第九章:沈黙の嘲笑
午後二時。
警視庁記者会見室。
照明がまぶしく、フラッシュの光が断続的に飛び交っていた。
「本事件につきましては、現在も鋭意捜査中であり——」
警察広報が形式的な説明を繰り返すたび、
記者席からは苛立ち混じりの質問が飛ぶ。
「では、なぜ未だに有力な容疑者がいないのか?」
「犯人が“白い羽根”を使う意味は、何か解明されたのか?」
「警察の無能さが被害を拡大させているのでは?」
沈黙。
記者たちの手元には、連続殺人に関するスクープと憶測が並び、
ネット上では既に祭り状態だった。
午後六時十五分。
都内SNSタイムライン・トレンドランキング:
#幽霊の殺人者
#堕ちた天使
#警視庁は無力
#白い羽根チャレンジ
#ミステリー界の王
投稿内容(一部):
「誰が捕まるの早い?犯人?それとも警視庁の信用?」
「神谷って名前、聞いたことあるけど……名探偵じゃなかったんだなw」
「マジで映画みたい。警察いらない説ある。」
午後八時三十二分。
警視庁捜査一課・神谷弘志のデスク。
誰もいないオフィス。
書類の山と、鳴らない電話。
モニターには、容赦のないネットのコメントがいくつも流れていた。
——“捕まえられないなら辞めろ”
——“もう一度失敗するのか?”
弘志は画面をそっと閉じた。
デスクの片隅には、一枚の古い新聞記事。
【2009年 未解決事件:吉さやかの失踪】
——担当刑事:神谷弘志
彼が警察官として唯一、未解決に終わった過去の事件。
(またか……)
彼は額を押さえ、静かに椅子にもたれた。
(あの時も、何も掴めなかった……
今度こそ、と思っていたのに……)
遠くで時計の音だけが、静かに鳴っていた。
その音は、まるで彼の焦燥を笑うかのように——