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恋の予感

 マリナが多めに持ってきてくれていた食材を使って、さっそく毒らしきものを作ることになった。

 手洗いしているロルフの後ろで、ペンと紙を用意したレネが細かに聞いている。


「瓶に入っているものの名前と、どうやって乾燥させたとか、全部教えてくれる?」

「へいっ!」


 緊張しきっているマリナだったが、しばらくすると喋りからぎこちなさが消えた。好きなことを話していると、緊張よりも真剣さが上回るらしい。

 さっきマリナが使っていたすり鉢や器などを用意して、自分の今の体調を紙に書いておく。

 脈拍だとか血圧だとか、そういうものを数値化する機械はここにないので、すべては自分の感覚が頼りだ。


「この毒っぽいものを食べた時、どんな症状が出たの?」

「咳が出たり体がだるくなったり……なんとなくだすけど、体そのものが弱っていくような気がしました。すぐ熱が出るようになったりとか、そういうんです。でも、これが原因だって気付かなかったから、パン粥に入れて食べたりしてたんだす」

「なるほど、調味料のような扱いだったわけだね」


 レネがわかりやすい例を出してくれたので、頭の中で電球が輝いた。

 わたし用にわかりやすく例えるのなら、この毒はしょうゆや薬味の位置づけだ。おいしいしょうゆが手に入って使っても、それが原因だとは思わない。まずは食材を疑う。

 風邪をひいておかゆを食べてもしょうゆを使うことはあるし、ネギだって入れる。


「この味付けが気に入っているのなら、材料を変えても使うよね。他の組み合わせもあるはずだし、どんな味付けにも対応できるようにしてるのかも。あのダイソンが、たったひとつしか毒の手段を用意していないなんて、有り得ない」

「あの……まだこれだって確定したわけじゃ……」

「もし違っても、マリナを責めることなんてないよ。本当にありがとう」

「準備ができたぞ。マリナ嬢、指導をよろしく頼むよ」


 ロルフのウインクにうろたえながら、マリナが頷く。

 わかる。ロルフがあまりに綺麗なウインクを連発するから戸惑うよね。

 何用のウインクなんだ? って思うだろうけど、それはロルフにとって息をするのと同じくらい自然な行動だから、気にしないで大丈夫だよ。


 マリナに教わりながらロルフが試作品を作りだすと、少し手持ち無沙汰になってしまった。レネが真剣にメモしているのを見て、私たちも気になることを書いておくことにした。


「まず気になるのは、他のものと合わせても効果が消えないかということです。水に溶かしたら毒性が消えてしまうかもしれませんし……これは、料理人にダイソンの味方がいるでしょうね。マリナ嬢によれば、オーブンなどで200度以上に熱することが仕上げだとか」


 アーサーの疑問を、クリスが綺麗な字で書きとめる。


「肉や魚など、種類によって効果が異なる可能性もあります。それらを研究しているのなら、かなりの時間と人手と費用が必要になるはずです」


 答えるエドガルドの顔色は、相変わらず少し悪い。

 自分の領地がどう扱われるか、自分たちに罰が下るかの瀬戸際なのに、連絡すらできないのだから、不安にもなるだろう。

 エドガルドとロルフの家族を、陛下が調べていると聞いている。それが終わるまで、ふたりは軽い監視対象だ。


 ロアさまもみんなも、二人がそんなことに加担しているわけがないと信頼しているけれど、気持ちと行動は別のものだ。

 信頼しているからこそ、監視して調査し、何もなかったと胸を張って言えるようにするのだと、ロアさまは言っていた。

 それを聞いた時の、エドガルドとロルフの誇らしそうな顔といったらなかった。

 男同士の友情だとか信頼だとかは、女同士のものとは違う。どうにも理解できないこともあるけれど、本人たちが納得しているので、それでいいのだろう。


「ふう、これで終わりか。かなり複雑な手順なんだな」


 作り終えたロルフが、できたものを瓶につめる。おそらく初めて調理をしたロルフは、軽く手を振った。


「お疲れ様です。メモを貼っておきますね。しばしお休みください」


 クリスが瓶を密封し、メモを貼り付ける。

 メイド服の長いスカートをものともせず、早足で瓶を持って行ってしまった。


「正直に言うと、おらにはどの工程で毒が発生するかわからないんだす。いらないところもあるんだろうけど、わからなくて……」

「よく見つけたよ! マリナ嬢もきっと褒美をもらえるぞ」


 明るいロルフの笑顔に、マリナがほっとしたように息を吐いた。


「手がかりもつかめなかったから、マリナの情報は本当にありがたいよ。複雑だし、食べ続けなきゃ効果がでない。城でもわからないはずだよ」

「レネの言う通りですよ。マリナ嬢に協力していただいたおかげです」

「あんれえ……」


 顔を真っ赤にしたマリナは、キャパオーバーしたように動きを止めたあと、わたしのほうへにじり寄ってきた。


「わかる、わかるわマリナ。顔面の暴力よね。ジャニーズのような顔とオーラを近くで浴びせられたら、それはもう目潰しと同じなのよ」

「へえ……こんなにきらきらしたお方が近くにいるなんて初めてで……」

「トールは可愛いものね」

「トールは世界一かっこいいです!」


 言いきったマリナは、自分の発言に驚いたあと、これ以上ないほど顔を赤に染め上げて、手で顔を隠してしまった。

 こんな状況だけど、少しほっこりした。シスコンを隠さないトールを好きになってくれるレディがいるなんて、姉としてこんなに嬉しいことはない。



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