第2話 『ベータテスト』
第2話 『ベータテスト』
第7階層のボスモンスター、『四王鬼』を倒し、アイテムを回収した僕達は帰路に付く。
「じゃあ、帰りましょうか」
お祖母ちゃんこと、ハルさんが宝箱を閉じて立ち上がった瞬間、戦闘終了時に開いた筈の部屋の鍵が閉まった。
そして、前を歩いている筈のハルさんがゆっくりと下がってくる。
「あらあら?」
「ハルさん!?」
『良くぞここまで辿り着いた、虫けら共よ・・・』
倒した筈の四王鬼のセリフがまた流れる。
「あらあら、これって」
「バグ、だな」
「マジ・・・」
初見で倒したとはいえ大変だった。HP回復薬とMP回復薬を使いまくってのごり押しだった(だから時間は速かったけど)。其れを補充する間も無くもう1戦、悪夢だ。
「まぁ、まぁ、2回目なんだからさっきより簡単でしょ?」
そう言ったハルさんは小刀を抜くと、棍棒を振り上げる四王鬼に向かって走り出した。
当たり判定が数ミリずれた棍棒を余裕で避けて、懐に入って一撃。反撃の一閃を残像を残して躱すと左手首を切りつけた。
因みにこの残像もバグなのだが、動きが速過ぎて他の人が真似出来ないので修正が後回しとなっているらしい。
ハルさんが後ろに回るとオズさんが空かさず間合いに入り攻撃をしてヘイトを稼いだ。
僕も2人に防御と攻撃力を上げる付与魔法を掛けてメイスを構えた。
もしもの時の分のMPを残す事を考えるとこれ以上攻撃魔法は使えない。ならばヘイトの隙を付いて攻撃するしかやる事がないのだ。
僕もそれなりに名の通ったプレイヤーだ、魔法無しでの攻撃方法も用意はしている。しかし、このゲームでそれ以上に物をいうのが本人の身体能力と現実での経験値だ。
僕やオズさんはゲーマーとしての経験値で闘っている。しかしハルさんは違う。
ハルさんは逆に身体能力だけで戦ってるのだ。そう、先程から見せているアクロバットな動きも、必殺技の様な剣技も全て明確なイメージから来ている動きなのだ。ハルさんが狩人ではなく、忍者と呼ばれる所以である。
オズとお祖母ちゃんが『NLF』を始めてから一ヶ月、【春雷】はたった3人のパーティながら異界のボスを倒したのだ。
辛うじて倒した四王鬼から再度報酬を受け取って、今度は宝箱の蓋を閉めずに部屋を後にした。
当然この事はメーカーに報告。後日の返答で報酬はそのまま使っていい事になった旨を伝えられた。
「良かったわね、コウちゃん」
今は個人チャット、他の人に聞かれる心配はない通話だ。
「そうだね、今度報酬をちゃんと分配しないとね」
「それは任せるわ、お祖母ちゃん欲しいアイテムとか無かったし」
「欲が無いな~お祖母ちゃんは」
「だって、あのトゲトゲ棍棒と虎のパンツでしょ」
クスクスと笑うお祖母ちゃんだが、確かにあの2つは僕も要らない。
「鬼の腕輪が有るよ。前衛なんだから筋力UP、これ大事」
「お祖母ちゃん力持ちのムキムキは嫌だわ・・・」
お祖母ちゃんは筋肉マッチョは苦手らしい。まぁ、お祖父ちゃんを見れば分る話だ。
「見た目は変わらないって」
「でもこれでここの階は制覇しちゃったのね」
寂しそうに笑うお祖母ちゃんに少し心が疼く。
「ベータ版は第一異界だけだからね。でもまだ行ってないエリアも有るし今後はゆっくり周ろうよ」
『NLF』の階層は広い。第7階層のボスを倒したが、まだまだ行ってないエリアは多い。もう階層ボスの様な強敵は居ないけど、まだまだ楽しめる世界だ。
「そうそう明日お母さんがお見舞いに行くって」
「分ったわ、桜子に御裾分けのお菓子を持って来る様に言っておいてね」
「分った、じゃあログアウトするね」
「ログアウトは、右上のメニューを押して、出てきたメニューの一番下だからね」
「もう、覚えましたよ」
えい!っと力を入れてメニューを出して確認してる。
そんなに力まなくても良いのだけれど。手に感触の無いパネル操作は慣れないらしい。
「じゃあ、コウちゃんお休みなさい」
「お休み、お祖母ちゃん」
ヘッドギア『ガイア』を外して、一息吐く。
ベッドから体を起こして時計を見れば夜の10時過ぎ、お祖母ちゃんの就寝時間だ。
テスト中の『ガイア』にはプレイ時間が決められている。1日2回、1回に付き3時間。最初は1時間だったが徐々に伸びて3時間となったがこれ以上の延長は今は予定していないらしい。依存や中毒対策らしい。
お祖母ちゃんは既に3年入院している、腰から下が動かないし左手にも余り力が入らないのだ。原因は分っていない、当然治療法も・・・。
お祖父ちゃんは私財を擲ってお祖母ちゃんを最高の病院に入院させてから、仕事が忙しくなったがそれでも週に1回は会いに行っているし、毎日通信で顔を見ながら話しているらしい。というか仕事で少しやつれたお祖父ちゃんをお祖母ちゃんが心配しているくらいだそうだ。
「今は良いけど、正式リリースされたら専門の回復役が欲しいよな~」
ベッドから起き上がると机に向かい、そこに置いてあるタブレットの電源を入れた。
立ち上がったタブレットの画面を見て、僕は1つのファイルに目が止まる。
「あ、宿題・・・」
まだ10時、焦る様な時間じゃない。
「やりますか・・・」
机の上の作りかけのプラモデルに後ろ髪を引かれながらも、タブレットを持ってリビングに向かうのだった。
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