4 ちいさな敵襲①
「哨戒報告書が、どうしてこんなところにあるのよ! しかもこれ昨日の日付じゃない!」
「姫が整理整頓しないからでしょう」
「それはそうなんだけど!」
リィゼアはぷるぷる震えながら、書類に目を通す。
「で、何かあったんですか」
「大有りよ。といっても、今回の襲撃は小さめらしいけれど」
「なら、現地にいる奴らに任せておけばいいじゃないですか」
「それが、ちょっと気になることがあって……」
リィゼアから書類を受け取ったシィルは、ざっと目を通して、怪訝そうに呟いた。
「……異変、ですか」
「ええ」
リィゼアも心配げに頷いた。
「星のカケラに異変なんて、見間違いだったらいいのだけど」
「今更見間違いなど、彼らがするはずもないのは姫もお分かりでしょう」
「そうよねぇ。なにせ、わたくしが育てた騎士達だもの。となると、本当に異変が起きているということになるけれど」
「そう考えるしかありませんね。考えたくもないですが」
ふたり揃ってため息をつく。
「〈侵略者〉も、せめていつ来るか予告してくれたらいいのに」
「それが、小さな星のカケラなんでしょう。侵略の少し前から、降ってくる数が増え始めますし」
「それはそうなんだけど。もっと正確な情報源が欲しいわ」
「前兆があるだけでもまだいいのでは? 星のカケラと〈侵略者〉の侵攻の関連性が証明されるまでは、急に襲撃があって大変だったと本で読みましたよ。この時代に生まれたことに感謝すべきです」
「それはそうなんだけどぉ」
リィゼアは机の前に戻ると、哨戒報告書を書類の山の一番上に置いた。
それから、シィルの方を向く。
そのサファイアの双眸は強い輝きを纏っていた。
「ともかく行くわよ、準備なさい。今回は視察がメインだから、あんたとわたくしの二人だけでいいわ」
「……あなたという人は、また無茶をなさる。公務も夜会の準備もあって多忙なんですから、軍のことくらい部下に任せておけばいいでしょうに」
「だってわたくしが行った方が早く終わるし。それに、任せっきりじゃ何かあった時に対処できないじゃない」
言いながら、リィゼアは机の上に広げた書類を手際よくまとめ始める。
「わたくしは、可愛い部下達をなるべく危険な目に遭わせたくない」
「彼らもそれを承知で志願しているはずですがね」
「それでもよ。誰だって、死なせたくない。悲しませたくないの」
「………………」
シィルはしばしの間黙ってリィゼアを見つめていたが、やがてやれやれというふうに頷いた。
「わかりましたよ。ただし姫、さっさと行ってさっさと片付けてさっさと帰ってきてさっさと仕事をしてくださいね。いつものように、軍の仕事を言い訳に夜会や仕事をサボろうとなんてさせませんから」
「あ、バレてた?」
***
数時間後、リィゼアとシィルは軍服に着替え、王都を出てすぐそばにある荒野に立っていた。
『落陽地帯』と呼ばれるここは、世界で唯一、星のカケラ、そして〈侵略者〉が落ちてくる場所である。
「まだ来てはいないようね」
落陽地帯の上空だけを覆う厚い灰色の雲を見上げて、リィゼアは呟いた。
雲のすぐ下には、王都を囲む城壁が遠くに見える。
さらにその手前には、一面の茶色がずっと遠くまで広がっている。
見渡す限り木の影は無く、茶色に枯れた草の葉が風に靡いている。あちこちに転がる灰色の瓦礫の隙間で、軽やかな穂や青い小さな花をつける草が、見渡す限り褐色の荒野の中で生命を確かに主張している。
シィルはその瓦礫のひとつを手に取り、手の上で転がして遊んでいる。
あちこちに転がる残骸は、素焼きの煉瓦にも大理石にも似た不思議な質感をしている。見た目はツルツルなのに、割ればその断面は岩のようにごつごつざらざらしているのだ。
そしてどれも、昼間でも目を凝らせばわかる程度に発光している。その光は、晴れた冬の空のような冷たい薄青色だ。
「……また来るのですね、〈侵略者〉が」
シィルが、風より低い声で呟いた。
〈侵略者〉。
それは、『星のカケラ』に乗ってこの星に落ちてくる異星人のこと。
この星には、星のカケラが落ちてくる決まった場所が存在する。それが、このサイスフォリア王国の王都のすぐそばに広がる荒野『落陽地帯』なのだ。
〈侵略者〉への対応はサイスフォリアが担う。そのために創られたのが、リィゼアが総督を務める騎士団『守星軍』だ。
「せめて目的でもわかれば、対処しようもあるのに」
「それがわからないから厄介なのですよ、姫。落ちてくる時期も量も性質も、全部バラバラなのですから」
シィルが、遊んでいた星のカケラを地面に放り投げた。守星軍に所属する騎士が近づいてきたからだ。
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