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第二章:街の片隅で

雨は止んでいたが、東京の空はまだ重く曇っていた。

狭い路地の奥、ゴミ捨て場の前にパトカーのライトが瞬いていた。


「被害者は女性、二十四歳。名前は佐藤美優さとう みゆう

 コンビニでアルバイトをしていたそうです。」


現場に到着した神谷弘志は、警官からの報告を受けながら、目を細めた。

騒がしい記者たちを背に、彼はゆっくりとビニールシートの前に膝をつく。


そこには、小柄な女性の遺体があった。

目立った外傷はない。顔は静かで、まるで眠っているかのようだった。

ただ一つ、左手には白い羽根が握られていた。


——また、あの“サイン”。


「こんな目立たない場所で、どうやって殺したんだ……?」


若い刑事がぼそりと呟く。


「目撃情報は?」

弘志が尋ねる。


「今のところなしです。近所の監視カメラにも異常は映っていません。」


「まるで……存在しない犯人みたいだな。」


弘志は立ち上がり、周囲を見渡した。

この場所には何の象徴性もない。被害者にも政治的な関係も、金銭的トラブルもない。




「この女に共通点は見つからない。

 つまり犯人は……“選んでない”可能性がある。」


「無差別……か。」


その言葉に、空気が一瞬だけ凍った。

もしこの殺人が無差別であるなら、次は誰が狙われるか誰にも分からない。


弘志はポケットから手帳を取り出し、何かを記録しながら呟いた。


「法則が崩れたのか……それとも、もともと存在しなかったのか。」


彼の背後で、報道陣がフェンス越しにカメラを構えていた。


「神谷さん、これ……」


部下が差し出した袋には、被害者が持っていたスマートフォンが入っていた。

画面には、最後に開かれていたアプリの履歴。

そこには、“睡眠用ヒーリング音楽”の再生履歴があった。


——眠っている間に殺された?


弘志はその可能性を考えたが、同時に別のことが心に浮かんだ。


(この犯人は……人間の「無防備」な瞬間を、正確に突いてくる。)


彼は空を見上げた。

曇った空の向こうに、東京の街が広がっている。


この都市のどこかに、“幽霊の殺人者”が潜んでいる。

静かに、完璧に——そして容赦なく。


「……次は、誰だ。」


彼の声は誰にも届かず、風に消えていった。

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