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【連載版】星になれ、戦姫  作者: じうかえで
第一章 駄目姫と生意気従僕
1/8

1 婚約なんてお断り



 これは、サイスフォリア王国に残る、最も有名な伝説のひとつ。

 勇敢な戦姫と、彼女を守る騎士の恋物語だ。



   ***



 リィゼア・アル・サイスフォリアの一日は、愛する従僕の怒鳴り声で始まる。


「いい加減起きなさいこんの寝坊助姫!」


 冷たい朝の空気に触れて急激に冷えたリィゼアの腕が、突然消えた掛け布団を求めて彷徨う。


「姫、寒いですか? 寒いですよね? ならさっさと起きてください」


 ああ、どうしてこんなに寒いのだろう。今は春のはずなのに。


「春もまだまだ始まったばかり。この朝の気温は、姫を起こすのにはちょうどいいですね。ほら、足掻いても無駄ですよ。さっさと起きてください」


 呆れを含んだ従僕の声に、リィゼアは目をこすりながら渋々起き上がる。

 ぼやけた視界に、真っ白い羽毛布団を掲げた、細身で長身の男の姿が映り込んだ。


「こらシィル、寒いわよ今すぐお布団をこちらによこしなさい!」


 がたがた震えながら叫ぶリィゼアに、シィルは呆れまじりの視線を向ける。


「……姫」

「なによ生意気従僕。あんたが抱きしめて温めてくれるって言うならそれでも良いけど?」

「なに言ってるんですか。俺は部屋出てますからその間にちゃっちゃと身支度してください。今日は陛下との謁見の予定が入っていたでしょう」

「……そういえば。うえぇ、お父様ったら何を話すことがあるのかしら。軍のお仕事ならちゃんとやってるわよ」

「姫のこういうだらしないところを注意なさるのではありませんか」

「あんたが起こしてくれるんだから別に良いでしょ。起きられてるし」


 シィルはやれやれ、と肩をすくめた。


「まったく、十七歳にもなって、夫でもない男に起こしに来させるなんて。今までの王女教育の成果はどこへ行ってしまったんでしょうね」


 言いながら、ちらちらと横目でリィゼアを見てくる。

 明らかに挑発しているその目つきに、リィゼアは口を尖らせてピシャリと一言。


「だまらっしゃい」


 従僕に強く命令できるのは主人の特権。リィゼアは普段から、この特権を多用する。

 しかし、いつもいつも、のらりくらりと躱されるのだ。


「三分で着替えられたら、朝食のフルーツを『あーん』して差し上げますよ」

「シィルあんた、できるはずがないとわかって言ってるわね?」

「いいえ。自堕落な駄目姫様でも、その気になればできると俺は信じてますよ。夜空の英雄の一人、サルヴァ妃は入浴時に襲撃を受けた時、二分で着替えて三分で〈侵略者〉を殲滅したという伝説があります。姫に差し上げた時間はサルヴァ妃の着替えより一分長いですよ?」


 リィゼアはシィルが言った伝説を思い出す。




 ここ、サイスフォリア王国にはとある言い伝えがある。

 それは、『この世界や国のために素晴らしい働きをした者は、死後、星になる』というもの。英雄や学者はその伝説とともに星座になり、人々の心の拠り所となるのだ。

 星座になることで、死んだ後もこの世界と結びつき、国や人々が窮地に陥った際には救いの手を差し伸べてくれるという。

 それは、英雄が死んでもその存在が人々に忘れられていないが故の信仰心だ。皆、星座の言い伝えを信じているからこそ、夜空を見上げて星々に祈る。


 サルヴァ妃はその数ある星座の中でも、特に有名な伝説のひとつだ。

 他国から嫁いできた王妃が、女性であるにもかかわらず多くの〈侵略者〉を倒したという話は、定期的に劇も上演されるし、彼女関連の書籍も数えきれないほどある。



 幼少期、何度も読み聞かせされた絵本を思い出して、リィゼアは顔をしかめる。


「……サルヴァ妃のそのお話は、野外での清拭に軍服でしょう。それも戦闘用の簡易式の。軍服とドレスじゃ訳が違うのよ」

「あいにく俺は女性ではないのでお着替え事情はわかりかねますが。さっさとドレス着て髪とかして朝食をとって謁見してそして仕事に戻ってきてください」



   ***



 結局、リィゼアが身支度にかかった時間は十五分。

 豪奢なドレスを着て、長い金髪を華やかなポニーテールに結い、美しいメイクまで全て済ませてこの時間だ。かなり頑張った方だと思う。褒めてほしい。

 身支度を手伝ってくれたメイドは、「姫様はもっと綺麗になれるのにぃ」と半泣きだったが。


「三分なんて無理よ。誰もできないわよ」


 案の定、シィルは『あーん』をしてくれず、リィゼアは勝ち誇ったような笑みを浮かべるシィルを横目に、一人でフルーツを口に詰め込んだ。

 リィゼアは、普段は公務や他の書類仕事などが忙しいため、朝食には簡単に食べられるサンドウィッチを用意してもらっている。

 だから、久しぶりの『お皿に載った』食事を味わいたかったのだけれど。


(今日のお父様とのお話、どうも嫌な予感がするのよね)


 同じ城内にいる実の娘を、わざわざ書類付きで呼び出すことなど滅多にない。

 大抵の話は、夕食の席やティータイムなどのプライベートな時間に済ませてしまうからだ。

 呼び出された場所は謁見の間ではなく王の執務室。そのことを考えると、プライベートなことも絡んでくる話なのだろうか。


(そんなに大事な話なのかしら)


 甘くみずみずしい苺をもきゅもきゅと噛んで、ごくりと飲み込む。


(どんな話だったとしても、この『戦姫』が受けて立つわ!)


 この時はまだ、そう思っていた。



   ***



 こんこん、とドアをノックすると、すぐに「入っていいぞ」と声が返ってきた。

 リィゼアは重厚な扉を押して、部屋に足を踏み入れる。


 見渡した国王の執務室は、いつも通りたくさんの本や書類が整然と並べられている。

 しかしいつもと違うのは、常に数人いる側近達が、誰一人この場にいないことだ。


(おかしいわね。側近にも聞かせたくない話なのかしら)


 父・デルフィアスはペンを握る手を止め、顔を上げた。


「よく来たな、リィゼア。今朝はちゃんと起きられたのか?」

「も、もちろんよ!」


(嘘は言っていないはずよ。シィルに起こしてはもらったけれど、二度寝せずにちゃんと起きられたもの!)


「そんなことよりお父様、お話とはなに?」

「まあまあリィゼア、そうせかせかしなくても。お茶はどうだい?」

「わたくしにだって仕事があるのよ。最近また怪しくなってきたって、哨戒班が言っていたし」

「わかったわかった。では本題に入ろうか」


 デルフィアスは苦笑すると、書類の山から一枚を抜き取り、リィゼアへ差し出した。

 執務机を挟んでリィゼアはそれを受け取り、ざっと目を通す。


「――な、」


 わなわなと震える唇から、声が漏れる。


「お前もいいかげん考えるべきだと思ってな」


 悪びれもせず告げる父の目の前に書類を叩きつけ、リィゼアは叫んだ。




「なによこれえええぇぇぇぇぇぇっ!!」




(わたくしが、婚約ですって?! そんなの絶対お断りよ!)



お読みいただきありがとうございます!

次話は本日18時に投稿します!

よろしければ、ブックマーク、評価(☆)、リアクション、感想、イチオシレビューをよろしくお願いします。作者が飛び跳ねて喜びます。


戦姫と従僕の御伽噺、どうぞお楽しみください。

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