第18話 『新装備』
第18話 『新装備』
翌日、示し合わせてログインするとクウはにこにこだった。
余った素材でハルさんとオズの装備を作ればいいとか思っていたのだが、何故かクウはメイスを2本作っていたのだ。
白にピンクの模様の綺麗な色だが、随分と痛々しいサザエに似た貝をモチーフにしたメイス。後で調べたが『ナカヤスカセン』と云う貝らしい。
「クウ、それ?」
「んふふ~、作ちゃった『シェルメイス』!」
両手に持ったシェルメイスを器用にクルクルと回して、ビシッと構える。
その姿は強そうと云うより、ぴしっとした立ち姿が綺麗だと思って、思い出した。
クウこと杜野空は昔、新体操をやっていたのだ。ただ中学の途中で止めてしまったので、すっかり忘れてた。
「そうだ、1度大会を見に行った後止めたんだよな」
その言葉の意味が分からず、頭に『?』を付けたクウが首を傾げたが、何の事か気が付いたのだろう顔を真っ赤にして、慌てて両手で僕の口を塞いできた。
「無い!違う!忘れなさい!」
何にそんなに慌ててるのかは分からないが、その慌てふためき様に押されて、僕は頷く事しか出来なかった。口も押さえられてるしね。
「本当に?」
コクコク。
「絶対?」
コクコク。
「その、あの時の事覚えてる?」
僕は目を瞑って考えたが、良くは思い出せない。
「もごもごもご・・・」
「きゃっ!?」
口を押さえられたまま喋ったら気持ち悪かったのだろう、咄嗟に手を離して平手打ちされた。酷い。
「いや、本当に大会に応援に行った事と、その後止めた事しか覚えてないな」
僕は左の頬を擦りながら答えるが、クウは恨めしそうな目で睨んでくる。全く酷い仕打ちだ。
「ほらほら、2人共今日は4層のボスを倒しに行くのでしょう?」
「ふむ、仲違いしたままでは勝てる戦も勝てなくなってしまう。何より折角の楽しいゲームが勿体無いではないか」
ハルさんはクウを、オズさんは僕を見て諭す。
「さっきは悪かった。ただ何を気にしてるのかは全く分からない。でも僕が悪かったのなら謝るよ」
僕は少しうろたえているクウを見詰めて、返事が無いのでそのまま頭を下げた。
「ゴメン」
「あっ、その、私こそごめんなさい。その、ビックリしたし恥ずかしかったから・・・」
「恥ずかしい?」
「いや、なんでもない!なんでもないから!」
2回言うって事は、大事な事なんだよと思ったが、黙っていよう。
「分かったよ」
「うん、ありがとう」
目と目が合って何と無く照れてしまう。なので視線を反らしたらハルさんがにこにこしていて、オズさんが生暖かい目をしていた。
「!?」
僕はなんだか恥ずかしくなって居た堪れないのでクウの手を取るとずかずかと歩き出した。
「ごめんね」
「いいよ。お互い様だ」
そして、僕は空が恥ずかしがってる理由を思い出した。でも、その時の事を思い出すと自分も恥ずかしくなるのでこの話はもうしないと誓った。
第一異界、第四階層、始まりの町『ドーガ』。
南エリアに海のエリアが有り、其処にキラークラブが居る岩場に囲まれた浜辺がある。
僕達は南エリアの町『ドロント』に寄ってポータルを登録。そこから街道沿いに南に向かい、海に出ると浜辺を西に向かった。
ポータルに登録したお蔭で、もし失敗してもこの町に戻ってくるし、町から町への移動も出来る様になる。
僕達は登録していたが、クウはまだなのでその為だ。
「綺麗な海ね~」
ハルさんは水際を歩いて、足先に触れる波を楽しんでいる。
「ハル殿が嬉しそうで、良かったですな」
「はい、リアルで海に行くのは大変だから・・・」
AI搭載電動車椅子とは言え、その性能はバリアフリー化された街中での話で、砂浜や岩場では別である。
「そうだよね。歩けないと・・・って、あーーーーーー!?」
突然大声を上げたクウに僕達はモンスターの接近かと身構えた。ハルさんも戻って来て背中合わせになり、周囲警戒。
ざざ~、ざざ~・・・。
だが、潮騒が聞こえるばかりで全く異変が無い。いや、遠くにスパイクシェルが見えるが・・・。
「クウ、どうしたの?」
僕はモンスターではない何か別の問題が起きたのかと心配になって、クウを見た。
何だろう?わなわなと震えて・・・ハルさんを見てる?
「クウ?」
「コウちゃん、春香さんが・・・」
動揺が大きいのか、本名を言ってる。僕も不安になってハルさんを見たが、特に変わりは無い。
「お祖母ちゃんがどうしたの?」
「春香さんが・・・歩いてるーーーっ!」
僕とオズさんはガックリとこけた。
「だって、春香さんだよ!大丈夫なの?」
「うん、大丈夫だから落ち着いて」
今日で4日目。散々ハルさんの戦闘を見てる筈なんだがな~。
「このゲーム、というか『ガイア』は体の動きさえ想像出来ればアバターを動かせるんだよ」
今更この説明をしなければならないとは。ハルさんに付いて何も言って来なかったから最初から理解してるとばかり思ってたのに。
「だって、余りにも自然だったから。それに何時もの姿じゃないし・・・」
そんな風に、あわあわしているクウをハルさんは抱きしめて、安心させる様に優しく囁いだ。
「空ちゃん落ち着いて、私も最初は信じられなかったけどゲームの中だから大丈夫なんですって」
ハルさんの言葉と抱擁であわあわしていたクウは、大人しくなったのでした。
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