第四章:二つの沈黙
午前四時五十一分。
郊外の古びた公園。
寒風が落ち葉を巻き上げる中、警察車両のライトが静かに揺れていた。
「……こちらです、神谷さん。」
神谷弘志は現場のテープを静かにくぐり、芝生に残る足跡を越えながら奥へと進んだ。
古びたブランコの隣に、二つの遺体が並んで横たわっている。
一人は成人女性。
衣服は汚れ、靴も脱げかけていた。
体は地面を引きずられた跡があり、殺された場所はここではないとわかる。
もう一人は中学生の少女。
制服のまま倒れており、目は見開いたまま、恐怖の中で時を止めていた。
——彼女の胸元に、一枚の白い羽根が落ちていた。
「少女は田中遥、十三歳。昨夜、家族に“ちょっとコンビニへ”と言って出かけたそうです。」
「もう一人は?」
「不明です。身元確認中ですが、近くの監視映像で一致する人物を捜索中です。」
弘志は黙って膝をつき、少女の顔を見つめた。
小さな体。細い手首。恐怖に凍りついたその表情は、何かを“見た”証だった。
「遺体の位置、血痕、引きずられた痕跡……」
彼は手帳に淡々と記録をとり始めた。
「第一の遺体:別の場所で殺害され、公園へ移動。
第二の遺体:おそらく目撃者。即座に口封じされた可能性。
共通点:白い羽根、静寂、証拠の欠如。」
鑑識が慎重に周囲を撮影している中、弘志は周囲の暗がりを静かに見渡した。
(犯人は……自分の痕跡をほとんど残さない。
だが今回は、“見られた”ことに即座に対応した。
即断即決。そして、残されたのは……二つの沈黙。)
風が吹き抜け、木の枝が軋む音だけが夜に残った。
弘志は視線を落とし、ゆっくりと立ち上がる。
「……公園周辺の監視映像を全て回収しろ。
住民聞き込みも開始。
この犯人、次は……もっと大胆に動く可能性がある。」
彼の背後で、救急隊の足音が近づいていた。
だが弘志の目は、遠くの闇を捉えて離さなかった。
——まるで、そこに“犯人”が潜んでいるかのように。