Chapter 5 ——最後のマジック:未来の記憶——
扉を開けると、リアムは一面白い空間に放り出された。
そこには空も地面もなかった。ただ、“未来の記憶”と呼ばれる光の映像が、空中に浮かんでいた。
映像の中で彼は、警察を辞め、誰にも語らずに田舎へと消えていく。
妹の名前を思い出さず、そのまま人生を終えていく――そんな未来。
「これは……俺が、選ばなければ起こる未来?」
「ええ」と、ブリリアンの声が響いた。「あなたは、自分の過去を拒絶していた。自責の念に蓋をしていた。だから、このままなら、“失ったままの人生”が現実になる」
リアムは拳を握る。
「俺は……ミラを忘れたくなんてなかった。ただ、許せなかったんだ。自分を」
「許すんじゃなくて、向き合うことが大事なのよ。だから私は、マジックで“舞台”を作った」
ブリリアンは彼の前に、あの“時計塔”のミニチュアを置く。
「時計塔はね、あなたの心の時間そのものなの。事故以来、あなたの時間は止まったままだった」
リアムは塔に手を伸ばす。
その瞬間、舞台に鐘が鳴る。
カチリ。時刻が動き始める。
「時を戻すんじゃない。進めるんだ、リアム」
⸻
リアムは目を覚ました。広場に立っていた。
朝日が昇り、そこに――時計塔が建っていた。
しかし以前と違う。塔の装飾が新しくなり、正面にはブロンズで刻まれたプレートが追加されていた。
“Memory is not what you keep. It is what you face.”
– Brillian Shatt
群衆が集まる中、リアムはそっと手紙を取り出す。そこには、劇場での記憶を忘れないようにとブリリアンが残したカードがあった。
裏面にはただこう書かれていた。
“Now, it’s your stage.”