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いにしえの魔女は穏やかに暮らしたい  作者: 三柴 ヲト
第二章 魔女とヴェルモンド・ウィザードカレッジ
12/38

バディシステム

  ◇



 移動した教室には、Dクラスに振り分けられた生徒たちが三十名ほど席についていた。


 一般の生徒で構成されるAからFクラス、成績優秀者のみが入れる少数精鋭のS1からS3クラスと、全九クラスある中のDクラスなので、魔力測定の数値は標準でもクラスの階級的には圧倒的に下から数えた方が早い。そこにいるクラスメイトたちはそれぞれ、思っていたよりも悪かった、良かったと、悲喜交々の表情を浮かべている。


 ほどなくして、室内に担当教員が入ってきた。金髪碧目の凛々しい顔つきをした女性だ。彼女はテキパキと大まかなカリキュラム説明を始め、次いでカレッジライフにおける決まり事などを、学生が不自由なく過ごせる程度にまで一気に喋り終えた。


「えー、以上。わからないことがあれば教員室にいる職員に訊くか、後ほど召喚する使い魔に尋ねること。いいですね?」


 使い魔――魔法で召喚されたペットのようなもの。そう噂には聞いているが、どのようなタイミングで召喚することになるのか、また、具体的にどんな働きをしてくれるのかまでは明白に把握していない。


 エマはひとまず周囲に同調するよう返事をしつつ、ガイダンス資料を捲る。


「では次に、〝バディシステム〟について説明を行います」


 教員の口からその言葉が発せられると、にわかに教室はざわつき始めた。


「でた! バディシステム!」


「ねえ君、何色だった? レッド以外なら俺と組まない?」


「あらごめんなさい。私、レッドなの。他当たってくださる?」


「まじかー、くそー」


「……?」


 バディシステムについては予備知識がなかったエマは、周囲の意味深な反応に首を傾げた。


 ざわつき始めた場内を鎮めるよう、担当教員がパンパンと手を叩く。


「はい静かに! すでに噂で把握している生徒もいるようですが、我がヴェルモンドには定期試験での成績のほか、日々の行いや魔法の習熟に合わせてスコアを与奪する『スコア制度』というものがあります」


 教員の説明に、エマはふむ、と頷く。


「貯めたスコアは昼食代や学用品交換、授業料の免除、クラス変更依頼、寮変更依頼、バディ変更料、あるいはバディ相手の指名料……など。様々なものに還元が可能です。無論、スコアは単独ソロで稼ぐことも可能ですが、生徒同士でペアを組み、二人でスコアを稼いで折半するといったことも許容されていて、そのペアで稼ぐ仕組みを本校では『バディシステム』と呼んでいます」


 なるほど。一人で稼ぐより二人で稼いだ方が遥かに早い。しかし、良い行いをして加点されるも、悪い行いで減点されるも一蓮托生となる。バディ探しは慎重にやらなければならず、それで周囲がざわついたのかと、エマは納得する。


 教員は大事なことを念押しするよう、さらに説明を続けた。


「バディは基本、一度組んだらどちらかが卒業、あるいは休学、退学といった節目を迎えるまで、その関係が継続されます。相応のスコアと引き換えに相手をチェンジすることも可能ですが、申請可能期間が設定されていてその期間内ではないと変更ができないことと、同属カラー同士は組むことができないのでそこだけは注意してください」


 教員の一通りの説明が終わると、一同は神妙な面持ちではいと返事した。


 そわそわと視線が飛び交っている。皆、バディ探しに気が急いているのだろう。


「……では、これにてガイダンスは終了です。本日はこれで解散になりますが、三日後には野外オリエンテーションが行われます。バディの相性を試すにもちょうど良い機会だし、新入生は今日から五日間、トライアル期間としてハンデなしのバディ変更が可能となるので、なるべく早いうちに組みたい相手と組んで、相性を確認しておくことをお勧めするわ。そうすれば、オリエンテーションも楽に進められるはずですからね」


 担当教員のその一言で場は解散となり、皆、堰を切ったようにバディ探しに身を乗り出した。


「ねえ君、何色? ブルー以外なら私と組まない!?」


「あの、あなたもう決まってる?」


「ちょっと隣のクラス行ってくるわ!」


「あ、待てよ俺も行く!」


 慌ただしく動き出すクラスメイトたち。半数以上は能動的に声をかけたり、他クラスに行ってバディハンティングをしようと教室の外に出ていったりと率先して動いている。


 まだ出会って間もない同士だというのに、驚きの行動力だなとエマは圧倒された。


(まあ、でもそうよね。単独で稼ぐよりもバディで稼ぐ方が圧倒的に心強いし。きっと目ぼしい人はすぐに声がかけられちゃうだろうから、早めに良い人を捕まえようって、皆必死になってるのね)


 まるで他人事のように考えてから、エマはううむ……と唸る。


 では自分はどうするか。今考えている選択肢は二つ。単独を貫く、あるいはBクラスにいるメルンに声をかけるかだ。


(もしカラーが合うなら、できればメルンと組みたい。でも、私は魔力を制御してカレッジ生活を送らなければならないから、下手をすればメルンの足を引っ張ってしまう可能性もある……)


 迷惑をかけるぐらいならやはり単独でやるべきだろうか。いやしかし、周囲を見ていてもほとんどの生徒がバディを組もうと動いているわけで、下手に単独を貫こうものなら逆に目立って怪しまれてしまうかもしれない。


(よし……)


 いずれにせよ、一度本人と会って彼女の意向を確認してみようかと、そんなことをぼんやりと考えているうちに、いつの間にか教室はがらんとしていた。


「……っと、あれ」


 辺りを見渡すと、能動的にバディ探しをするのが苦手そうな、内気そうな生徒が二、三名、ポツンと取り残されているだけだった。


 そのうちの一人が何か言いたげにおずおずと視線を投げてきたが、すでにバディを組むならメルンと……と考え始めていたエマは、勧誘が飛んでくる前にとそそくさ立ち上がり、素早い足取りで教室を後にした。


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