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執念と熱意と炎

「朗報だ。学校には、他にダイソンに手先がいないと断言できるようになった」


 ロアさまがみんなを談話室に集めての第一声は、吉報だった。

 告げるロアさまの顔は明るく、晴れ晴れとしている。

 あの商人が来てから、見張り役と、服従の首輪をしている人がいないかの確認、わたしの護衛、最近は毒に関することも加わり、割とフル稼働だった。

 みんなも嬉しそうな顔をして、おめでたいムードだ。


「服従の首輪をつけているのは、あの商人ひとりだ。あのダイソンがなんの保険もなく、手下をどこかへ潜り込ませることはないだろう。もちろん油断は禁物だ。これからも確認していく必要がある。だが今は、毒のことを優先していく」

「ダイソンが学校に手を付けていないこともわかりました。マリナ嬢を狙ったのは、ひとりでいることも多いからでしょうが、ハーブを研究しているからだと推測します」


 アーサーの力強い声に頷く。

 ハーブなどで毒殺しようとしている可能性が出てきた今となっては、マリナはあまりに危うい存在だった。


「あのダイソンが、この研究をしているマリナ嬢を見逃すはずがありません。この状況でマリナ嬢を狙ったことといい、あの商人が学校におけるダイソンの第一の手先と考えて間違いないでしょう」


 アーサーが一歩下がり、レネが前へ出る。


「今日、商品を受け取ってきたよ。商人から探りを入れられた。どこのお嬢様だ、どこに持っていくかって。エドガルドとロルフと行ったけど、3人じゃ持ちきれない量だったからね。一緒に運んで、アリスがどこの貴族か知ろうとしたんだと思う。断ったけど……それを聞いて引くかと思いきや意見を曲げなかった。気弱な人だったら、口車に乗っちゃうかも」

「俺にも商売気を出してきた。お似合いの小物がある、レディへの贈り物にいいってね。気になるふりをして聞いてきたけど、あれは商会で扱ってる正規の品だった」


 声にわずかな嫌悪感をにじませたロルフは、肩をすくめた。


「最低限、不審に思われないように対策してるってことだ」


 次はクリスの番だった。

 軽く頭を下げ、報告していく。


「商人がようやく人と接触しました。こちらが大量に注文したので、手持ちの在庫では足りなくなったのでしょう。商人と接触した使用人を追跡した結果、とある貴族の屋敷へ入っていきました」


 空気がぴりりと痛くなる。

 クリスが言った貴族の名前は、あまり目立たない伯爵家だった。ノルチェフ家とは関わりがなく、パーティで会った時に挨拶する程度の間柄だ。


「……そこが繋がっていたか」


 真剣な顔でたっぷりと考えたロアさまは、腕を組んだ指を、トントンとゆっくり動かした。


「……兄上に連絡し、そちらから人を回してもらおう。潜り込めるかはわからないが……そこは兄上の判断にお任せする。ほかに報告は?」


 最後にエドガルドが進み出た。


「最後に呼び止められ、アリスのことを聞かれました。身分を探るものではなく、体調の変化を知るための問いでした。風邪を引きやすい季節だからと言っていましたが、アリスが商品を使い、どう変化しているかを知りたかったのでしょう」

「どう答えた?」

「知る必要はないと答えました。それをどう捉えたかは知りませんが、商品はいつでも用意できると言われたので、ダイソンから何か聞いているのかもしれません」

「わかった。みな、報告に感謝する。この調子でいこう」


 情報共有のためにわたしもここにいるけれど、報告することがないあたり、あまりに役立っていない感がすごい。

 ちょっとしょんぼりしつつ、進展したことのお祝いに串揚げパーティでもしようかと考えていると、ドアがノックされた。

 緊張が走る。ドアの陰に隠れるようにロルフとアーサーが構え、ロアさまはドアから離れる。その前をエドガルドとレネが固めたのを確認してからクリスがドアを開けると、マリナがいた。


「マリナ嬢ですか。どうぞ入ってください」


 ささっとマリナを招き入れ、クリスが素早くドアを閉める。

 美少女メイド姿のクリスに緊張したマリナは、わたしを見つけてほっとした顔をした。


「突然来てすみません! ご報告がありまして」


 マリナは、普通のトーンで、とんでもないことを言った。


「トールが、毒らしきものを発見しました」

「それは本当か!?」

「はい。商品は粉状になっているのはご存じだすよね? そのうちの一つが、食材が持つ効果を増幅させることがわかったんだす。でも、学校にある機械は古くて、絶対とは言いきれないだす。お城で分析をお願いします」

「ふむ……増幅させると言ったが、具体的には?」

「例えばだすけど、血液をさらさらにする効果があるものと一緒にすれば、血が止まりにくくなります。体にいいとされている細胞を増やすんでも、増えすぎたら病気になるだす。ほんで、特定の調理法が必要な可能性が高いだす。白身魚を煮る場合は、この配合のものを使うだとか、肉によって使う種類を変えるだとか……」

「今わかっているものはあるか?」

「まとめてますです。トールが見つけただす」


 渡された紙をざっと見て、ロアさまは頷いた。


「ここに書いてあることは、マリナ嬢もわかるだろうか? それとも、トールを連れてきて説明したほうが?」

「おらでもわかりますが、トールのほうが詳しいと思います」

「わかった。クリス」

「かしこまりました」


 さすがトール! わたしの自慢の弟! すごい!

 誇らしくなって笑っていると、マリナがわたしを見て微笑んだ。


「さすがトールの姉さまだすなぁ。こないだ、研究室に来たと聞きました。それからトールがすごくて……執念と熱意と、ティアンネ様に仇なす者はすべて炎に焼かれろという思いで見つけただすよ!」

「……そう」


 どう返事をしていいか迷ったので、頷くだけにとどめておいた。



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