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いにしえの魔女は穏やかに暮らしたい  作者: 三柴 ヲト
第二章 魔女とヴェルモンド・ウィザードカレッジ
8/38

よくやったわね

 ◇



「信じられないわ! まさかあのヴェルモンドに受かるだなんて……三人ともすごいじゃない、まるで夢みたいな気分よ!」


 ヴェルモンドの受験から早二週間――。


 施設にウィザードカレッジの合否通知が届くと、リムダは狂喜乱舞してエマ、メルン、エレーナの三人を呼び出し、全身全霊でその功績を讃えた。


「ありがとうリムダ。それもこれも、ずっと申請を出し続けてくれたリムダや、受験前から支え続けてくれたエマのお陰よ。私一人では何もできなかったし、夢のままで終わってたわ」


 涙を浮かべながら礼を述べるメルンに、リムダは何度も頷き、エマも微苦笑を返す。


「そんなことないわ。メルンは元々頭もいいし、ヴェルモンドに行くために、小さい時からずっと頑張ってたじゃない。これはあなたが実力で勝ち取った合格よ、自信持って」


 心の底からの賛辞を送りつつも、エマは内心、自分自身の『合格』に落胆の色を隠せずにいた。しかしながら今は、リムダもメルンも完全に舞い上がっているため、彼女のそんな憂慮に気付いた様子はない。


 メルンは涙ながらにエマに抱きつき、何度も何度もお礼を述べてくる。


 かたやエレーナはといえば、


「ふん、何が実力よ。どうせメルンは魔法技術よりも知識点と、『アンジェリーク家』の血筋と肩書きが書類選考で優遇されたってだけでしょう。魔法技術なら確実に私の方が上だし、出来レースもいいところだわ」


 と、よっぽど悔しいのか、嫉妬にまみれた眼差しでメルンを睨みつけている。


 顔を見合わせて苦笑するエマとメルン。


 ――というのも。


 エレーナもヴェルモンドに合格することはしたのだが、あくまで『補欠合格』という立場。何らかで枠があかなければ繰り上がり合格にはならない。


 それでも、あのヴェルモンドに片足を突っ込めただけでも充分名誉なことだといえるのだが、試験日当日の疑惑の一件があった手前、エマは素直に喜べなかった。


 あの日、メルンの試験杖を盗み、ヒッポグリフの首輪裏に隠して騒動を巻き起こした犯人がもしもエレーナだったという証拠があれば、彼女は確実に補欠合格から弾かれるだろう。


 しかしその証拠はない。疑わしいだけでは追求したところでうまく躱されるのが目に見えているし、エレーナはエレーナで、日々血が滲むような努力をしている事も知っているため、どうしても幼馴染としての情が湧き、うまく言及することができない。


 歯痒さを感じながらも、今回はメルンが無事に合格していたこともあるし、施設から合格者が出れば、優秀な魔法使いを輩出したとして施設宛に心ばかりの――といっても孤児院からすれば充分なほどの――寄付金が入る。リムダはきっと、そのお金でボロボロになった施設の修繕を行うだろうし、余剰金が出れば新たな孤児たちを迎え入れて大切に育てるに違いない。


 その機会を不用意に奪ってしまうことはいささか気が引けるので、結果的に穏便に済ませることにした。


「エレーナ、貴女もよくやったわね。補欠合格とはいえ充分に名誉あることよ。辞退者が出るかはわからないけれど、あとは天に運を任せましょう」


 リムダが労わるようにそう声を投げれば、エレーナは強く唇を噛み締めたのち、ふいっと踵を返して部屋を出て行った。育ててもらった恩のあるリムダには逆らえないのだろう。


 リムダ、エマ、メルンの三人は顔を見合わせて苦笑する。


「とにもかくにも、手続きを進めたら二人は春先でこの施設を卒業ね。寂しくなるけどこんなに誇れることはないわ。送迎会は派手にやりましょうね」


 リムダの一言に、エマとメルンは顔を見合わせてから頷く。


 もちろんエマは内心、不安と複雑さしかなかったけれど……ヴェルモンド合格の噂は時期に村中に広まるだろうし、試験日に出会ったレイ・グレイスのことを思い出すと、もはや逃げ道はない。もう腹を括るしかないだろう。


 かくして、エマたちの入学手続きと孤児院退所の準備は着々と進められ、エマはレイの待ち受けるヴェルモンド・ウィザードカレッジへ、生活の場を移すのであった。


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