第32話 『カリュオーン戦の顛末』
カリュオーン戦、決着!
そして、お話は思わぬ方向に?
第32話 『カリュオーン戦の顛末』
少し町から離れてるが、商業地区からは近く、値段の割りに外観も内装も良い。個室は24室と少し多い見た目2階建ての丸太小屋、コテージ風の家だ。
部屋数はそんなに多く無くて良いのだが、今の所丁度良い広さの物件は見付かっていない。
一階は24人が座れるダイニングルームとキッチン、リビングに地下倉庫まで有る。更に個室が6つ。二階に18室と小さなリビング、物置そして、広いベランダも有った。
そして、最大の特徴が庭に生えている木で、その木の中に数本果物の生る木が生えている事だった。
クウとタダカツさんはもっと広い方が良いと言い、ココとオズさんはもう少し小さい方が良さそうで、ツバメとハルさんは気に入ってるみたいだった。
この後も数件見て回ったが、結局リーダー権限で此処に決める事にした。
少し予算をオーバーしていたが、全員の了承を得て前回のジーク達との勝負で貰った賞金を早速使う事にした。
「賞金を多めに貰えて助かったわね」
「そうですね~」
この家を気に入っていたハルさんと、特にツバメは嬉しそうでにこにこしている。
イベントの賞金は本当はもっと少なかったのだが、僕がジークとソニアに【何でも頼み事を出来る券】を断ったのでその分賞金が上乗せされ、大変な金額になったのだ。
いや、実は【何でも頼み事を出来る券】で有る事を頼もうとしたのだが、無理だと云われたので断ったのだ。
最後まで2人はぶ~垂れていたけど・・・。
全て合わせて1000万G。
振り込まれた金額の多さに流石に遠慮したが、それは実に不服そうに断られた。
不動産のNPCにお金を振り込んで、小さな木札を受け取る。
この木札にクランの文様と名前を刻み、玄関に飾る事でホームの受領が完了するのだ。
「で、どんな文様にするの?」
「どんなのが私達にふさわしいですかネ~?」
クウとタダカツさんが僕の手元を覗き込んで、色々アイデアを出してくれるが文様は既に決めていた。
2つの重なった桜の花を模した文様。これが僕ら【春雷】の文様だ。
「ところでクランの名前はどうする?」
僕の問いにハルさん、ココ、ツバメ、オスさんがキョトンとしている。
「あら、【春雷】じゃないの?」
ハルさんは首を傾げて訊ねた。
「ハルさん、それはパーティ名だよ」
クウの説明で納得してくれたが、特にアイデアは無い様だ。
「そのままクラン名にしても良いんじゃないですか?」
ツバメはそんな事を言っているが、クラン【春雷】の【春雷】ってパーティ名を名乗る事になって、ややこしい事になりそうな気もするが、他にアイデアも無かったので2人の意見を採用する事にした。
本来、このクランの代表もパーティのリーダーもハルさんにやって貰うつもりだったのだ。其れを済し崩し的に全て僕がやる事になったので、クラン名ぐらい付けて欲しかったと云うのもあるのだが。
まぁ、後でも変更は出来るしね。
ギルドホームの登録画面に名前を入力すると木札にクラン名【春雷】が刻まれ、入り口上に張り付くと其のまま大きくなって、ホームのプラカードとなった。
その後クランメンバー表に7人の名前も記入して、遂に僕達はクランホームを手に入れたのだ。
「さぁ、これで此処が僕達の家だよ」
「おおー!スイートホームですネ!」
「家か・・・」
「じゃあ、私達はファミリーですネ~」
「ファ、ファミリー!?」
「イエ~ス!可愛い息子や娘が増えて嬉しいデ~ス」
「おい、お前には孫が居るだろ!」
「向こうはフロリダなので、なかなか会え無くて寂しいのですヨ~」
「あの、お孫さんも『NLF』にお誘いしては?」
「ミリィはまだ、1歳なので今のままでは14年は無理で~ス。なのでココちゃんもツバメちゃんも僕の娘になってくださ~イ」
泣きながら、手を取られお願いされ戸惑う2人をオズさんが助け出した。
よよよよ~と地面に手を付き、項垂れるタダカツさんを置いてオズさんはココとツバメを促し、ハルさんの手を取ってエスコートしてホームに入っていく。
僕達も中に入るとダイニングにも外と同じプラカードが飾ってあり、そんな【春雷】の名前が刻まれたプラカードをツバメが見上げていた。
「どうしたのツバメちゃん?」
「いえ、なんだか」
ハルさんが訊ねると、何か思いに耽った顔をしたツバメの目に涙が浮かんでいた。
「ツバメちゃん?」
ココが不安げにツバメを見てる。
「どうかしたのかツバメ?」
僕も不安になって顔を覗き込む。
「ううん、なんだか嬉しくて・・・」
「嬉しい?」
「皆さんに家族だって言って貰えたのが凄く嬉しかったみたいです。私・・・」
其処まで言って、ツバメは口を噤んだ。
口にしたからだろうか、それとも自分でも自覚していなかった何かに気が付いたのか、ツバメはポロポロと涙を流した。
そんなツバメをハルさんがぎゅっと抱きしめる。
「私もツバメちゃんと家族になれて嬉しいわ」
優しく囁くハルさんの声にツバメは涙を流しながら小さく、「はい」とだけ答えた。
「私もファミリーになれて嬉しいヨ~!」
バッと手を広げ、ツバメに抱き着こうとしたタダカツさんはクウとココに押し退けらた。
「私もツバメちゃん見たいな妹が出来て嬉しいー!」
「私もです~!」
2人に抱き付かれ、慌てたツバメが2人から逃れ様とするが離して貰えず。暫くわいわいと楽しそうに燥いでいた。
ツバメが落ち着くのを待って部屋割りだけして、運営から届いた動画を見る為にリビングに集まった。
世界を隔てる壁を取り除く、イベント。運営からはワールドイベントと解説されたイベントで僕達がカリュオーンと戦った映像ログ。
最初こそ何時も通りに進んでいたが、途中からは今までと違う攻撃パターンで驚き内心焦ったものだ。
皆でわいわいと、話ながら映像は流れていく。参加出来なかったツバメも興味津々で、特に師匠と呼ぶハルさんの動き1つ1つに感銘と感嘆の言葉を漏らしていた。
そんな2人は手を繋ぎ、寄り添っている。まるで母親と甘える子供の様な雰囲気だが、見た目は小さな姉妹だ。
そして、終盤、空を飛ぶカリュオーンの上でハルさんが軽業師の様に攻撃を躱しながら、翼にダメージを与えていた。
「凄い・・・」
ツバメの素直な感想に皆が同意する。
クウさんとタダカツさんのはしゃぎ様は子供の様だ。
画面の中、ボロボロになった翼は遂に浮力を失い、ぐらりとカリュオーンの体勢が崩れ重力に抗えなくなった。
ー・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-
「グランド・ランス!」
本来は地面から岩の槍を突き出し、相手にダメージを与える魔法だが、落下地点に先に発生させれば強力な罠にもなる。
だが、僕は魔力を使い切った所為で尻餅をついて倒れてしまった。HPも残り僅か、これで終わりにして欲しい。
「シンちゃん!?」
「シン!?」
「先輩!?」
ハルさんはカリュオーンの体から離れ、グランド・ランスの1本に飛び移ると目の端で僕を見た。
ダメージと魔力欠乏で倒れた僕をクウが起こしてくれる。碌に動けない状態だったが大丈夫と伝える為に親指を立てた。
其れを見て安心したハルさんは頷いてカリュオーンを睨み付けると、地面に叩き付けられる瞬間に狙いを定め飛び込んだ。
岩の槍が刺さり、叫び声を上げ、身動きの出来ない今が最後のチャンスだろう。オズさんやタダカツさんも加勢する為に近寄り、ココも既に最後の力で属性攻撃をしている。
その時、カリュオーンが動いた。
「グオオオオオォォォォォーーー!」
全員を狙った、雷攻撃!
僕を庇ってクウが覆い被さったが、そんなクウを僕は最後の力で突き飛ばした。
「シン!?」
驚き、泣きそうな顔のクウがスローモーションで離れ、僕は雷に包まれた。
「コウちゃん!?」
「いやっ!?」
「シン殿!?」
「ノン!?」
僕以外は何とか回避した様だが動揺が流れてる。
「よくもシンちゃんを!」
初めて感じるハルさんの怒り。ゲームなのに寒気を感じる程だ。
そして、ハルさんは何か呟き、信じられない動きを見せた。
周囲に乱立するグランド・ランスの岩の槍を足場に飛び跳ね周り、カリュオーンに目にも止まらない連撃を繰り出したのだ。
1撃、1撃が重く鋭い攻撃を与え続けていく。
しかも、その攻撃にスキルまで乗せている。
「パワー・スラッシュ!」「ダブル・スラッシュ」「ライトニング・エッジ!」
そして、最後に暴れるカリュオーンの喉笛に体当たりをする様に刃を突き立てた。
ー・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-
何かを掴もうと伸ばした手とガラガラと鳴っていた尾は崩れ落ち、カリュオーンが動かなくなった所で歓声が上がる。
画面の中、僕に駆け寄るハルさん達。
僕を抱きしめクウが泣いている。
映像で再び見せられると尚恥ずかしい。
隣でクウも真っ赤になって下を向いてしまっている。
「これには驚きました」
「まったくで~ス」
画面の中の僕はぼろぼろになった手で、クウの頭を撫でた。
ー・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-
「!?」
驚いたクウは体を離して、僕を見ている。周りでその様子を見ていた他の皆も一様に驚いた。
「まだ生きてるって」
僕はハルさんから回復薬とMPポーションを貰って回復すると立ち上がって、助かった理由を説明した。
「レア消費アイテム【最後の灯火】。これを装備していると、致死ダメージを貰った時1回だけHP1の状態で助かるんだ」
勿論HPは1なのでその後直ぐに回復をしないと意味がないのだが。今回はMP0での行動制限も有って本当に危なかった。追撃が有ったらそこで終ってたが、ハルさんがカリュオーンを倒してくれて助かったのだ。
「せんぱ~い!」
感極まり思わず抱き付くココを皮切りに皆が抱き付いてきて、揉みくちゃにされたのだった。
ー・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-
そんな恥ずかしい場面をもう一度見させられ、気まずくなっている僕達を余所に、画面の中キラキラと粒子となって消えていくカリュオーンを見てか、ツバメは驚愕していた。何も言葉にならず、何故か青ざめている様に見える。
「ツバメ?」
僕の言葉も聞こえていない様だ。
「ツバメ、大丈夫?」
僕に肩を掴まれている事にも気が付かない。
「どうしたのツバメちゃん?」
ゆっくりと俯いたツバメは、大丈夫ですとだけ言って、ログアウトすると暫く休みますとだけメールを残してこのゲームから姿を消したのだった。
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