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第一章:静寂の街にて

東京、午前四時二十二分。

冷たい雨が降り続け、ネオンの灯りが濡れた道路に揺れていた。

通りを歩く者はなく、ただパトカーの点滅灯だけが静寂を切り裂いていた。


「現場はこちらです、神谷さん。」


若い警官が傘を差しながら手招きする。

その声に応え、黒いコートを着た男が足を踏み入れる。

警視庁捜査一課・神谷弘志。

三十代半ば、冷静沈着で知られる敏腕刑事だ。


彼は現場のテープを静かにくぐり、無言で階段を上っていく。

現場はビルの屋上。

都市の喧騒が眠る時間帯、そこだけが異様な静けさに包まれていた。


「被害者は田嶋蓮、三十五歳。IT企業の部長です。」

鑑識の男がメモを読み上げる。


弘志は死体に近づき、膝をついた。

男は仰向けに倒れ、表情には苦悶の跡もない。

まるで、眠るように静かだった。


「死因はまだ不明ですが、外傷は一切ありません。争った形跡もなし。」

「他に証拠は?」

「……現時点では、指紋も足跡もありません。監視カメラも死角に入っています。」


弘志は周囲を見渡す。

雨音が衣服を濡らし、夜の冷気が肌を刺す。

その中で、ただ一つ異質な存在があった。


——白い羽根。


被害者の左手に、小さな羽根が握られていた。

風で飛ばされそうになりながらも、そこに確かに存在していた。


「またか……」

小声で誰かがつぶやいた。


「“幽霊の殺人者”ですか……」

若い刑事が口にする。


弘志はそれには反応せず、静かに立ち上がった。

今回で三件目。いずれも現場に証拠はなく、死因も不明。

ただ、白い羽根だけが共通していた。


「マスコミが騒ぎ始める前に、情報を封鎖しろ。

 今夜中に近隣の防犯カメラ映像をすべて回収しろ。」


命令を下す弘志の声は落ち着いていて、芯が通っていた。

部下たちは動き出す。だが彼の目は、屋上の隅をじっと見つめていた。


そこには何もない。

ただ、闇と雨だけ。


「……何を見てるんでしょうね、あの人は。」

若い鑑識員が同僚にささやく。


「さあな。けど、あの目……何かを掴んでる時の目だよ。」


弘志はゆっくりとポケットから手帳を取り出し、ペンを走らせた。


「第三の現場。共通点:白い羽根、証拠ゼロ、深夜帯。

 ターゲットは社会的地位のある人物——」


彼は書きながら、自分自身に問いかけるように呟いた。


「この犯人……一体、何を基準に選んでいる?」


その疑問に、誰も答えることはなかった。


ただ、遠くで雷鳴が鳴った。

そして、雨は止む気配を見せなかった。


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