のカケラの観測結果から、今日か明日には来るだろうという結果が出ました。けれど今回はおそらく、規模の小さなものになると思われます」
「そう。なら帰ったらすぐに第一戦隊に出動命令をだしてお、」
そこで言葉を切った。
空を見上げると同時、閃光が厚い雲を切り裂く。
「敵襲! 総員、直ちに戦闘態勢! 落下に警戒しなさい!」
リィゼアの声が辺りに響き渡った。
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