第3話 『春香お婆ちゃん』
御築きだとは思いますが、視点は康太です。
お婆ちゃんではないのですよ。
でも、今回はお婆ちゃんですw
第3話 『春香お婆ちゃん』
私にはこれまで人に言える様な趣味が無かった。
若い頃は修行の日々で遊ぶ時間も遊ぼうという考えも無かった。修行が終れば仕事が待っていた。今振り返ればとても人には言えない仕事と鍛錬の毎日だった。それは別に苦では無かった、一緒に切磋琢磨する仲間は居たし、自分の命を守る為のルーチンワークでそれを怠れば自分が死ぬだけだった。
「それも良いかな・・・」
そんな事を考え出した頃にあの人と出合った。
あの人はただのターゲットだった。何時もと同じ、ただ命を刈り取る簡単な作業・・・その筈だった。
それが約40年前、何の因果か運命か2人は恋に落ち今に至る。
3人の子供に5人の孫に恵まれた。
そして、私は3年前に事故に遭った。意識が回復した時には下半身と左腕が動かなくなっていた。最初は落ち込んだがこの40年と其れまでの人生を考えるとこれも報いかと納得した。ただ家族に迷惑を掛けるのが心配だったがあの人がこの病院を見つけて全て手配してくれた。入院費を稼ぐ為か週に1回しか会えないのが寂しいと言えば寂しいが、映像回線で毎日会話しているし、子供も見舞いに来てくれる。孫も学校や仕事で忙しいのに来てくれる。その内の1人は頻繁にこの病室にやって来てくれた。
こんなお祖母ちゃんを好いてくれている、気に掛けてくれている、優しい子なのだ。家で介護せず病院に預けている事にも反発していたらしい。
ゲームばかりしている内気な子で、少し気弱な所も有ったが優しい子なのだと涙が出る。
その孫が今日もやって来た。ただいつもと違って大きな荷物を持っている。
「コウちゃん、それはなに?」
私は左手で手元のコントローラーを操作してベッドを椅子に変形させる。目の前のモニターを横に避け、テーブルも用意した。
3年のリハビリのお蔭で左腕は動く様にはなったが余り力は入らない。5歳児にも負けるだろう。
コウちゃんは大きな箱と小さな箱を袋から取り出すと箱を開けた。
桜色のヘルメット?そして小さなメモリーチップだ。
「お祖母ちゃん、これで僕と一緒に冒険に行こう!」
テーブルに置かれた桜色のヘルメットには既に私の名前が明記されていた。
「冒険って?それに私はこの体だし・・・」
「それは大丈夫!騙されたと思って、ねっ!?」
孫の懇願する様な縋り付く様な瞳に祖母が抗える筈が無い。
「・・・分ったわ、でもお祖母ちゃんゲームなんて殆どやった事無いわよ」
「それは大丈夫!」
そういうとコウちゃんはゲームの準備をしてヘルメットを私に被せてくれた。
「キャラメイクが終ったら最初の街の噴水の前に出るから、そこで合流だから。『シン』って魔法使いに話しかけて、それが僕だから」
「じゃあ始めるよ。ちゃんと説明書読んで自分の分身を作ってね」
そうコウちゃんが言うとヘルメット横のスイッチを入れた瞬間私はスッと眠りに落ちた。
「ここは・・・」
私の意識が戻るとそこには大きなモニターが有った。周りも現実とは程遠い様子だ。そして、そのモニターには『ニュー・ライフ・ファンタジー』と書かれてる。
『ニュー・ライフ・ファンタジーの世界にようこそ♪』
何処からか小さな妖精が現れ飛び回り、説明を始めるとキャラメイクが始まった。
「自分の分身ねぇ・・・」
☆
そして。キャラメイクの終ったお祖母ちゃんが現れた、正にお祖母ちゃんの姿そのままに。
「なっ、ちょっと!?」
「どうだい?似てるだろ」
まさにリアルのお祖母ちゃんそのものの姿がそこに有った、名前もそのままだ。
「ダメだよお祖母ちゃん!?ログアウトして、やり直し!やり直し!」
現実に戻って来たお祖母ちゃんに説明して再度ゲーム開始。NLFはゲームを開始したら3時間インとアウトが出来るが3時間が経つと1時間の休息時間が設けられている。これはプレイヤーの安全を守り、依存を防ぐ為だ。つまり時間が無い。
今度は昔の姿を参考にしてもらい、名前も偽名にする様にアドバイスした。
「昔の愛称とかで良いからね」
釘を刺されたお祖母ちゃんは、分ったわと再びログインした。
「コウちゃん」
そこには15歳くらいの女の子が居た。名前を見れば『ハル』となっている。
「もしかして、お祖母ちゃん?」
「どうかしら?コウちゃんの言う通りにしたのだけど、流石に恥ずかしいわ」
頬に手を当てて、恥ずかしがる仕草は確かにお祖母ちゃんだ。
「全然恥ずかしく無いよ!かわいいよ!」
「あらあら孫にかわいいだなんて」
「そりゃ孫だけど、この見た目なら・・・」
「あら?この姿も年上よ」
「え!?」
「二十歳の頃を思い出して作ったのよ」
驚いた、確かにお祖母ちゃんは小柄だけど、どう見ても同年・・・代・・・いや年下だ。
「お祖母ちゃん、可愛かったんだね」
敢えて『小さい』と云う言葉を使わなかったお蔭で、お祖母ちゃんは両手で顔を隠して照れてしまった。
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