第7話 『杜野空』
戦い終わって、暫しの休息。
日常回です。
第7話 『杜野空』
依頼を受け3人でやって来た草原で初めてオズさんはモンスターを倒した。
「ふう~」
大きく息を吐くオズさん。ゲームとは言え感覚がリアルに近いフルダイブ式VRMMOの『NLF』ではモンスターを倒した手の感覚も生々しい。この感覚が嫌で実はやめた人も少なからず居る程だ。
「大丈夫ですか?」
「VRとは云えこの感覚は少し堪えますね」
力んだ自分の手を見てオズさんはブルブルと頭を振った。その瞬間ガサガサと云う音とアモアラビットの奇声が僕達の背中を這う。
僕もオズさんも完全に意識が離れてた。
咄嗟に2人が振り向いた其処には、ハルさんに寄って真っ二つにされたアモアラビットが宙を飛んでいた。
「・・・・・・」
チン!
腰は曲がったままだが、後ろ手に納刀する所作が美しいと見惚れた。
「2人共、油断し過ぎよ」
「う、うん・・・」
「すみません」
何か呆気に取られたが、その後は僕とオズさんで頑張ってアモアラビットを狩って、帰りの森の中でもアモアボア等を倒してその日の依頼は終了した。
☆
「お祖母ちゃん、初めてのVRゲームはどうだった?」
夜、ログアウト後今日の感想を聞こうと電話をしたら、とても楽しそうにお祖母ちゃんが感想を話してくれた。
「でも、本当に現実にそっくりなのね、お婆ちゃん感動しちゃった」
草原で涙していたお婆ちゃんを思い出し、少し切なくなる。
「フルダイブ型は世界初だからね、僕も最初は驚いたよ」
「でも、一つだけ残念な事があるの」
残念な事とは何だろう?全く思いつかない。
「私。てっきりあのぷよぷよした青いスライムが出て来ると思ってたの」
「あ~」
大昔、某有名RPGで有名になったスライムの事を言っているんだろう。
「あのね、お祖母ちゃん。『NLF』のスライムは西洋風であんな可愛い物じゃないんだよ」
濁った汚水の様なゲル状で、どちらかと言えば気持ち悪い、そして結構嫌らしい敵なのだ。そして、デカイ。
洞窟やダンジョンで突然天井から降ってくる。捕食するとHPと一緒に装備品を腐食させる。そして腕力が無いと中々脱出出来ないときている。
『NLF』のスライムは現在開放されている第一異界の中でも第七階層にしか出てこない。初見殺しの敵として有名なのだ。
スライムの説明を受けて落胆しているお祖母ちゃんに、気を落さない様に言って電話を切った。
「これで、ゲームをやめるなんて言わないよな」
少し怖くなったが、そんな考えは忘れて就寝までの少しの時間だけでも進めようと作りかけのプラモデルと工具を取り出すのだった。
☆
翌日、初めてのフルダイブ式のゲームで疲れてるだろうと今日は休息日とした。僕も学校が休みなので商店街まで買い物だ。勿論帰ったらソロでログインの予定だが。
カランカラン。
ドアに吊るされた鐘が客の到来を告げ、奥から店員の声が掛かる。
「いらっしゃいませ!」
僕だと分かっていれば絶対に向けられない、元気な営業スマイルと弾んだ声が店内に響く。
「あれ?今日は店番なんだ」
僕だと気が付くと、後ろで束ねた髪を揺らし、表情を綻ばせ軟らかく微笑む。
「コウちゃん!いらっしゃい♪」
「おう」
此処は昔からあるおもちゃ屋さんで、お爺さんの趣味が全開でプラモデルが充実している幼少からの行き付けのお店だ。
そして、珍しく店番をしている女の子は僕の幼馴染となる。
杜野空杜野模型店の自称看板娘だ。
「今日は何?昨日入荷したガレキでも買いに来たの?」
今は『NLF』が忙しい。正直プラモデル制作と勉強が有るのでこれ以上は難しい。そして、僕はガレキを作らない。
「いや、今は『NLF』で手一杯だから・・・」
幾つかの塗料と久しぶりに再販されたプラモデルを1つ確保してレジに向かう。
「『ニュー・ライフ・ファンタジー』か~、コウちゃんは受かったから良いけど私は落ちちゃったしな~」
カウンターに体を投げ出してガックリと項垂れる。
「直ぐに製品版が配信されるさ」
ポンと項垂れた頭の上にプラモデルの箱を載せて、会計を急かす。
「ヘルメットが手に入らないんじゃん。それに、あのヘルメットって怖く無いの?」
ヘルメット。世界初のフルダイブマシン『ガイア』の事だ。
「今の所問題は無いな。まぁ、時間制限が無くなったら問題が出て来るかもだけど」
「そうなの!?」
レジ袋に商品を入れていた手が止まり、身を乗り出して不安そうな表情をする。
「まぁな、強制的に睡眠状態にして脳に電気信号流し続けてる訳だからな、最悪植物人間だよ」
空は僕の冗談を聞いて身震いするのだった。
(いや、冗談だよ)
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