災難だわ
◇
(な、なんなのよもう……!)
その後、無事に式典を終えたエマは、先ほどの騒動を思い出しながら憤っていた。
一旦はなんとか気持ちを落ち着かせたというのに、式典の最中に在校生代表としてあの三人――御三家と呼ばれているらしい――が祝辞を述べに壇上に現れた際は、感情が荒ぶって耳も目も塞ぎたくなった。
この会場内のどこかにいるメルンも、入学試験日にあの男と起こした悶着を思い出して気に病んでいないだろうかと辺りを見渡していると、目の前に幾人かの女子生徒が群がった。
「いた! 貴女ね、入学式早々レイ様と親しげに会話を交わしたっていう女は」
「ふぅん、何よ、どんな女かと思えば、ちょっと美人ってだけでいかにも鈍臭そうな女じゃない」
「いったいレイ様とどのような関係だっていうの? まさかとは思うけど、レイ様の『バディ』相手の枠を狙ってるんじゃないでしょうね!?」
「ちょっと冗談でしょう!? 身の程知らずもいいところだわ! 言っておくけど、レイ様や御三家のお二方は、あなたのようないかにも平凡そうな庶民が気安く話しかけられるようなお立場じゃありませんから。調子に乗って浮かれた顔しないよう注意することね!」
「は、はあ……」
(う、うわあ……)
四方八方から飛んでくる苦情に、げんなりした顔で引き攣り笑いをこぼすエマ。
勘弁してほしい。目立たないように過ごそうと思っていたのに、すでにもう一部では噂の的となっていたようだ。怖い顔をした先輩らしき女性たちに、なんだかよくわからない言いがかりをつけられている。
「え、えーっと……別に知り合いというわけではないっていうか、むしろ全然関わりたいとは思っていないっていうか。ましてや浮かれてるわけでも……」
「――はい、静粛に! この後、バディ制度の説明と魔力測定ですよ! 新入生はこちらに!」
こんなところで揉め事を起こしてさらに注目を浴びるわけにもいかないため、エマが適当な釈明をしてその場を逃れようとしたところ、誘導の声に遮られた。
教師用の白い外套を纏った女性が、テキパキと新入生たちの移動を促している。
「ふん、まあいいわ。ここは貴女みたいな魔力オーラのうっすい人間が来るような場所じゃないってこと、この次の魔力判定で見せつけてあげる。実力を知ったら卒業まで大人しくしておくことね。さ、いきましょ」
捨て台詞のような言葉を残し、その場を立ち去っていく女子生徒集団。まるでエレーナみたいな険悪さだな、なんて思っていると、遠くで見ていたらしい本物のエレーナと目が合った。きっと、彼女の元にも、エマがレイと会話をした旨の噂が届いていたのだろう。『ざまあないわね』とでも言いたげな顔で冷笑された。
しかしその場は会話を交わすことなく、エレーナは教師の誘導に従ってその場を無言で去っていく。
(はあ……災難だわ……)
この後、自身にとってカレッジ生活最初の試練ともいえる災難が降りかかるとも知らず、エマは指定された魔力測定室へ向かった。




