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わんこの帰還

 キャロラインから手渡された手紙には、その男の素性と似顔絵、簡単な経歴が書いてあった。


 その男の名は、モーリス・メグレ。高身長で、波打つ黒髪をもつ、見目麗しい男だという。

 メグレ侯爵家の三男で、前皇后に傾倒していた。皇后が崩御されてから公の場にはいっさい出てこなくなった。家族に行方を聞くと、勘当したという。

 消息、生死不明。このたび、キャロラインにより生存が確認された。


「……キャロライン嬢が、これを……」


 求めていた情報を唐突に差し出され、ロアさまが少しばかり混乱している。


「キャロライン嬢からの情報を見るに、モーリス・メグレが毒を開発している可能性があるな」

「すごいじゃん、アリス! アリスのおかげだね!」

「そう言ってくれるとありがたいです。何も役に立ててなかったので……」

「なに言ってるの! キャロラインと仲良くなって情報提供してくれたのも、マリナと知り合って毒のことを教えてくれたのも、トールが毒の成分を突き止めたのも、商人の悪事を知っていたから顔を見ただけですぐに警戒してダイソンの手先だと知れたのも、全部アリスのおかげだよ!」

「そう言われると、活躍している気がしてきますね」


 みんな頷いて肯定してくれる気遣いが嬉しい。


「半分くらいはトールの執念ですけど」

「あの執念をもつトールの手綱さばきは見事ですよ。僕だったらとても出来ません」


 エドガルドはそう言うけど、なかなか愛が重そうなロルフとずっと一緒にいるあたり、エドガルドも負けていないと思う。

 エドガルドは天然だから、気付いていないだけかもしれない。


 ロアさまが兄に連絡をとってくるのを待つ間、軽く支度をしておくことにした。

 早ければ今日、この学校ともお別れだ。

 わたしは一緒に行くかわからないけれど、どっちにしろここでの役目は終わりだ。

 ……このボディスーツ、毎日着たんだけど、返してもいいのかな……。これを返されても、クリスは困るだけかもしれない。


 ほのぼのとした空気でそれぞれが動いていると、ドアが開いてロアさまが出てきた。みんながぴしっと動きを止めて、ロアさまの言葉を待つ。


「兄上から、モーリスを捕まえる許可が出た。みな準備をしてほしい」

「かしこまりました」


 みんなを代表して、アーサーが優雅に答える。


「その前に、あの商人を捕まえて好きにしていいと許可された。五体満足で死なない程度にしてくれ。服従の首輪から出る猛毒を中和する薬が届き次第、奇襲をかけて捕縛する。そのあとは中和剤をちらつかせ、ダイソンの情報を得る駒とする」

「二重スパイですね。あの商人も、自分の命がかかっているとなると、文字通り死にもの狂いで働くでしょう。ああいった輩は、自分の命を何より大事にしますから」

「そうだといいが」


 みんなの目がちょっぴり怖い。あの商人、腕や脚がちょっとえぐれるかもしれないな。

 うーん……まぁ、いいか。えぐれても仕方ないことをしてきたんだし。


「兄上は、中和剤が完成次第届くように手配してくださった。もうすぐ届く。ドアを開ける時は特に気を付けるように」


 ロアさまの言葉を皮切りに、みんなが打ち合わせを始めた。ひとりだけ輪から外れているわたしは、このあいだ断念した串揚げパーティをするべく準備をすることにした。


 まずはみんな大好き牛肉から。牛のいろんなお肉を一口サイズにするのを下ごしらえくんにお願いする。ついでに串もさしてもらうようにすると、あら不思議!

 材料を下ごしらえくんに入れただけで、パン粉までついた串揚げが出てきたではありませんか!


 次は、串揚げの中でもメインといっても過言ではないエビ! 可愛らしいサイズのエビはなかったので、エビフライにしても大きいと思えるサイズのものだ。


 残念ながら紅ショウガはないので、酸味の強いピクルス各種で代用することにした。ピクルスのフライがあると聞いたことがあるし、似たようなものだろう。

 豚ロースと玉ねぎ、チーズ、アスパラガスとズッキーニ。エドガルド用に、蒸して砂糖を入れて甘くして丸めたかぼちゃなども用意した。ホタテ、プチトマト、れんこんもたくさん用意してっと。


 たくさんの野菜やお肉があるから、つい作りすぎてしまったけど、みんな平らげるだろう。

 串を大量にほしいと言った時、クリスにとても怪訝な顔をされたけど、これを食べて串揚げのおいしさをわかってくれたら嬉しいな。


「デザートには口直しのさっぱりフルーツを下ごしらえくんに切ってもらって……うーん、シャーベットとかも用意したほうがいいかな。アーサー様は絶対にほしがるよね」


 調理器くんに、シャーベットやソルベ、エドガルド用のシュークリームなどを作ってもらう。

 あとは揚げるだけというところまで仕上げてから談話室を覗くと、みんなが緊張してドアを見ていた。

 

 わたしに気付いたレネにジェスチャーされ、そろそろとキッチンへ戻る。

 自分の息遣いが聞こえるんじゃないかと不安になる中、ドアが静かに開いた。


「シーロ……!」


 ロアさまの声に、我慢できずにこっそりと覗く。

 そこには、元気な様子のシーロと、フードをかぶった人がいた。



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