第34話 『独白』
最期の刺客が遂に!?
32、33話を少し書き直しました。
第34話 『独白』
2年前に亡くなった祖父の言葉が今でも鮮明に思い出される。
「もう、そんな時代では無い事は分かっていた。それでもわしは幼いお前を忍びとして育ててしまった・・・わしに出来るのはその程度でっ?!」
ゴホ、ゴホッ!
咳き込む師でもある祖父の背中を擦り、水をゆっくりと飲ませる。
修行の日々は確かに大変だった。普通の学校に通いながらだったが、それも最低限で学校意外で友達と遊ぶ時間も無く、生傷も絶えず、気絶して朝を迎えた日も少なくなかった。
それでも、師の、祖父の優しさや気遣い、暖かさを感じていたのも事実で、私はそんな日々を悪いとは感じていなかった。
「・・・あの日、里を抜けたいと言った奴をそのまま行かせていれば」
「長・・・」
「一方の幸せを許してやれていればと思わぬ事は無かった」
「しかし、その者は父と母を・・・」
「いや、殺してはおらん・・・」
「え!?」
私は驚いた。3年前、父と母は突然居なくなり、帰って来た時には既に亡くなっていたのだ。その当時、それが例の抜け忍の仕業だと聞かされていたのだ。それなのに・・・。
「全ての刺客を殺す事無く生かして帰したのだ。忍びとしての復帰は出来なかったが、普通の暮らしは出来る程度に手を抜いてな」
「そんな、では父と母は!?」
「不幸な事故だった。2人も其々腕と足を傷付けられてはいたが命に別状は無かった。任務失敗の報告の後この家に戻って来る筈だった、だが不幸にもその帰りに事故に有ったのだ。確かに怪我をしていなければ助かったのかも知れん。だがそれは言っても仕方の無い事だ」
「ではお父さん達は・・・」
「そうだ、2人は奴に殺された訳ではない・・・わしが、わしが殺した様な物なのだ・・・」
多くの皺を刻んだ左手で顔を覆い、体を震わせている祖父。
「そんな・・・」
「あの頃は、わしもおかしくなっていたのだ。奴を恨む事しか出来なかった。だが、もう良い。お前まで失う訳にはいかない。そんな事をすればワシはあの2人になんと詫びれば・・・」
手を退け、私を見た祖父の顔はまるで全てを諦めた様な顔をしていた。少なくともその時の私は、そう感じてしまったのだ。
「もう終わりにしよう・・・。里の無念も、後悔も全て私が持って行く。お前は、お前達はわしの事など忘れて自由に生きなさい」
「しかし!?」
ずっと聞かされていた、祖父の無念と恨み。それは未だにもやもやと祖父を蝕んでいる。私はその時は本当にそう感じていた。死の間際まで祖父の尊厳を蝕んでいた心残りだと。
「ゴフッ、ゴフッ・・・あぁ紫苑、わしは、わしは楽しかったのだ。お前には辛いだけだっただろうが、孫との修行の日々が楽しかった。そしてわしが居なくても生きていける様にと・・・紫苑、お前だけは・・・」
あの時、師は何と言おうとしたのだろう?
祖父の死後、伯父さんの家の養子となり、普通の生活に戻った私だったが鍛錬は続けていた。
祖父の葬式の折、集った昔の知り合いと言う人達の1人が微笑んで言った「これで、長もあの人を許せるわね」と云う言葉の意味が分からなかった。
そして、その抜け忍の話は誰からも二度と出てこなかったが、最後に優しく微笑んだ祖父の、師のなんとも言えない表情が私の中に深く刻まれていた。
そして、月日は流れ私は15歳になった。
日々鍛錬ばかりしている私に新しい父が、私の身体能力を存分に発揮出来ると変なヘルメットを持って来た。
それは学校の男子が話していた最新のゲーム機『ガイア』だった。
簡単に言えば夢の中で遊ぶゲームで、まるで本物の様に体験出来るらしい。
正直ゲームに興味は無かった、これまで兄妹や家族とやったゲームも其処まで楽しいと感じなかったのだ。
そんな私が『NLF』を始めて、遊んだ時心が踊った。まさに異世界に来た気分だった。
そこでは、忍びとしての力を振るっても気味悪がられる事が無かったのだ。
私は自分の力を隠す事無く技を使える事が嬉しく、祖父から受け継いだその力を認めてくれる世界が楽しかったのだ。
ただ、それでも私は勝手に他人と一線を引いていた。
誘われればパーティも組んだし、それなりに親しいフレンドも出来たが決まったパーティには入らなかった。
そんな私が1人、まだ来たばかりの第三異界の第一階層でピンチに会っていた。
たかがゲームと侮っていた、自分の身体能力を遺憾無く発揮出来るのなら、こんな遊びぐらい一人でクリア出来ると。
がだ、その考えは甘かった。人外の化物を相手にした生死を掛けた戦いに私の技や身体能力だけでは事足りず、私はそれがゲームで有る事も忘れ怯えたのだ。
そして、もうダメだと思った時私は1人の少女に助けられた。その少女はたった1人で私が敵わなかった怪物を倒し、微笑みながら私に手を差し伸べてきたのだ。
「大丈夫だった?」
私はその時涙を流していたのだろう。ゲームと分かっていても命の危機に怯えてしまい、動けなかった自分を恥じた。
そして、目の前で手を出したまま困っている少女に、私は何か親近感の様な物を感じていた。
私を落ち着かせようと、色々話をしてくれているとその少女はパーティ強化の為に、新戦力を捜しているとも話していたので私は、自分を売り込んだ。
戦闘スタイルはその女性と被るがそんなのはどうでも良い、私はその人に付いて、色々と教えて欲しいと、そしてその人の事を知りたい思ったのだ。
私を助けた時の美しい動きに私は、魅了されたから。そして、自分もあんな風に戦いたいと。
そして、私はその少女の参加しているパーティ【春雷】に参加して、その少女ハルさんを自然に師匠と呼ぶ様になっていた。
パーティの皆はとても仲良く、師匠の親族らしいリーダーのシンさんやオズさんを始め、皆さん良く訓練されたプレイヤーさんだった。ただ、その中でもハルさんの動きは別格で、ハルさんの事を忍者と呼んでいる人達がいると聞いた時は納得し嬉しくなった。
ただ個人の動きがどんなに良くてもパーティとしてはまだまだらしく、偶にシンさんに注意を受けているのが少し腹だたしくも有り、面白くも有った。
そして、他のクランからの依頼で【春雷】は現状最も難しい敵の1つと戦う事になった。パーティの人数制限と戦力バランスから私が外されたのは、正直残念で少し悔しかったが、皆が無事攻略した時は本当に自分の事の様に嬉しかった。
そう、私は本当に憂いしかったのだ。だが、そんな楽しい時間は直ぐに終ってしまった。
依頼を成功させ、この世界を分断していた壁が取り払われ、新しい世界が広がったその後シンさんがクランを作り、私達がゲームの中だけでも家族となったその日、再び私はその新しい家族を亡くしたのだ。
あのカリュオーンとの戦いで見せたハルさんの動き、そして最後に見せた技『桜花稜嵐』あれは間違いない、間違え様が無い、あの技は祖父が教えてくれた、抜け忍が得意としていた技の1つ。
そう、気が付いてしまった。いや、最初から気が付いていたのかもしれない。ただ、認めたくなくて気が付かない振りをしていた。始めて会ったあの日、自分より遥かに洗練された忍びの動きを見た時から、予感は有ったのだと思う。
まさか、半身不随になってるとは思わなかった。それも3年前・・・それは私の父と母が亡くなった頃。
きっと2人との戦いで負った傷か何かが原因なのだろう。
「師匠・・・貴方が春香なんですね」
祖父が治める忍びの里が滅びる原因となった抜け忍。
「里は無くなりました。祖父・・・長も死に、両親も貴方との戦いの後亡くなりました」
目の前で眠る師匠への独白。
「私が、最後の刺客です」
自分の身勝手は分かっている。誰も其れを望まず、誰も幸せにならない行為。
それでも自分に、自分の中に残る何かにけじめを付けられるのかもしれない。祖父が亡くなった時から私の中に暗く、蝕むそれが一体何なのか分かるかもしれない。そんな自分でも良く分からない理由で私はここに立って、今剣を振り下ろそうとしている。
「ごめんなさい・・・」
私は何故かそんな言葉を漏らして、涙を流して刀を振り下ろした。
最後まで読んでくれてありがとうございます。
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